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JR東日本 新幹線モニタリング車を導入~期待される役割と今後の課題は~

梅原淳鉄道ジャーナリスト
レールモニタリング車(左)と新幹線線路設備モニタリング車(右)

※タイトル写真はJR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影

膨大な長さの線路、設備、構造物の定期検査が常に求められる

 鉄道の営業で用いる線路であるとか各種設備は国土交通省が定めた基準に則って定期検査を行わなくてはならない。今回取り上げる新幹線にも事細かく基準が定められている。営業列車が運転される区間を例に紹介しよう。

 レールやまくらぎ、そしてレールやまくらぎを支える道床から構成される軌道は1年以内に、さらには軌道のうち軌道のずれと言って左右のレールの間隔や高さの差、レールの長手方向の上下左右の変位、一定の区間の水準の変化量は2カ月以内に定期検査を実施しなくてはならない。橋梁(きょうりょう)やトンネル、盛土などの構造物の定期検査の周期は2年以内だ。

 電力設備を見ると、異常時に架線や変電所などを保護するための遮断器は3カ月以内、架線のうち架線がそれぞれ接続、分岐、交差する場所は6カ月以内に、これら以外は1年以内に定期検査を実施する必要がある。信号装置や保安設備ではATC(自動列車制御装置)や線路を分岐させる転てつ装置のそれぞれ主要部分は3カ月以内に、信号を表示する装置、信号同士を一定の順序や制限を設けて作動させる連動機、列車運転用の無線装置などの通信設備のそれぞれ主要部分は6カ月以内にそれぞれ定期検査を行わなくてはならない。

 2024(令和6)年11月1日現在、全国の新幹線網の延長はフル規格、ミニ新幹線、フル規格に準じるJR東日本上越線越後湯沢駅-ガーラ湯沢駅間やJR西日本博多南線を合わせて3478.0kmに達する。新幹線の実際の線路の長さはもう少し短いとしても、検査すべき線路や設備の延長は膨大だ。軌道のずれ、架線の張り具合や摩耗の度合い、信号装置や保安設備、通信設備の作動状況などはJR東海やJR西日本が保有するドクターイエローやJR東日本のイーストアイと呼ばれる検査・測定用の車両、さらにはこうした装置を搭載した営業車両が日中に走行して定期検査を実施している。けれども、他の項目となると、営業列車の走らない深夜の時間帯に検査・測定用の装置を搭載した作業車を走らせて行うほか、担当者が徒歩で巡回し、目視で行うケースも多い。

 定期検査の担当者たちの努力には頭が下がるものの、今後を見据えると課題は多い。人手不足で目視での検査・測定を行える担当者が少なくなると予想されており、するとますます担当者の負担は増す。そのようななかでも列車の運行の安全性や安定性に万全を期すとなると、いまのうちに対策を講じる必要が生じるからである。

 真っ先に考えられるのは、ドクターイエローやイーストアイといった検査・測定用の車両が実施できる項目を増やすという点だ。しかし、専用の車両でも搭載できる検査・測定用の装置の数には限度があるし、営業列車と同じく時速200kmを超える速度で走行しながらの検査・測定が不可能な項目も存在するから、すべての定期検査を担わせることは難しい。

JR東日本が目指す線路のメンテナンス像から誕生した新幹線モニタリング車

 いま挙げた経緯もあり、JR東日本は線路のメンテナンスの近代化を図るべく、ICTと呼ばれる情報先端技術を採り入れた「スマートメンテナンス」づくりを進めている。その一環として同社は新たな技術をふんだんに盛り込んで主に軌道の検査・測定を実施する2種類の新幹線モニタリング車を導入した。レールの状態の検査を行う新幹線レールモニタリング車、通称「SMART-Green」、それからレール以外の軌道の状態の検査を行う線路設備モニタリング車、通称「SMART-Red」だ。同時に、軌道に関して測定されたデータの解析から担当者の確認、判断までに至る一連の保守作業を一つのプラットフォーム上で実施可能な業務システム「S-RAMos+(Shinkansen Railway track Advanced Monitoring operating system Plus」も開発され、新幹線モニタリング車に搭載されて用いられることとなった。

 新幹線モニタリング車のうち、新幹線レールモニタリング車はすでに2023(令和5)年6月から稼働中で、2024(令和6)年12月には線路設備モニタリング車も使用が始まり、S-RAMos+ともどもJR東日本が目指すスマートメンテナンスが本格的に稼働する。線路設備モニタリング車のデビューを前に同社は新幹線モニタリング車2台を2024年11月22日に公開した。その模様を紹介しよう。

 東北新幹線、上越新幹線のともに全線、北陸新幹線の高崎駅-上越妙高駅間のフル規格新幹線区間での使用される2種類の新幹線モニタリング車の外観はよく似ている。どちらも全長は18.4mで、他の車両の牽引に充当される機関車のような形状をもち、両端には乗り降りや監視などに使用できるデッキが装備された。2台とも車体のうち、東北新幹線新青森駅寄りの運転室の直後に走行用のディーゼルエンジンが搭載されている。ディーゼルエンジンで生み出された動力は自動車でいうオートマチックトランスミッションに相当する液体変速機でトルクを変換した後、プロペラシャフトを通じて新青森駅側の台車に装着された車軸2軸を動かす。ちなみに、助数詞を「両」ではなく「台」としたのは、2種類の新幹線モニタリング車とも鉄道の法規上の車両ではなく、備品扱いとなる車または機械として扱われているからだ。しかしながら、2024年はこの手の車、機械が起こしたトラブルが頻発した。筆者はこの手の車、機械を「準車両」と法規上分類し、一定の基準に則って管理させるべきと国土交通省に申し入れたことがあるが、特に変化もなくいまに至る。

 新幹線モニタリング車に搭載されたディーゼルエンジンの形式、出力などは不明だ。2台に取り付けられた製造銘板にある松山重車輌工業によると、似たような姿の「レール探傷車MS0224」のディーゼルエンジンの定格出力は221kW(300馬力)、このときの回転数は毎分2000回転であるという。恐らく、2台とも同様の仕様だと思われる。ディーゼル機関車であれば735kW(1000馬力)が標準的とも言える仕様となるので、出力が低いのではと心配になるかもしれない。だが、最高速度は時速70kmであるうえに他の車両をけん引しないので負担は少ない。一方で北陸新幹線の最も急な勾配である30パーミル(水平方向に1000m進んだときに30mの高低差が生じる)を想定した38パーミルの勾配でも登坂可能だと言うから、動力性能は十分であろう。

 製造銘板というと、新幹線レールモニタリング車には松山重車輌工業に加えて東京計器レールテクノの名も見える。同社のホームページに掲載のカタログを見ると、新幹線レールモニタリング車にうり二つの外観をもつ超音波レール探傷車が2023年に日本線路技術に納入されたとある。日本線路技術とはJR東日本から委託されて2台の新幹線モニタリング車を実際に操作して検査・測定を担当する企業の名だ。

 新幹線レールモニタリング車の製造を2社がどのように分担したのかはわからない。先ほどまで説明なしに用いていた「レール探傷」、つまりレールの傷を探す機能を東京計器レールテクノが、全体の組立を松山重車輌工業がそれぞれ担ったのかもしれないが、あくまでも筆者の推測である。

新幹線レールモニタリング車の特徴

 2台それぞれの詳細をSMART-Greenと呼ばれる新幹線レールモニタリング車から見ていこう。レールの観察、記録が主体とあってこの車の特徴は床下に集中している。新青森駅寄りから見て床下には、まずは走行装置である台車、続いてレールの頭頂面を撮影するために直線状にセンサーが並べられたラインセンサーカメラを収めたレール頭頂面撮影装置と続き、ほぼ中間部分に昇降式の台車のような装置が目に付く。

超音波レール探傷装置は2対の車輪の間に配置された。車輪の外側に見える縦型の箱に収められているのはレール凹凸測定装置だ。JR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影
超音波レール探傷装置は2対の車輪の間に配置された。車輪の外側に見える縦型の箱に収められているのはレール凹凸測定装置だ。JR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影

 台車のような装置はこの車のメインの装置と言ってよい。前後の車輪の中間にはレールの台座まで届く超音波を発射してレールの傷を探す超音波レール探傷装置が、前の車輪の前側、後ろの車輪の後ろ側にはそれぞれレーザー光をレールの真上から照射してレール表面を測定するレール凹凸測定装置がそれぞれ配置された。これらを使用する際には普段は上昇していてレールから浮いている車輪を降ろしてレールに載せる。このとき、車輪とレールとの摩擦で熱を発するそうで、測定時には水をまいてレールを冷却するという。新幹線レールモニタリング車の各所に水タンクがあり、その総量は8050リットル、重さで記せば約8トンにも達する。

 レール凹凸測定装置からしばらく間を置いて装着されているのはレール盤面摩耗測定装置だ。この装置ではレールから見て斜め左右に1基ずつの照射装置がレーザー光線をレールに当ててレール断面の摩耗状態を測定する。その直後に走行装置の台車が続く。こちらはディーゼルエンジンからの動力が伝わらない付随台車である。

線路設備モニタリング車の特徴

 今度はSMART-Redこと線路設備モニタリング車を見ていこう。この車は新青森駅寄りの前面屋根上に特徴がある。屋根上にはまくらぎ方向に2基並べられた投光器のような装置があり、それぞれが約45度の角度で外側に向き、なおかつ約60度の角度で上を睨む。正確には点群データ取得装置といって、レーザー光、それから左右の装置の中間に設置されたカメラを用いて線路設備モニタリング車前方の空間を三次元測量を行うものだ。出力された点群データ画像上には軌道や架線、その他の設備や構造物がどこにあるかを示した座標データが組み込まれている。点群データ画像を解析することで2本の線路の中心間の距離が基準値の4.3m以上に維持されているかどうかであるとか、架線や電柱、トンネルなどが建築限界と言って車両に近づいてはいけない範囲に収まっているかどうかが確認できる。

線路設備モニタリング車の新青森駅寄り前面屋根上に搭載された点群データ取得装置。JR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影
線路設備モニタリング車の新青森駅寄り前面屋根上に搭載された点群データ取得装置。JR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影

 点群データ取得装置は東京駅寄りの前面には装着されていない。というのも、新青森駅方面に向けての画像を取得しておけば下り新青森駅方面はもちろん、上り東京駅方面の線路の状況もわかるので付けておく必要がないのだ。なお、後述のように線路設備モニタリング車は新幹線レールモニタリング車との連結が想定されている。この場合、新青森駅寄りから線路設備モニタリング車、新幹線レールモニタリング車という順序で連結しなくてはならない。点群データ取得装置を使用できないからだ。

 線路設備モニタリング車の床下は新幹線レールモニタリング車と比べるとすっきりとしている。新青森駅寄りからディーゼルエンジンによって駆動される台車、そしてしばらく間が開いた後、目に入るのが軌道材料モニタリング装置だ。この装置には直線状に撮影可能なラインセンサカメラと一般的なデジタルカメラに近いプロファイルカメラとが収められ、軌道に向けてレンズを光らせる。ラインセンサカメラから得られるのは距離情報を入れた距離画像、プロファイルカメラから得られるのは色の濃度がはっきりとした濃淡画像だ。両者を活用してレールの表面、レールをまくらぎやコンクリート製のスラブに取り付けるための締結装置、そしてレール同士をつなげる継目といったものの状況、ロングレールの移動量などを測定することができる。

 この車の見どころは東京駅寄りに装着された付随台車だ。台車の中央部分には、台車に対してまくらぎ方向に左右にはみ出したボックスが置かれており、その中心部には加速度センサー、それから角速度センサーとも呼ばれるジャイロセンサー、そして恐らくはレーザー光などを用いる変位計とで構成される慣性ユニットが収められており、分岐器(ぶんぎき)モニタリング装置と呼ばれる。

線路設備モニタリング車が東京駅寄りに装着する台車には分岐器モニタリング装置が取り付けられた。JR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影
線路設備モニタリング車が東京駅寄りに装着する台車には分岐器モニタリング装置が取り付けられた。JR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影

 この装置は名称どおり、ポイントと呼ばれる軌道の分岐部分の状況を測定するのだが、さらに大きな役割を果たす。それは冒頭で掲げた左右のレールの間隔や高さの差、レールの長手方向の上下左右の変位、一定の区間の水準の変化量といった軌道のずれを検査・測定することができるのだ。

 線路設備モニタリング車の分岐器モニタリング装置についてJR東日本の担当者に聞いてみた。イーストアイによる検査・測定では網羅できなかった区間の軌道のずれは、これまで手押しのトロッコに検査・測定装置を搭載して実施していたという。今回の線路設備モニタリング車の導入でそうした場所の検査・測定も自動化されるそうだ。

 余談ながら、軌道のずれの検査・測定方式はイーストアイやドクターイエローと線路設備モニタリング車とでは違う。前者は差分法と呼ばれ、軌道の3点以上の位置を測定した結果とレーザー光で示した基準線とのずれとを計測して軌道のずれを示す。

 一方で後者は慣性測定法という。線路設備モニタリング車の加速度を測り、その数値を時間で2回積分することによってその時点での軌道の位置を示して軌道のずれを算出する方法である。加速度計だけでは軌道の上下方向のずれしかわからないので、ジャイロや変位計も併用する一方で、加速度を時間で2回積分して求めるとの基本的な考えは同じだ。

 なお、差分法は停止していても検査・測定可能でなおかつ精度の高いという特徴をもつ。慣性測定法は停止していては検査・測定できず、低速で加速度が小さくなると精度が悪くなっていく。JR東日本の担当者に聞くと、線路設備モニタリング車では時速8kmまで検査・測定が可能だという。これは優秀な数値で、何しろ加速度計だけを用いて検査・測定しようとすると時速70kmが下限、ジャイロや変位計を併用して時速30kmが下限という事例も見られるからだ。線路設備モニタリング車による軌道のずれの検査・測定結果が良好で、なおかつ時速200km以上での走行でも問題なく可能であれば、イーストアイを引退に追い込む可能性もあるかもしれない。

新幹線モニタリング車はどのように使用されるのか

 話を元に戻して、新幹線レールモニタリング車と線路設備モニタリング車がどのように用いられて検査・測定を実施するのかを紹介したい。

 まずは2023年6月から使用されている新幹線レールモニタリング車だ。いま在籍する1台のままで、東北新幹線、上越新幹線のともに全線、北陸新幹線の高崎駅-上越妙高駅間とJR東日本のフル規格新幹線全線の検査・測定を引き続き行う。

 一方で線路設備モニタリング車は今回公開された1台に加えて3台が製造され、合わせて4台となるそうだ。これらは今回公開された上野駅近くの田端新幹線保守基地のほか、東北新幹線の仙台駅近くの保守基地、上越新幹線の熊谷駅近くの保守基地にそれぞれ配置となる。保守基地ごとでの線路設備モニタリング車の受け持ち範囲、それから使用開始時期は田端新幹線保守基地が東北新幹線東京駅-白石蔵王駅間で2024年12月から、仙台駅に近くのものが東北新幹線白石蔵王駅-新青森駅間で2025年春以降、熊谷駅に近くのものが上越新幹線全線と北陸新幹線高崎駅-上越妙高駅間とで2025年秋ごろ以降だ。なお、4台製造されて3台配置となると1台余る。他の線路設備モニタリング車が検査を受けるときなどの予備として待機するのであろう。

 台数の差、配置場所の分散の度合いからも明らかなとおり、線路設備モニタリング車のほうが検査・測定の頻度は多いと思われる。残念ながら頻度は明らかにされなかったが、線路設備モニタリング車数回に対して新幹線レールモニタリング車1回程度といったところであろうか。したがって、線路設備モニタリング車は単独で走行することが多く、時折新幹線レールモニタリング車が走るときに一緒に連結されるとなるらしい。

 新幹線レールモニタリング車と線路設備モニタリング車との連結方法は本格的だ。連結器には機関車や貨車で用いられるげんこつ状の自動連結器が採用されている。加えて、連結器と同時に接続されるのが空気圧縮機でつくられた圧縮空気をためておく元空気タンクから他の車に圧縮空気を送る元空気管、それから自動空気ブレーキ装置のブレーキ指令を伝達するブレーキ管、先頭の運転室での制御指令を連結した車にも伝える制御引き通し線だ。

自動連結器を中心に左側の黒いホースが元空気管、右側の黒色のホースがブレーキ管、右端には制御引き通し線のソケットが設けられた。JR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影
自動連結器を中心に左側の黒いホースが元空気管、右側の黒色のホースがブレーキ管、右端には制御引き通し線のソケットが設けられた。JR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影

 鉄道に詳しい方だといま示した構成から新幹線レールモニタリング車、線路設備モニタリング車とも、通常はブレーキ管の圧力を下げることでブレーキをかける自動空気ブレーキを使用していると思われるであろう。ところが、JR東日本の資料では通常用いるブレーキは電気信号でブレーキ指令を送る電気指令式空気ブレーキ装置が使用されると記されており、となるとブレーキ管は必要ない。

 資料を読み進めると、連結したすべての車両に動作する貫通ブレーキ搭載とある。電気指令式空気ブレーキ装置も貫通ブレーキであるが、JR東日本には別の意図がありそうだ。それは、通常は予定していないとはいえ、他の種類のメンテナンス用の車との連結することもあると想定しているのであろう。こうした車のなかには自動空気ブレーキ装置だけを装着しているものも多いから、最新型の新幹線モニタリング車と言えども不測の事態に他の車と連結できない事態は避けなくてはならない。

2台の新幹線モニタリング車どうしが連結されたところ。これからブレーキ管、元空気管、制御引き通し線を人力で接続する。JR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影
2台の新幹線モニタリング車どうしが連結されたところ。これからブレーキ管、元空気管、制御引き通し線を人力で接続する。JR東日本田端新幹線保守基地にて2024年11月22日に筆者撮影

スマートメンテナンスの今後の展望と課題

 新幹線レールモニタリング車1台、線路設備モニタリング車4台の計5台の導入に要した費用は50億円であるという。初期投資額は大きいが、人手不足の解消、そして検査・測定精度の向上というメリットも得られ、JR東日本が寄せる期待は大きい。同社は他鉄道会社への展開も検討しているとのことで、業務システムS-RAMos+の在来線版である「RAMos+(Railway track Advanced Monitoring operating system Plus)」は東武鉄道、小田急電鉄、東急電鉄、相模鉄道、東京メトロの5社でも運用が開始された。今後は在来線版のモニタリング車を導入すると同時に、各社で共用してメンテナンスの近代化、効率化が進められるであろう。

 さて、長々とした拙稿をお読みいただいた方々のなかには疑問を抱いた方もいらっしゃるかもしれない。それは今回紹介した新幹線モニタリング車が対象としているのは線路のうち軌道だけであり、冒頭の定期検査のあらましで触れた構造物や電力設備、信号設備、保安設備については何も触れられていないという点だ。

 新幹線レールモニタリング車はレールの測定に特化した車であり、装置も他の用途に転用しづらいのでやむを得ない。他方で線路設備モニタリング車の特に点群データ取得装置は架線やトンネルなどの情報も問題なく得ることができるから、軌道保守部門だけでなく、電力や構造物の保守にも活用されてしかるべきであろう。

線路設備モニタリング車によって得られた点群データ画像。軌道に限らず、架線や架線を支える電柱も写り込んでいる。画像提供:JR東日本
線路設備モニタリング車によって得られた点群データ画像。軌道に限らず、架線や架線を支える電柱も写り込んでいる。画像提供:JR東日本

 ではなぜJR東日本は文書上ではっきりと示さないのかというと、線路のメンテナンスが軌道部門、電力部門、構造物の土木部門と分かれていて、作業の日程は調整するものの、内容に関してはあまり関連性がなく、お互いに干渉を嫌う点に配慮していると見られるからだ。これはJR東日本だけでなく、全国のたいていの鉄道会社、特に規模が大きくなればなるほど当てはまる。各部門とも高度な専門性を備え、求められる国家資格もそれぞれ異なるので、分業制は確かに効率的であろう。しかしながら、高価な新幹線モニタリング車が最新の技術を用いて取得した検査・測定データを軌道部門だけでしか活用されないのはいかにも非効率だ。JR東日本も当然検討しているはずで、新しい技術を通じて異なる部門への相互乗り入れが実現したときこそ、同社の目指すスマートメンテナンスが果たされたと言えるであろう。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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