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「10代」が銃を手にできるアメリカ。「学校で起こった銃犯罪データ」から見えてくるもの

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
サンディフック小学校の事件(2012年)の遺族。銃規制はこの10年で改善された?(写真:ロイター/アフロ)

24日にテキサス州で発生した銃の乱射事件で、改めてアメリカの現実が浮き彫りとなった。

この国では、10代で銃をいとも簡単に手にすることができるということだ。例えば18歳になってもビールを買うことはできない。しかし銃なら合法的に買うことができる。

また、学校という子どもたちを守らなければならない教育現場においても、銃がらみの事件が「頻繁に」発生している。

テキサス州のロブ小学校の銃乱射事件は、18歳の少年が21人を殺害し、学校で発生した銃撃事件の中ではこれまでで2番目に大きな悲劇となった。

これまで大きな事件として語られてきたのは、2012年のコネチカット州ニュータウンのサンディフック小学校での乱射事件だ。児童20人を含む計26人が犠牲となった(犯人は20歳)。

18年にはフロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校でも乱射事件があり、生徒や教職員17名が死亡(犯人は19歳の元生徒)、テキサス州のサンタ・フェ高校では同様に、生徒9名と教師1名が死亡した(犯人は17歳の在学生)。

1999年にはコロラド州のコロンバイン高校でも事件があり、生徒12名と教師1名が死亡した(犯人は在学生の2人)。

また大学も含めると、2007年にバージニア工科大学で教員5名を含む32人が死亡する事件もあった(犯人は23歳の在学生)。

もちろんこれらは一部の事件だ。

APは、99年のコロンバイン高校から今回のロブ小学校まで、「学校で起こった乱射事件」としてまとめて記事にしている。それによると、この間アメリカの学校で発生した銃乱射事件数は14件で、亡くなった人数は169人に上る。

ワシントンポストは25日、2017年より発表している「学校で発生した銃暴力」に関するデータベースを更新した。

このデータベースでは、コロンバイン高校の事件以来、アメリカの学校で銃の暴力に遭遇した人の数や、年や州ごとの事件記録を確認できる。単に死者数や負傷者数だけを掲載していないのは、生き残ったとしても凄惨な事件を目の当たりにしたことで、その後深刻なトラウマやPTSDの症状を抱え、最悪のケースでは自殺に追い込まれる人もいるからだ。

同紙のデータベースによると、銃がらみの事件は331校で発生し、それを経験した人は31万1000人以上に上る。うち児童や教師の死者は少なくとも185人で、負傷者は369人という。

(前述のAPの人数と齟齬があるのは、米連邦政府が学校での銃撃事件数を公式に記録していないため、それぞれのメディアや団体が独自の判断基準で統計を取っているためだ)

また、幼稚園から12年生までの生徒が校内にいる時間帯に発生した銃撃事件は、2021年が42件と、1999年以降もっとも多く発生した。今年は、今のところ少なくとも24件の銃撃事件が起こっている。

日頃ニュースになるような規模の大きな銃の乱射事件以外にも、大々的に報道されていないだけで、アメリカの学校では銃に絡んだ事件や事故は頻繁に起きている。

例えば、今月17日もシカゴ市の学校で、4月にはミシガン州の小学校、アーカンソー州の高校、ペンシルベニア州の高校、オハイオ州の中学・高校などで、それぞれ銃がらみの事件や事故が続いた。

そしてここ1、2ヵ月間に発生したそれらの事件や事故を辿っただけでも、加害者や違法に銃を手にしたのは8歳、12歳、14歳と驚くほど幼い年齢の子どもだ。

それらの事件や事故に関わった子どもは、10人中7人が18歳未満で、年齢の中央値は16歳だ。10代前半から数が増え始め、20代前半にかけて大きなカーブとなっている。その児童らは一体どこで銃を入手できたのかというと、85%が自宅など身近な場所だ。この国では10代でも、比較的簡単に武器にアクセスすることができる(もちろん家庭による)。

サンディフック小学校の事件から10年経った今、NPRはこの間「銃規制に関する法律はそれほど変わっていない」とする専門家の声を紹介している。

記事によると、学校でのいじめや銃以外の武器を使った暴力はここ20年間、減少しているという。“銃撃事件以外”は、減少しているのだ。

問題はいまだ止まない銃撃事件だ。これらの銃撃事件を見てみると、加害者には共通する部分が見えてくる。

多くは精神疾患を長い間患っており、銃器へ異常なほどの執着を見せる(傾向がある)。彼らは自宅に銃器があるのが普通の環境で育っている。またヒトラーなどの独裁者や偏った政治的イデオロギーに固執する(傾向がある)。

それらの傾向や特徴は、ある日突然表れるものではなく、長きにわたって学校の作文などに滲み出るものであり、周りにそれとなく伝わっている。最後は、殺人や自滅に走る(傾向がある)。そして「自分のことを忘れてほしくない」と思っている。(NPR

「事件の原因は武器ではなく、犯人の精神状態」「人を殺害しているのは武器ではなく、人」などという声も聞こえてくる一方で、テキサスの小学校での事件の翌日の記者会見では、現職知事(共和党)に向け、民主党の対立候補が直接抗議し、会場を追われる一幕もあった。

なかなか進まない銃規制と繰り返される悲劇に苛立ちを見せる市民たち。加害者の多くが若く、メンタル的な問題を抱えていることが多いことから「公衆衛生対策として真剣に取り組むべき」という専門家の声も上がってきている。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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