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あちら立てればこちらが立たず 単線区間では列車同士の接続にも苦労が多い―木古内駅でのケースを例に―

梅原淳鉄道ジャーナリスト
道南いさりび鉄道線と北海道新幹線との乗り換え駅となる木古内駅(写真:イメージマート)

あと一歩で乗り換えられないもどかしさの謎を探る

 鉄道を利用していると、乗り換えしたいのに列車同士の接続の悪さに困惑させられる機会にしばしば遭遇する。ヤフーニュースエキスパートの鉄道乗蔵氏が2024(令和6)年10月7日に寄稿した「『最終東京行』新幹線への1分接続では乗り換えできない! 利用低迷で『廃線危機』の道南いさりび鉄道」もその一例であろう。文中では北海道上磯郡木古内町(きこないちょう)にある木古内駅で、18時52分着の道南いさりび鉄道道南いさりび鉄道線の普通列車から18時53分発のJR北海道の北海道新幹線東京駅行き「はやぶさ48号」へと乗り換えることが1分しかなく、まず不可能だと示されている。鉄道乗蔵氏は両列車同士の乗り換えを可能とすることで道南いさりび鉄道の利用促進にもつながるとも主張しており、なるほど大変建設的な提案だ。

 こうなると、なぜこのような時刻となっているのかが気になる。「利用者がいないから」という理由が濃厚だが、ほかにも存在するのかもしれない。鉄道乗蔵氏は文中に理由を記していないので、筆者は道南いさりび鉄道やJR北海道に問い合わせようと考えた。まずは筆者(梅原淳)の側でわかる範囲で調べてみて、それでも不明であれば問い合わせることとしたい。

 そもそも木古内駅では何分あれば道南いさりび鉄道線と北海道新幹線とで乗り換えできるのであろうか。「JR時刻表」(交通新聞社)によると8分とある。「はやぶさ48号」は18時53分発だから道南いさりび鉄道線の普通列車は18時45分に到着すればよい。または「はやぶさ48号」が19時00分発となればよいのだが、東北新幹線の混雑ぶり、特に東京駅と大宮駅との間の状況を考えるとまず不可能であろう。北海道新幹線側ではなく、道南いさりび鉄道線側で対処するほかない。

 道南いさりび鉄道線は函館市の五稜郭駅と木古内駅との間の37.8kmを結ぶ全線が単線だ。筆者の経験上、単線区間では対向となる列車との行き違いなどで遅れることがままあり、木古内駅の到着時刻にもう少し余裕が欲しい。木古内駅に14時39分、16時19分、20時31分にそれぞれ到着する同線の普通列車は比較的短い時間で北海道新幹線新青森駅方面への列車と乗り換えられる。木古内駅での北海道新幹線の列車の出発時刻をそれぞれ挙げると15時01分、16時33分、20時56分で、乗り換え時間は順に22分、14分、25分だ。ここでは最も短い14分を採用することとして、18時53分発の「はやぶさ48号」とまず確実に乗り換え可能な到着時刻を18時39分と仮定しよう。

道南いさりび鉄道線の路線図。全列車が函館駅に乗り入れ、函館駅~木古内駅間の普通列車のほか、函館駅~上磯駅間の普通列車も運転されている。出典:道南いさりび鉄道
道南いさりび鉄道線の路線図。全列車が函館駅に乗り入れ、函館駅~木古内駅間の普通列車のほか、函館駅~上磯駅間の普通列車も運転されている。出典:道南いさりび鉄道

 単純に考えると、18時52分に木古内駅に到着する普通列車は各駅をいまよりも13分早く出発すればよい。普通列車の始発駅はJR北海道の函館線函館駅で、現状は17時44分発のところ、17時31分発とすれば解決する――。と言いたいところだがここで問題が生じてしまう。

 函館駅と五稜郭駅との間の3.5kmはJR北海道の函館線で、道南いさりび線の車両は函館線に乗り入れる形態を採る。実は函館駅を出発する函館線の列車には17時28分発の新函館北斗駅行きと17時35分発の長万部駅(おしゃまんべえき)行きとがあり、17時31分発とすると両列車の間に割り込ませなくてはならない。先行する列車との間隔は3分と問題はないかもしれないが、函館駅を出発する列車の時刻表を見る限り5分が最も短く、信号保安装置の都合といった函館線固有の事情で無理となる可能性もある。

単線区間ではさまざまな壁が待ち構える

 ともあれ、函館駅17時31分発でJR北海道の了解を得たとしよう。今度は17時49分から13分繰り上げられて17時36分となるべき五稜郭駅の出発時刻が問題となる。なぜなら、「2024貨物時刻表」(鉄道貨物協会)を見ると木古内駅方面からやって来る高速貨物列車A・3053列車(隅田川駅4時17分始発、札幌貨物ターミナル23時23分終着)が五稜郭駅(JR貨物は函館貨物駅と呼称)に17時40分に到着するとあるからだ。五稜郭駅と隣の七重浜駅(ななえはまえき)との間は2.7kmあり、列車はおおむね5分で結ぶ。したがって、13分繰り上げられた普通列車が七重浜駅に到着する時刻は17時41分、一方で高速貨物列車A・3053列車が七重浜駅を出発する時刻は17時35分――。そう、このままでは両列車は五稜郭駅と七重浜駅との間の単線区間で出合ってしまうのだ。

 高速貨物列車A・3053列車に限らず道南いさりび鉄道を走る貨物列車全般の時刻を変えることは大変難しいであろう。これらの貨物列車は本州側の新中小国信号場(しんなかおぐにしんごうじょう)と木古内駅との間で北海道新幹線の線路を走行しており、一部の貨物列車で設定されている奥津軽いまべつ駅や湯の里知内信号場(ゆのさとしりうちしんごうじょう)での北海道新幹線の列車の待避を考えると時刻をほぼ動かせないと考えるべきだ。という次第で七重浜駅には高速貨物列車A・3053列車の出発時刻の1分前の17時34分に到着することが望ましい。

 結局、13分繰り上げられた普通列車は五稜郭駅を17時29分の出発となり、さらに7分、合わせて20分繰り上げる必要が生じる。整理すると、20分繰り上げられた普通列車の函館駅の出発時刻は17時24分だ。幸いなことに先行する函館線の列車の出発時刻は17時01分なので余裕がある。この列車の後を行く列車は17時28分発なので、5分という間隔を維持する必要があるのならば、20分繰り上げられた普通列車の函館駅の出発時刻をさらに1分繰り上げて17時23分とし、五稜郭駅での停車時間を調節すればよい。

 さて、今度は道南いさりび鉄道にとって困った問題が起きるであろう。21分繰り上げられた普通列車の1本前となる道南いさりび鉄道線の普通列車は函館駅を17時14分に出発し、函館駅での間隔は9分と短い。一方で、函館駅の出発時刻が21分繰り上げられた結果、1本後の道南いさりび鉄道の普通列車との間隔は47分から1時間08分へと増えてしまう。

 普通列車の間隔がいびつになっても利用者の理解が得られれば問題はない。けれども、五稜郭駅を17時29分に出発した20分繰り上げられた普通列車の前途にはさらに困難な出来事が待ち構えている。木古内駅に18時52分に到着する普通列車の時刻表のリンク先をたどっていくと茂辺地駅(もへじえき)を18時19分に到着し、4分停車後の18時23分に出発すると記されている点に気づく。4分停車は何のためかというと、対向となる高速貨物列車A・4061列車(大阪貨物ターミナル駅23時18分始発、札幌貨物ターミナル駅23時48分終着)との行き違いを行っているためだ。

 20分繰り上げられているから普通列車は茂辺地駅ではなく、さらにその先の駅で高速貨物列車A・4061列車との行き違いを実施する必要がある。ではどこで行き違いとなるかだ。茂辺地駅では4分停車を1分停車に短縮して18時00分発とし、5.0km先の次の渡島当別駅は18時07分着、1分以内の18時07分の出発で、ここから4.9km先となるその次の釜谷駅(かまやえき)は18時13分着と想定される。

列車同士の行き違いが可能な渡島当別駅。道南いさりび線の普通列車は1両または2両と短いが、貨物列車は機関車を入れて最大で21両の車両が連結されているので、勢い行き違い用の線路は長くなる。
列車同士の行き違いが可能な渡島当別駅。道南いさりび線の普通列車は1両または2両と短いが、貨物列車は機関車を入れて最大で21両の車両が連結されているので、勢い行き違い用の線路は長くなる。写真:イメージマート

 他方、高速貨物列車A・4061列車は茂辺地駅を18時21分に通過すると仮定すると渡島当別駅の通過時刻は18時14分、釜谷駅の通過時刻は18時08分だ。もうおわかりのとおり、20分繰り上げられた普通列車と高速貨物列車A・4061列車とは単線区間の渡島当別駅と釜谷駅との間で出合うこととなるのである。

 先に貨物列車の時刻を変更することは難しいと記した。20分繰り上げられた普通列車が高速貨物列車A・4061列車に道を譲るとすれば、渡島当別駅で8分停車して18時15分に出発すればよい。繰り上げられた時間は15分へと変わり、木古内駅には18時37分に到着する。18時53分発の「はやぶさ48号」への乗り換え時間は16分確保された。けれども、各所で触れたように普通列車の時刻を繰り上げるには無理が多い。道南いさりび鉄道にとっては普通列車同士の間隔が短くなりすぎるのが好ましくないと思われる。沿線の利用者への利便性、函館線の列車との兼ね合い、単線区間での行き違いと北海道新幹線の列車との接続とを比較した結果、前者が選ばれたのであろう。以上から得られた結果を道南いさりび鉄道やJR北海道に問い合わせるまでもないように筆者は考える。

「あと一歩」の状況は地域の利用者への利便性を高めた結果か

 木古内駅における道南いさりび鉄道の18時52分着の普通列車と北海道新幹線の18時53分発の列車というあと一歩で接続しない状況は過去はどうだったのであろうか。北海道新幹線が開業した2016(平成28)年3月26日から調べてみた。結果は次のとおりだ。

2016年3月26日~ 道南いさりび鉄道線18時50分着、北海道新幹線18時49分発

2019年3月16日~ 道南いさりび鉄道線18時53分着、北海道新幹線18時53分発

2024年3月16日~ 道南いさりび鉄道線18時52分着、北海道新幹線18時53分発

 清々しいほど一貫して接続していない。それだけ両者を乗り換える利用者がいないと判断されてきたと考えられる。2024年に入り、もしかしたら接続するかもと思わせるようになってしまったから、かえって複雑な状況を生み出したのかもしれない。

 木古内駅を18時53分に出発する「はやぶさ48号」は東京駅行きの最終の列車なので、この列車よりも後の列車に乗るのは無理という向きも多いはずだ。となると、道南いさりび鉄道線から乗り換えるには木古内駅に17時28分に到着する普通列車(函館駅始発16時24分)を利用する必要がある。乗り換え時間は1時間25分とやや長いものの、食事や散策などで地域と触れ合うのがよいだろう。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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