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東海道新幹線はなぜ大雨に弱いのか、今後強くなる可能性はあるのか#専門家のまとめ

梅原淳鉄道ジャーナリスト
東海道新幹線の盛土。新横浜駅~小田原駅間にて2006年7月26日に筆者撮影

 台風10号による大雨の影響で東京駅と新大阪駅との間を結ぶ東海道新幹線は長時間にわたる列車の運転の見合わせが発生しました。日本の大動脈となる交通機関の運休は人々に大きな打撃を与え、批判も高まっています。しかし、線路の大多数が土の路盤上に築かれた東海道新幹線では大雨によって築堤と言われる盛土(もりど)が崩壊する危険があり、安全上の配慮からやむを得ません。東海道新幹線が運転見合わせとなる雨量がどのくらいなのかを明らかにするとともに、大雨でも運転見合わせを行わなかったことによる悲劇も紹介します。

ココがポイント

▼東海道新幹線はどのくらいの雨が降ると列車の運転見合わせが発生するのかについて、JR東海が詳細な数値を公表しています。

東海道新幹線の新しい降雨運転規制の導入について(東海旅客鉄道株式会社、2022年5月30日付)

▼線路の基礎となる盛土が大雨に弱いことが運転見合わせを引き起こす要因であると、筆者がコメントした記事です。

【解説】実は“大雨に弱い”東海道新幹線 3日連続でストップ 「盛り土」上のレール…構造に弱点(日テレNEWS、2023年8月17日22時08分配信)

▼大雨で盛土が崩壊したことによる列車脱線事故について取り上げた記事です。事故から39年が経過したものの、忘れてはなりません

旧国鉄能登線事故から39年、死傷した乗客36人 慰霊し安全誓う(朝日新聞、2024年6月26日11時00分配信)

▼JR東海が公表した盛土の強化対策です。一部の盛土で内部の水の状況を把握するためのモニタリングが実施されています。

豪雨に対する東海道新幹線の取組み(東海旅客鉄道株式会社、2024年5月22日付)

エキスパートの補足・見解

 大雨に強い東海道新幹線を実現するために「盛土をなくせばよい」とはもっともな意見です。しかし、東京駅~新大阪駅間の実際の線路の長さ515.4kmのうち盛土の区間は約229kmと43%に達しています。盛土をコンクリート製の基礎に置き換えることは非現実的で、可能であったとしても長期間列車を運休させて大規模修繕を行うほかありません。東海道新幹線の強靱化を目的としてリニア中央新幹線が着工となっていますが、開業時期はまだ先です。当面は大雨のたびに生じる運転合わせを受け入れるほかないでしょう。既存の盛土に薬液を注入して地盤を改良する試みは過去にはうまくいかなったとしても、今後の技術革新で実現するかもしれません。東海道新幹線を強くするための土木技術の進歩に期待したいところです。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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