防衛省、次期戦闘機開発費1432億円を概算要求「日英伊で開発を協議中」
防衛省は8月31日、2023年度防衛予算の概算要求を過去最大の5兆5947億円とすることを決めた。このうち、航空自衛隊のF2戦闘機の後継となる次期戦闘機(FX)の研究開発費として1432億円を予算要求した。内訳は機体の基本設計など戦闘機開発自体に1401億円、戦闘機用エンジンの効率性向上や次期戦闘機と連携する無人機のコンセプト検討などの関連研究に31億円となっている。
政府は次期戦闘機について、英国とタッグを組み、共同開発を始動させている。英国が開発中の次世代戦闘機テンペストと計画を統合し、機体を共通化する方向で調整している。また、英国にイタリアを加え、日英伊の3カ国で共同開発する協議が進行中だ。
防衛装備庁担当者は「英国とは機体をどの程度共通化できるかという共同研究作業を行っている。それに合わせてエンジンの共同実証事業を今年初めから英国と一緒に行っている。今年末までに日英協力の全体像を決める。エンジンを含めて、機体の共通化をどの程度できるかとの分析を踏まえて、一緒にできるということがわかれば来年から基本設計など次の段階に入っていく」と述べた。
森本敏・元防衛相も5月末、筆者の取材に対し、「日英は2022年末までにエンジンの実証事業の分析を行う。それが順調な成果を出せば、次にそのエンジンで実際にどういう機体を設計できるかを踏まえて、2023年度から機体の基本設計を始める」と述べた。
防衛省は、F2戦闘機の退役が見込まれる2035年ごろからの次期戦闘機の配備を目指している。政府は開発経費を明らかにしていないが、数兆円規模に上るとみられる。一方、英国も現行の戦闘機ユーロファイター・タイフーンの後継として、テンペストの2035年までの実戦配備を目指している。
日英は効率的な共同開発で生産機数を増やして量産単価を引き下げ、将来は海外市場へ売り込むことを視野に入れていると考えられる。英国は欧州市場、日本はASEAN(東南アジア諸国連合)などアジア市場への輸出がそれぞれ予想される。
日本の防衛省と英国防省は2021年12月、両国による次期戦闘機エンジンの共同実証事業を2022年1月から開始すると発表。これを受け、日本のIHIと英ロールス・ロイスが日英双方向けの次期戦闘機用エンジン実証機を共同開発している。また、日英両政府は2月、協定書を結び、次期戦闘機向け高性能レーダーの共同開発を開始したと発表した。
テンペストは無人機(UAV)群との連携計画を含む、英国の「将来戦闘航空システム」(FCAS)の中核を成す。このFCASはイタリアとスウェーデンの参画が決定しているが、スウェーデンはFCASのみに関与しテンペストの共同開発には加わらない。これとは別に、欧州ではすでにフランスとドイツ、スペインの3カ国が新戦闘機「NGF」を含むFCASの共同開発を進めている。
このため、英国は東アジアの日本に白羽の矢を立てた。日本には資金があり、事業分担で主導権も握りやすいと判断したようだ。英軍事週刊誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』は6月1日、日本が英主導のFCASとテンペストの開発協力に向けて協議に入ったと報じていた。
イタリアは2020年12月、テンペスト開発に参加する覚書に調印した。このため、次期戦闘機の日英共同開発に開発国として参加することに強い関心を示してきた。次期戦闘機の開発について、防衛装備庁担当者は「日英にイタリアを加えて3者で協議している」と認めている。
テンペストを開発する「チーム・テンペスト」は英空軍(RAF)の緊急能力局(RCO)のほか、BAEシステムズ(航空システム担当)、ロールス・ロイス(エンジン)、MBDA(ミサイル)、伊レオナルドの英国法人(センサーと通信ネットワーク)からなる。日本がロールス・ロイスのエンジン技術を生かした機体を設計するのであれば、トーネードやユーロファイターといった戦闘機の開発を手がけるなど、この分野で先駆者であるBAEシステムズからの協力が不可欠になると見込まれる。
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