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「子連れ鉄道旅」が誰にでも快適であるために 専用車両や幼児マークは実現できるか

梅原淳鉄道ジャーナリスト
大型連休中の東海道新幹線東京駅。子連れの人たちも大勢利用する(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

大きな反響を呼んだYahoo!ニュースの記事

 子どもを連れて東海道新幹線を利用した際に隣席から「最悪」「ハズレ」というつぶやきが聞こえ、不愉快な思いをした――。2022年11月のYahoo!ニュースに掲載されたこの記事は、コメント欄やSNS上などで大きな反響を呼んだ。記事に対するコメントで多かったのは「子連れ専用車両があればよいのでは」というものであった。

 Yahoo!ニュースではこの問題の解決を目指し、Voiceの記事「新幹線の子連れ利用、あなたはどう思う?―専門家『子連れ専用車両の運行に必要なのは"指定席予約システム"の改善』」を制作し、2022年12月29日に公開済みだ。同記事に埋め込まれた動画上で筆者(鉄道ジャーナリスト梅原淳)は専門家として子連れ専用車両の運行の前提となる指定席予約システムの現状と課題とを解説して実現の可能性についての意見を述べ、改めて皆様のご意見・ご感想を募っている。

 Voiceの記事公開後、子連れ専用車両の導入についてや新幹線の課題についてユーザーの皆様からご意見を募ったところ、2000件を超えるコメントが寄せられた。今回、皆様からのご意見をもとに、子連れの人も、そうでない人もお互いに気兼ねなく、新幹線での快適な旅を楽しめる方策を提案したい。

 本題に入る前に前提となる条件を確認しておこう。まず、「子連れ」の「子」とは1歳未満の乳児、1歳以上6歳未満の幼児で、特に言葉を発することのできない乳幼児を連れて新幹線を利用する際に生じる問題の解決を今回の記事では主眼とする。子連れの人が気を使う乳幼児の行為の一例としては、幼いためにどうしても上げてしまう声にまつわる周囲との摩擦を挙げておきたい。具体的には泣き声である。乳幼児が泣く原因のうち、不快を感じる要素は、空腹を我慢できない、オムツが濡れているなどが定番で、周囲の乗客には大目に見てほしいと筆者は思う。一方で子連れの人も子どものためにもそうした要素をできる限り迅速に取り除いてほしい。

 新幹線ではこれに加え、車内が暑すぎたり寒すぎたりとか、トンネルに入って耳がツンとする、上下または左右に強い加速度を感じたなど、残念ながら大人でも我慢しづらい状況がまま発生する。乳幼児に対して紙が触れ合うほどの音も立てないといった静粛さを求めるのは酷であり、皆様のご協力を筆者からもお願いしたい。

 なお、新幹線の列車が運行される時間帯から考えて、乳幼児の夜泣きが車内で起きる可能性は少ないかもしれないが、夕刻の「黄昏泣き」は起きると考えられる。このような事態となったら子連れの人は客室からデッキなどへ退避するケースが大多数であろう。このような場合、乗務員に一声掛けたうえで、東海道新幹線の列車の11号車に設置されている多目的室が空いていれば利用してよいとJR東海の担当者からアドバイスを得た。もしも、子連れの人が途方に暮れているようであれば、周囲の乗客からも乗務員に一声掛けてほしい。

新幹線の車両に用意された多目的室。写真は山陽・九州新幹線用の車両で、東海道新幹線用も色彩が異なるほかはほぼ同じだ。ベッド(写真)の状態でのほか、折りたたんで座席にもなる。2010年11月に筆者撮影
新幹線の車両に用意された多目的室。写真は山陽・九州新幹線用の車両で、東海道新幹線用も色彩が異なるほかはほぼ同じだ。ベッド(写真)の状態でのほか、折りたたんで座席にもなる。2010年11月に筆者撮影

子連れ専用車両は実現するのか

 本記事の公開約1カ月前に大型連休があった。実は東海道新幹線では繁忙期間中、東京-新大阪間に運転される「のぞみ」の12号車普通車指定席に「お子さま連れ専用車両」が設定されている。今シーズンは4月28日(金)から5月7日(日)までの10日間、新大阪駅方面、東京駅方面とも1日に2本、日によっては2本追加された4本の列車でこの車両の営業が行われた。

 JR東海のニュースリリースをもとに筆者が調べたところ、いま挙げたような子連れ専用車両は2010(平成22)年8月に1本の列車をまるごと貸し切る形の専用列車として2日間にわたって東京-新大阪間を1日1往復したのが初めてである。その後、同年の年末年始、12月25日から1月10日まで、通常運行されている列車の1両を「お子様連れ専用車両」(当時の表記)とする形態に変更された。コロナ禍での中断はあったものの、子連れ専用車両は多客期を中心に設定が継続されている。さらに、多客期だけでなく週末に用意されたときもあった。「のぞみ」のほかに各駅停車の「こだま」に設けられたり、普通車指定席だけでなく、グリーン車(全車指定席)に乗車できたりした時期もあったが、過去の利用実績から「のぞみ」の普通車指定席という今日の姿に落ち着いたようだ。

 期間限定とはいえ子連れ専用車両が設けられているので、これで一件落着かというとそうとも言えない。誰もが思い付くのは、現在子連れ専用車両が設定されていない多客期以外の時期にも連結してもらえないだろうかというものだ。

 東海道新幹線における季節であるとか月、曜日、時間帯ごとの利用動向、たとえば乗客の性別、年齢、旅行の目的といった情報はJR東海が保有する秘密の一つである点は容易に想像できる。ところが、Voice記事中の動画で筆者も指摘したとおり、実は子連れの乗客がいつ、どこからどこまで利用しているかはJR東海に限らず鉄道会社は完全には把握していない。なぜかというと小学生未満の乳幼児は一人で座席を利用する場合を除いて乗車券や特急券を購入する必要がないので、大人の乗客が子連れであるのか否かが鉄道会社にも判別できないのだ。

 それでは、乳幼児が一人で座席を利用する場合ならば、同時に乗車券や特急券を購入した大人が子連れの乗客であると認識されるかというとそうでもない。JR東海をはじめ、国内の鉄道には乳幼児だけを対象とした運賃や料金が設けられていないからだ。乳幼児が一人で座席を利用する際には6歳以上、12歳未満の子ども用の乗車券や特急券を購入する決まりとなっている。つまり、小学生であるのか座席を一人で利用する乳幼児かどうか鉄道会社にはわからない。

 国内の航空会社は、搭乗券の購入のいかんにかかわらず、搭乗する人の氏名、年齢を事前に申告することとなっている。筆者は航空業界には明るくはないのだが、船舶における乗船名簿と同様、万一の事態に備えて搭乗者名簿を作成する必要があるからであろう。

 現状の子連れ専用車両は、乳幼児を連れた乗客が確実に存在すると判明しているからこそ鉄道会社は設定していると言ってよい。したがって、多客期以外となると需要はあるだろうが、その需要がどの程度なのかを見極めることが極めて困難で、子連れ専用車両を毎日設定することは現実的ではないだろう。

国内線で見られる「幼児マーク」は新幹線には導入が困難か

 国土交通省は2010(平成22)年に実施した「全国幹線旅客純流動調査」によって、東海道新幹線を利用していると考えられる東京都・神奈川県、愛知県、京都府・大阪府相互間の鉄道(代表交通機関)の利用者数と旅行目的とを明らかにしている。秋のある平日1日では利用者数が10万3851人であったうち、旅行目的が仕事であった人たちは7万5638人で73パーセントを占めた。さすがに仕事目的の利用で子連れの人はほぼいないであろう。

 さて、秋のある平日1日に東海道新幹線を利用していると考えられる残り2万8213人の旅行の目的は観光、私用、その他、不明に分類される。これらのいずれも子連れでの利用が想定されるが、残念ながらこの調査でも子連れ利用の動向はわからない。

 一方で秋のある休日1日となると旅行目的の比率は逆転する。利用者数が11万6768人いたなか、仕事での利用は2万9047人と25パーセントに過ぎない。残る8万7721人の旅行目的は観光、私用、その他、不明のいずれかだが、例によって子連れの利用者数は不明だ。

 東海道新幹線の指定席特急券を購入する際、子連れの利用者が近くにいるかどうかがわかればお互いに嫌な思いをしなくて済むのではないか――。これは筆者も指摘した点で、お寄せいただいたコメントでも多くの方々が解決策として挙げていた。日本航空や全日空など国内線の搭乗券予約システムでも採用されていて、子連れの利用者が座席を予約した場合、航空会社でいう3歳未満を示す幼児が搭乗していることを示す幼児マークが表示される。

 子連れ利用を示す幼児マークはいますぐにでも導入してほしいところだ。しかし、JR東海の担当者によると、東海道新幹線では一度予約した座席を変更する乗客が多く、難しいという。子連れの利用者が座席を変更するケースはそうは多くはないであろうが、子連れではない利用者、特にビジネス客は筆者にも経験はあるがJR東海のエクスプレス予約といった座席予約サイトであれば何度でも自由に変更可能だ。その際に座席表を見ながら座席を選択すればよいが、窓側であるとか通路側などシステムに任せると子連れ利用マークのある座席の近くを予約する可能性が生じる。

 この場合でも、「子連れ利用者の近くの座席を除く」といった設定を座席予約システムに追加すればよい。けれども、混雑時にこの条件のおかげで座席を確保できないとなると苦情のもとになりそうだ。

 もう一つ、航空の搭乗券とは異なり、東海道新幹線を含めた鉄道の座席予約システム全体の特徴として、乗客それぞれが利用する区間が異なるケースが多いという点も挙げておきたい。たとえば、子連れ利用者の近くに座りたくないと希望する人が東京駅から新大阪駅まで座席を予約するとしよう。座席予約サイトにアクセスし、当然のことながら、座席表で幼児マークの付いている座席から離れた場所を予約する。

 ところで、東京駅から新大阪駅までの座席を予約しようとする人に示される子連れ利用者が実際に利用する区間は、東京駅から新大阪駅までとは限らない。両駅間のどこか一区間、極端に言うと、東京駅から品川駅までであるとか、京都駅から新大阪駅までの隣の駅同士であっても座席を予約すれば、子連れ利用と表示される。となると、子連れ利用者の近くに座りたくないとはいえ、短い間ならば別に構わないと考える人も現れるであろう。座席予約システムで乗車区間を示せばよいが、システムにこのような情報を表示する機能を付け加えられるかとの技術上の問題、乗車区間が個人情報に相当するのではないかと考えられ、そもそも表示できないのではないかとの懸念もあり、解決策を導き出すことは容易ではない。

静粛な客室を求める人用の車両は実現するか

 JR東海の担当者は、「のぞみ」の7号車普通車指定席でサービスが開始された「S Work車両」を勧めてくれた。S Work車両は仕事で利用する乗客を想定して設定され、同社によると「モバイル端末等を気兼ねなく使用して仕事を進めたいお客さま向け」である。ノートパソコンのキーボード音などビジネス上最低限の作業音を許容することが求められ、座席でのWebミーティングや携帯電話の通話も可能という点が目新しい。

 S Work車両を子連れの人は利用しないであろうが、そうかといって仕事で利用する乗客全員がこの手の車両に乗りたいとは思わないであろう。むしろ、静粛な車内を求めている人のほうが多いと考えられる。となると、かつて新大阪駅と博多駅との間を中心にJR西日本山陽新幹線の「ひかりレールスター」に設定されていた「サイレンス・カー」のような静粛さを全面に打ち出した車両を設けるほうが今回の問題の解決には近道かもしれない。

 筆者の見聞きした限りでは、JR東海の担当者はサイレンス・カーにあまりよい印象をもっていないようだ。2000(平成12)年春に登場したサイレンス・カーでは車内放送は流れず、車内販売員も無言で通り、乗客同士の会話もできる限り遠慮するよう求められていた。当初は好評だったそうだが、停車駅に近づいても車内の電光掲示板だけで知らせていた結果、乗り過ごす乗客が続出し、そして周囲の話し声がうるさいとの苦情が多く、いつしか利用が低迷してしまう。結局2011(平成23)年3月に姿を消し、復活の話も聞かない。以上の経緯からJR東海が導入をためらっているのであれば無理もない話だ。

暗黙のルールで快適な利用を図れればよいのだが……

 ほかにコメント欄では、座席予約システムやサービスの変更以外に利用者の暗黙のルールをつくれないかというご意見も寄せられた。たとえば、偶数車両は静かな環境を求めたい人を優先とするとか、客室前方の座席を子連れの人優先とするといったものだ。

 秀逸なアイデアと筆者は考えるが、新幹線を利用する人たち全員に果たしてこの暗黙のルールが浸透できるかとの問題が発生する。エスカレーターの利用法として先に行く人のために空ける場所が左側か右側かが全国的に統一されていない例を思い浮かべた人も多いであろう。たとえば、東海道新幹線では偶数号車が静かな環境を求める人が利用し、客室前方の座席は子連れの人優先というルールが浸透したとして、他の新幹線ではその逆に奇数号車、客室後方の座席でと決まってしまっては利用するほうが混乱する。また、客室の前方という位置は秋田新幹線の「こまち」のように、大曲駅で列車の進行方向が変わり、それまでと逆向きに走る列車では適用が難しい。

 とはいえ、こうした暗黙のルールはJR東海など鉄道会社が広めるべき事柄ではないと筆者は考える。このようなルールを知らないで新幹線の列車に乗車してしまうと座席の変更といった対応が難しいのも問題だ。時間をかけて浸透していくことに期待したいが、現時点での解決策とは残念ながらなり得ない。

ノイズキャンセリング技術で乳幼児の泣き声が気にならない日が訪れるか

 荒唐無稽かもしれないが、筆者は新幹線の車両が乳幼児の泣き声を打ち消すシステム、いわゆるノイズキャンセリングシステムの採用を提案したい。ノイズキャンセリングシステムには音を遮断する方式、そして耳障りな音を他の音で打ち消す方式がある。筆者が提案したいのは後者の方式だ。

 乳幼児の泣き声の周波数は、国立研究開発法人科学技術振興機構の論文データベースで閲覧可能な荒川薫明治大学教授著、「乳幼児泣き声の定量的解析と啼泣原因推定」、2007年によると、400~500ヘルツが基本的で、瞬間的には1000~2000ヘルツに達することもあるという。ちなみに大人の声の周波数は男性が500ヘルツ程度、女性が1000ヘルツ程度だそうだ。ということで、400~500ヘルツの音を打ち消してくれれば子連れの人にも周囲の乗客にとってもありがたい。

 仕組みは比較的単純で、客室に設置したマイクで集音し、乳幼児から発せられる400~500ヘルツの音が鳴ったら、音の波形と逆の波形の音を出して打ち消す。問題は逆の波形をどのようにして出すかで、あらかじめ収録した音をスピーカーを通して流すことが考えられるが、システムとして大がかりとなり、少しでも余計な機器を積まずに軽量化を図りたい新幹線の車両にとっては文字どおり重荷になってしまう。

 実は新幹線の車両には比較的容易に任意の周波数のそれも大きな音をつくりだせる装置が搭載されている。モーターの回転数を制御する主変換装置だ。この装置は16両編成を組む東海道新幹線の列車の場合、両端の先頭車両1・16号車を除く2~15号車、一部は1・3・6・11・14・16号車を除く2・4・5・7~10・12・13・15号車に搭載された。主変換装置に内蔵のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)またはIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)といった半導体は、加速時やブレーキ時には連続して交流電源の周波数を上昇または下降させるので、多少は客室でも音が響く。だが、速度が安定したら1万ヘルツから2万ヘルツと人間には聞き取りづらい周波数の音を発する。

 この半導体にあえて人間の耳に聞こえる400~500ヘルツ、しかも逆の波形の音を出してもらおうというものだ。技術面でいますぐ可能かは筆者には断言できない。とはいえ、かつてJR東日本や京浜急行電鉄の電車で使われていた半導体は、加速時やブレーキ時にけたたましく鳴り響く半導体の音を心地よいものにしようと、周波数を調整して音階を奏でるようにしていた。いわゆる「ドレミファインバータ」である。こうした技術をもとに主変換装置搭載の半導体によるノイズキャンセリングシステムを構築できるのではないだろうか。

 新幹線のノイズキャンセリングシステムによって乳幼児の泣き声を打ち消せるのであれば、筆者のような高齢男性が発する声も緩和してもらえ、他人に迷惑を掛けないで済む。客室の静粛化についてはJR東海をはじめ、鉄道会社各社は非常に熱心に取り組んでおり、単に騒音を減らすだけでは限界に近づいた。ノイズキャンセリングシステムの応用は新幹線の沿線で聞こえる車両の走行音を下げる試みにも役立つと考えられるので、今後の技術の進展に期待したい。ともあれ、現状では新幹線を子連れで利用する際の気がかりは完全には解決できないのがもどかしいところだ。お互いに助け合い、できる限り相手を不快にしないように努めていただくよう、筆者も切に願う。

 本記事の制作に当たり、コメントを寄せられた皆様のご協力に御礼申し上げます。また、東海道新幹線の列車の運行を担当するJR東海の協力のもと、有益な情報をご提供いただきました。重ねて感謝申し上げます。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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