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次期戦闘機が日英伊共同開発となった5つの理由

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
航空自衛隊のF2後継機となる次期戦闘機のイメージ図(防衛省提供)

政府は9日、2035年までに英国とイタリアとともに次世代戦闘機を共同開発すると発表した。戦後の日米同盟の強固な有り様を考えると、次期戦闘機(FX)開発という一大国家プロジェクトでアメリカ以外の国々と手を組むのは極めて異例だ。

なぜアメリカではなく、英国とイタリアとなったのか。防衛装備庁担当者が8日に実施した事前プレスブリーフィングやその他の防衛外交関係者の話を総合すると、日英伊の共同開発となった主な理由としては、以下の5つが挙げられる。

●タイミングの一致

「大事なのはそれぞれの国に2035年に完成させるという同じタイムラインがあること。それがないとなかなか難しい。英伊については、国際共同開発を指向した同じタイムラインのプログラムがあった。逆にアメリカにはそうしたプログラムがなかった」。防衛装備庁担当者はこう明かした。

日本の防衛省は、F2戦闘機の退役が見込まれる2035年からのFXの配備を目指している。一方、英国も現行の戦闘機ユーロファイター・タイフーンの後継として、「テンペスト」の2035年までの実戦配備を目指している。FXとテンペストは同じスケジュールでもあり、日英伊の連携を円滑にしている。

なお、テンペストは無人機(UAV)群との連携計画を含む、英国の「将来戦闘航空システム」(FCAS)の中核を成す。このFCASはイタリアとスウェーデンの参画が決定しているが、スウェーデンはFCASのみに関与し、テンペストの共同開発には加わらない。

●要求性能

2つ目に、日英伊が次期戦闘機に求める性能だ。新戦闘機のコンセプトは、互いによく似ている。日英両国とも海洋国としての航空優勢を確保するため、最新のステルス戦闘機F35にはない長い航続距離と、ミサイル搭載量に優れた双発エンジンを持つマルチロール(多用途)の大型ステルス戦闘機を必要としている。

アメリカのF35やヨーロッパのユーロファイターを超える戦闘機を造る。特にセンサーやネットワークの能力で秀でた戦闘機を造る」。防衛装備庁担当者はこう抱負を述べた。

航空自衛隊のF2後継機となる次期戦闘機のイメージ図(防衛省提供)
航空自衛隊のF2後継機となる次期戦闘機のイメージ図(防衛省提供)

●コストとリスクの低減

3つ目として、ミドルパワー(準大国)である日英伊の共同開発で互いに開発費用と技術リスクの低減を図ることができる。戦闘機の開発費はもはや1国だけでは賄いきれないほど巨額だ。1990年代に開発された欧州4カ国のユーロファイター・タイフーンやアメリカのF22の開発費は2兆円を超えた。F35の開発には米英など8カ国が参加し、開発費は6兆円を優に超えた。

欧州では、テンペストとは別に、すでにフランスとドイツ、スペインの3カ国が新戦闘機「NGF」を含むFCASの共同開発を進めている。このため、英国は東アジアの日本に白羽の矢を立てた。日本には資金があり、事業分担で主導権も握りやすいと判断したようだ。

●改修の自由

4つ目として、開発後の独自の改修のために必要なソースコードをアメリカが日本に開示しない方針を示したことがある。プログラムの設計図にあたるソースコードにアクセスできなければ、日本は後に改修の自由を奪われてしまう。これはF2戦闘機やF15戦闘機導入で日本が学んだ苦い教訓だ。

と言うのも、アメリカにとっても、戦闘機は最先端の軍事機密技術の塊だからだ。アメリカは戦闘機開発では、たとえ同盟国といえども、日本に対しては厳しい態度をとってきた。「重要な先端技術が外国の手に渡れば自国の技術覇権が弱まりかねない」と警戒し、同盟国の日本であっても技術供与に消極的だった。

これに対し、英国は日本がF2の開発時に苦しんだエンジンとレーダーの共同研究や基本設計での協力を申し出ていた。このため、防衛省内では「英国とであれば、米国と違って対等なパートナーになれる」との期待がかねてあった。

なお、防衛省と米国防総省(ペンタゴン)は9日、次期戦闘機をめぐる日米のあつれきの懸念を払うかのように、共同声明を同時に発表した。「米国は、日米両国にとって緊密なパートナー国である英国及びイタリアと日本の次期戦闘機の開発に関する協力を含め、日本が行う、志を同じくする同盟国やパートナー国との間の安全保障・防衛協力を支持する」。共同声明は冒頭でこう強調した。

中露といった権威主義の国々に対抗し、アメリカは自由や民主主義、法の支配といった価値観を共有する同盟国間の相互運用性と結束を高めるためにも、日本政府の今回の決定を尊重し、歓迎したとみられる。日本も5月に当時の岸信夫防衛相が訪米し、次期戦闘機の日英共同開発について米側に説明するなど、根回しを入念に行ってきた。

日英伊による次期戦闘機共同開発に関する防衛省と米国防総省の共同発表文(防衛省提供)
日英伊による次期戦闘機共同開発に関する防衛省と米国防総省の共同発表文(防衛省提供)

●輸出を視野

最後に、日英伊は効率的な共同開発で生産機数を増やして量産単価を引き下げ、将来は海外市場へ売り込むことを視野に入れていると考えられる。英国とイタリアは欧州市場、日本はASEAN(東南アジア諸国連合)などアジア市場への輸出がそれぞれ予想される。

なお、防衛装備庁は、次期戦闘機の共同開発が多額の資金を投じて実施する国家プロジェクトであることから、経済全般にかかわるようなプラス効果を実現したいとの意向を示している。特にリベラル民主主義の価値観を共有する日英伊の間の科学技術やサプライチェーンでの協力を追求している。

「より具体的に言えば、デジタルトランスフォーメーションや3Dプリンティングといった先進的な製造プロセスにどんどん投資をする。単に防衛装備品ではなく、次世代の技術者や専門家など人や技術への投資をする。経済全般への波及をしっかり実現していきたい」。防衛装備庁担当者はこう抱負を述べた。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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