楽天イーグルス・岡島豪郎 選手会長が、恩人・星野仙一 元監督に日本一奪還を誓う
■テーマは「脱力+シンプル」
「今年のテーマは脱力+シンプルです」。東北楽天ゴールデンイーグルスの岡島豪郎選手は自主トレ中、こう明かした。
一昨年はいいときの自分に戻そう戻そうとしてうまくいかなかった反省がある。「そのときどきで体の状態も違うのに、戻せるわけはない」と気づいた昨年は、戻るのではなく、そのときの状態に合わせて対応するようにした。
「結果だけ見たら(111試合、打率.260)、みんな『はぁ?』みたいな感じだと思うけど、ボク個人的には試行錯誤しながらできた部分はたくさんあったし、きついときも粘れたところがあったんで、よかったかなと思う」と昨年、数字以上の手応えが得られたと話す。
試行錯誤の内容としては「バッティングの中で、タイミングにしても足の上げ方にしても、その都度その都度、その日その日によって変えていけたから、よかったんじゃないかと思う」という。
臨機応変な対応は、まさに岡島選手がずっとやろうとしていたことであり、実際にできたことで自分の中のステップを一段登った。
そのときの自分に合ったものが出せたということは「間違いなく今年に生きるから。そこの確実性をもっと上げれば、もうちょっと率も残るだろうし。今年に繋げたいなと思う」。どうやら蒔いた種が芽吹き、今年は花を咲かせてくれそうだ。
■シンプルにひとつのことを求める
そんな中、テーマの「脱力+シンプル」とは?
元来が「考えすぎてしまう質(たち)」だと自己分析する。そこで、あれこれ考えすぎず、シンプルにひとつのことだけを求めるという。
そのひとつのことが「脱力」なのだ。バッティングにおいて「インパクトのとこだけ(力を)抜く!」そうだ。
いや、逆ではないのか。普通、インパクトだけ力を入れるのではないのか。
岡島選手の説明によると、こうだ。
「こう振ってて力を抜けば、勝手に手首がポンと返るでしょ。でも、実際はそんなことないんですよ。イメージね。実際はそういうふうにはできないから。力入るから、絶対に。ただのイメージなんだけど」。
そうやってイメージすることが重要なのだ。そうすることで柔らかく使えたり、対応力が上がったりと、「変わってくる」という。
これまでも脱力は意識していた。「今年は特に、そういうことやってみようかなと。もうシンプルに、脱力だけを求めてみようかなと」。ここがポイントだ。
「ほかのことを考えすぎずに、今やりたいことは脱力だから、シンプルにこれだけを求める。邪魔者はいらない、みたいな。浮気しない、みたいな(笑)」。
そして「脱力」は現時点の話で、「1ヶ月後にはまた違うことをしようと思うかもしれない。たとえば『左手を返そう』ということがテーマになるかもしれない。そしたらそれだけをシンプルにやる」と今後、やりたいことが変化しても、そのことだけに取り組む。
つまり、あれもこれも意識するのではなく、シンプルにひとつのことだけに集約してやる。それがテーマに掲げる「シンプル」なのだ。
「いくつも繋げない。シンプルと何かひとつだけ。じゃないと、自分が難しく大変になっちゃうから」。その時々でシンプルに、ひとつのことだけを追求していく。
■サブさん(福山投手)に弟子入り
昨年は夏場にライトの守備で左肩を負傷、「亜脱臼による関節唇損傷」と診断され、約1ヶ月戦列を離れた。不慮のアクシデントは防ぎようがないが、悔しい思いをした。
「ケガはできるだけしたくない。毎年やっぱあるんでね。そのために、ちょっとサブさんに弟子入りして、トレーニングやってます」と明かす。
「サブさん」とはチームメイトの福山博之投手のこと。昨季、4年連続65試合以上の登板を達成した鉄腕だ。故障に強い福山投手からの“秘伝の奥義”は相当キツそうだ。
今までやったことがなかったという「自重系のトレーニング」で、これまでとは違ったアプローチをしているとはいうが、「秘密のトレーニングなんで、内容は明かせないんですよ」と詳細は黙して語らない。
そんな話をしているところに、ちょうど福山投手が通りかかった。「明かしたらあかんで(笑)」。そう睨みを利かせて去っていった。
午前中みっちり取り組んでいたが、筋肉痛がハンパないそうだ。「初日から張ってて、筋肉痛が残りまくってます」と訴えていた。
詳細は頑ななまでに隠すが、「ケガ防止にはすごくいいと思います」というから、今季とても楽しみだ。
■考えすぎないように
さまざまな意識と取り組みでこのオフを過ごしてきたが、「ここからシーズンに入ってまた、自分の思ったようにいかないことは絶対に出てくるから。そこで自分がどうするか。昨年と同じような課題になっちゃうけど、どうするかっていうところでどうにかして、もうちょっと確実性を上げていけたら、自ずと結果はついてくるもんだから」と、先を見据える。
「いくとこまでいってみて、壁に当たったら考えなきゃいけないし、常にそういうことを考えながらバッティングしたい。こうなったらこうなる、というのを」。
ただし、「考えすぎないように」というのは変わらず自身に課している。
■選手会長として
今季は選手会長に就任した。「せっかくこういう立場をもらったんで、自分自身も勉強だし、選手との間に入っていい関係を繋げられればいいし、もっともっとよりよいチーム目指してやるためには、まとまんなきゃできないことだから。ま、ボクがまとめようとしなくても、いろんな先輩方いるんで力借りながら。ボクひとりでは絶対無理なんで、みんなで頑張っていきたいですね」。
これまでより広い視野が求められるが、それも自身の成長の糧としていくつもりだ。
■亡き恩人・星野仙一 元監督
1月4日、星野仙一 元監督が他界した。岡島選手にとってもかけがえのない人だった。
「星野さんいなかったらボク、ほんと今、野球でごはん食べられてるかわからないし、本当に感謝している。声かけてもらう度に『頑張らなきゃ』っていう思いもあったし」。その存在は限りなく大きかった。
キャッチャーとして入団した2012年は36試合でマスクをかぶったが、翌年は出番が激減した。危機感から自ら外野を志願した。
「当時のコーチと練習はしてたんですよ、ちょろっと遊び程度で。で、今がチャンスだなぁと思って」と、後半戦が始まる直前の決起集会で意を決し、当時の星野監督に「使ってください!」と直訴した。
実はそれまで話しかけたこともなかったという。「全っ然、話をしたことなんてないですよ。『おはようございます』って言うくらい」だった。かなり勇気を振り絞ったが、それくらい当時の岡島選手は切羽詰る思いでいたのだ。
「星野さん、『はははー!』って笑って、『練習しとけ』ってそのひとことだけでした」。
そういう選手、星野監督は大好きだ。どうやったら使ってもらえるか考え、工夫し、自ら積極的に訴える。きっと、岡島選手の心意気が嬉しかったに違いない。
「そしたらその次の次の日かな、『1番・ライト』でいきなり出させてもらって。そこからずっと我慢して使ってもらって。まぁミスもたくさんしたし、打てないときもありましたけど使ってもらって。それがあって今のボクがあるという感じなので、もうできる限りやりたいですよね」。
岡島選手の活躍もあって、その年、イーグルスは日本一に輝いた。星野監督は愛しい選手たちの手で宙を舞った。
そして今季、もちろん目指すはその年以来の優勝、日本一だ。
「特に今年は強いものがありますよね。ボクだけじゃないと思うんで。選手みんな思ってると思うんで。そういう思いをひとつにまとめて戦いたいですよね。やっぱバラバラで戦うより、まとまって戦ったほうが人間、強いに決まってるんで。選手だけじゃなくて、裏方さん含め、球団スタッフ、監督やコーチももちろんそうですし、まとまったほうが絶対に強いんで。なんとか頑張りたいです」。
岡島選手会長が中心となり、ひとつにまとまったチームが優勝、そして日本一に向かう道のりを、星野 元監督も空の上から目を細めて見守ってくれているだろう。
「はははー!」と大きな声で笑いながら。
(撮影はすべて筆者)
【岡島豪郎*関連記事】