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『さよならマエストロ』“ドロ沼匂わせ”から王道に舵切り 西島秀俊、毒のない色気と笑顔でけん引

武井保之ライター, 編集者
TBS日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』公式サイトより

 TBS日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』第2話が放送された。第1話のラストでは、主人公の妻・夏目志帆(石田ゆり子)とオーケストラ団長・古谷悟史(玉山鉄二)のドロ沼不倫を匂わせるサスペンスフルなシーンで次週へのフックとしていたが、第2話冒頭であっさりと種明かしされた。

(関連記事:ドロ沼サスペンス?『さよならマエストロ』今期No.1ドラマの予感 芦田愛菜&當真あみ再名演にも期待

新木優子が不倫劇パートの真打か

 本作は、解散が決まっている地方のオーケストラを舞台に、世界的に活躍してきた天才指揮者・夏目俊平(西島秀俊)による素人オーケストラの成長と、ある事件で家族の絆を失った天才指揮者の親娘の再生を描くヒューマンドラマ。

 そんな本作の第1話ラストで、サスペンスチックなドロ沼不倫劇も描かれるのかと思わされたが、フタを開けてみれば、正反対の伏線だった。予想はされていたが、歴史ある日曜劇場ドラマ枠らしい健全で前向きな王道のヒューマンドラマという方向性が見えた。

 ただ、そんななか、不倫騒動で前の楽団の和を乱してクビになったフルート奏者・倉科瑠李(新木優子)が、オーケストラに加わった。主人公の妻には、家族に隠れて近くで生活するなかで見つかってはいけない、という別軸のストーリーが示されたが、フリであった“ドロ沼不倫”設定と比較すると明らかに弱い。そこで代わりに、新たなドロ沼の芽が投入された形になるのかもしれない。まだドロ沼路線の復活への期待を持ってもいいだろう。

似ている?西島秀俊と宮沢氷魚のいい人オーラと色気

 しかし、匂わせの種明かしがされた第2話もおもしろく見た。王道のヒューマンドラマとなりそうな本作をけん引するのは、西島秀俊の毒気ゼロの色気と笑顔だろう。夏目俊平は、人当たりがよくて優しく、常に人に興味を持つ。実績のある天才指揮者でありながら腰は低く、語り口は丁寧で穏やか。

 少し抜けているところと、その笑顔が色気になっている。まさに西島の真骨頂といえる役柄だろう。すべての人を包み込むような大らかな本人の人間性がそのまま反映され、劇中のさまざまな出来事の行末に多幸感をもたらしそうだ。

 そんな西島とタイプが似ているのが、トランペット奏者・森大輝を演じる宮沢氷魚。いい人しか出てこないドラマのなかで、ツートップの突き抜けた善人っぷりが色気となり物語を引っ張っている。

 一方、気になるのは、この先、新木優子がふたりにどう絡んでくるのか。サスペンス好きドラマファンにとっては、ドロ沼展開の一縷の望みが彼女に託されている。

定型フォーマットからはみ出さない日本の連続ドラマ

 話は変わるが、同じ音楽をテーマにしたドラマでも、韓国ドラマ『ペントハウス』(SBS)はすさまじい。芸術高校の音楽科を目指すセレブ家庭と貧しい家庭の中学生の受験戦争が冒頭のメインになるが、主人公を含めた登場人物全員が自分勝手で激情家で善人からはほど遠い。

 完全な利己主義で、遵法精神に乏しく不倫やいじめは当たり前。何度も凝りずに暴力沙汰を引き起こしては悪手を重ねていく、決して善人ではない人たち。途中から誰が主人公なのかわからなくなるような、韓国ドラマのなかでも飛び抜けて激しいサスペンスだ。

『さよならマエストロ』は日曜劇場らしい素晴らしいドラマであり、『ペントハウス』のような展開を期待しているわけではない。一方、数ある日本の連続ドラマが決まりきった定型フォーマットの枠から、なかなかはみ出さないなか、そこを突き抜ける“おかしいドラマ”の登場も期待してしまう。

 今期はまだ宮藤官九郎脚本のTBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』がこれからスタートする。数々の変化球的名作を生み出してきたクドカンの新作だけに、型破りなストーリーを期待したい。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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