輪軸組立工程での不正行為とは何か、なぜ行われたのかを考える#専門家のまとめ
鉄道業界を揺るがす2024(令和6)年秋の大きな話題は車軸に車輪を装着した輪軸(りんじく)を組み立てる際に生じた不正行為でしょう。不正行為はJR貨物の貨物列車が山陽線新山口駅構内で2024年7月24日に脱線事故を起こしたことがきっかけで発覚しました。貨物列車を牽引する電気機関車の脱線は車軸の折損によるものと判明し、車軸の検査状況を調査すると車軸に大歯車を装着したときの圧入力値が基準値を超過していたうえ、圧入力値を記載した記録簿が改ざんされたというのです。JR貨物から報告を受けた国土交通省は2024年9月12日に全国の鉄道会社に対して輪軸の緊急点検を指示したところ、圧入力値の改ざんは鉄道会社をはじめ、鉄道車両メーカーでも発覚しました。輪軸の組立工程でなぜ不正が行われ、しかも多発したのか、理由はまだはっきりしていません。2024年9月末日の段階で考えられる点をまとめましょう。
ココがポイント
エキスパートの補足・見解
輪軸について定めたJIS(日本産業規格)E4504ではA-Cシリーズ輪軸の組み立ての際の注意事項として「締め代(筆者注、車輪や歯車の中心の穴に設けられたわずかなすき間)と圧入力とを共に狭い範囲に規定すると、組立が困難になる場合がある」とあります。さらに、JISE4504によりますと圧入力値は締め代だけでなく、車輪や歯車と車軸との潤滑状況や表面の粗さの度合い、圧入する際の速度、車輪や歯車と車軸とが触れ合う部分の構造にも影響されるとのことです。事実上、輪軸を組み立てる作業には一つとして同じものはないと言ってよく、実際に作業を行ってみなければ圧入力値は決まらないと言えるかもしません。
現時点で筆者が提案する方策はJISE4504における圧入力値を見直すことです。そのうえで圧入力値を超えると実際に車軸にどのくらいの負担がかかり、折損に至るのかも科学的に検証する必要があるでしょう。現実に多数の鉄道会社で規定の圧入力値を超えた輪軸が存在するのですから、そうした輪軸はどの程度の走行距離までであれば使用に耐えるのかを基準に入れ、この数値を厳密に守らせることで、安全性を確保したうえで作業の効率化も図られるのではないでしょうか。