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『さよならマエストロ』“偉大なる予定調和”だけで終わらなかった2つの要素 自立自走こそ真の再生

武井保之ライター, 編集者
TBS日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』公式サイトより

TBS日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』が最終話を迎えた。これまでの回で描かれてきたエピソードをストーリー的にも映像的にも気持ちよくまとめる、テレビドラマの王道を堂々と突っ走る美しい終わり方だった。

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第2話以降は予想を裏切ることなくストーリーが進んだ

世界的に活躍する天才指揮者が地方の素人オーケストラを再生していくという既視感のある設定とストーリーから、当初は予定調和の物語になると思われた本作。

フタを開けてみると、第1話のラストで描かれたのは、主人公・夏目俊平(西島秀俊)の妻・夏目志帆(石田ゆり子)とオーケストラ団長・古谷悟史(玉山鉄二)のドロ沼不倫を匂わせるシーン。

家族愛とオーケストラの成長を描くヒューマンドラマにサスペンス要素が加わる異色の作風かと期待されたが、第2話以降は音楽を軸にした青春と成長の王道のストーリー展開となった。

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その後は予想を裏切ることなく最終話まで進んだ本作だが、予定調和だけで終わらなかった要素が2つあった。

ひとつは俊平と志帆の離婚。まったく家庭を省みず、子どもたちとの関係性を築けない俊平を見限り、志帆は離婚をつきつけるが、数々のエピソードを経て俊平は子どもたちと心を通わせ、これまでの自らのすべてを反省した。

もう一度家族としてやり直すのかと思いきや、もとへは戻らなかった。両親の離婚に傷つくであろう高校生の息子・海(大西利空)は「結婚している、離婚しているとかどうでもいい。ほどよくバラバラなのが、うちの家族にあっている」と前を向く。

復縁するだけが家族の幸せではない。音楽家の父と美術家の母それぞれの1人の人間としての生き方を尊重する、現代らしい価値観のひとつの家族のあり方を示した。

自立自走の道筋を作った俊平の晴見フィル再生

そしてもうひとつは、解散の決まった晴見フィル再生を道半ばにして、俊平はドイツへ旅立つこと。仙台のオケフェスで優勝し、スポンサーがついて活動継続という予定調和には至らなかった。

ただ、娘の響(芦田愛菜)は、父との関係性を修復するのと同時に過去の心の傷から立ち直り、バイオリンを手にして晴見フィルのコンマスに就く。未来の指揮者を目指してバイオリンの練習をはじめた高校生の天音(當真あみ)は、晴見フィルの指揮者を任される。そして、晴見フィルのメンバー全員が有名指揮者を頼らずに自分たちの音楽を奏でようと前を見据える。

そんな自立自走の道筋を作ったことが、俊平による晴見フィルの再生であり、それを通して俊平は自身の再生への道を歩き出した。それは“道半ば”ではなく、これからも続いていくお互いの再生への道のりの過程であるのかもしれない。

最終話は、これまでの回で綴られてきたピースがすべてきれいにピタッとはまった、絵に描いたようなハッピーエンド。良くも悪くも(?)テレビ連続ドラマらしい王道のど真ん中を疾走したドラマだった。

ひとつ余白を残したとすれば、俊平と志帆の離婚がどうなったか。俊平は離婚届に判を押したものの、お茶をこぼして用紙をダメにしたあとは描かれなかった。その行末は視聴者それぞれの心に委ねている。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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