米国中間選挙の仕組みと争点(1)―基本的枠組み
2022年は米国で中間選挙が行われる年です。今年は11月8日(火)に実施されるため、日本時間では11月9日(水)のお昼くらいから開票速報が流れ始めるでしょう。この記事では、中間選挙の基本的な仕組みについて解説します(主要争点などについては、第2回以後で解説します)。
中間選挙とは
米国では、4年に1度行われる大統領選挙の中間の年に実施され、連邦議会上院(任期6年、定数100)の約3分の1と、下院(任期2年、定数435)の全議席、一部の州知事などを選ぶ選挙を中間選挙と呼んでいます。連邦の選挙は偶数年の11月の第1月曜日の翌日、すなわち11月2日から8日のなかで火曜に当たる日に実施することになっています。農作物の収穫が終わった11月の最初に、月曜日に選挙の準備をして翌日の火曜日に選挙を行うというのが、この日に決められた理由だとされています。日本では選挙は日曜に実施されますが、キリスト教の安息日や礼拝日に当たる週末に選挙関連業務を行うのはおかしいという判断があったともされています。
過去の中間選挙を見ると、大統領の所属政党が苦戦するのが一般的です。第2次世界大戦以後に行われた20の中間選挙で、大統領の政党は平均して下院で26、上院では4議席を減らしています。近年ではこの傾向は下院で顕著で、最初の中間選挙でビル・クリントン政権期の民主党は54、バラク・オバマ政権期の民主党は63、ドナルド・トランプ政権期の共和党は40の議席を減らしています(ジョージ・W・ブッシュ政権期の共和党は911テロ事件の影響もあり8議席増やしていますが、例外的です)。
政権党が苦戦する理由としては、中間選挙が大統領に対する中間試験だからだ、という指摘がされることがあります。中間選挙は大統領選挙の2年後に行われるので、現政権に対する評価を行う機会だというのは事実でしょう。ただ、この指摘については、若干の留保が必要です。
まず、大統領選挙が行われる年の投票率は、中間選挙の年の投票率よりも明らかに高いことを念頭に置く必要があります。米国の中間選挙の投票率は40%程度ですが、大統領選挙の時はそれよりも大きく上積みされます。人気の高い人物が大統領候補となっている場合は、その人物を当選させるために投票所に向かった人々が、ついでに連邦議会選挙でも同じ党の候補に投票するので、大統領の所属政党の議席が増えるのです。逆に、中間選挙で大統領の所属政党が議席を減らすのは、投票率が減少する結果だとも言えます。
また、連邦議会選挙や州知事選挙で有権者は、大統領に対する評価とは独立した要因に基づいて投票することも多いです。かつて下院議長も務めたティップ・オニールという政治家は「すべての政治は地方から」という名言を残したことで知られていますが、大統領が誰かに関係なく、下院の選挙では現職議員の再選率は9割を超えます。下院の選挙区は、10年に一度行われる国勢調査の結果を受けて州政府によって区割りが行われますが、その際に現職議員に有利な区割りが行われるのが一般的なことも、現職議員の再選率を高めています。上院選挙でも、民主党が圧倒的に優位する州、共和党が圧倒的に優位する州があり、それらの州の選挙結果は大統領の政権運営とは全く関係なく決まります。
日本でも、バイデン政権の支持率が低いために民主党が苦戦している、という報道がなされることがあります。ロイター/イプソスが10月31日と11月1日に実施した世論調査によれば、バイデン政権に対する支持率は40%だとのことです。ただ、実際には政権発足2年目のこの時期、大統領に対する支持率は、湾岸戦争、イラク戦争期のブッシュ親子を除けば高くても45%程度で、バイデン政権の支持率が取り立てて低いわけではありません。それはさておいても、大統領に対する支持の強さと中間選挙の結果をつなげて考えるのは、大統領制を採用する米国では必ずしも適切でないということは念頭に置いた方がよいでしょう。
2022年中間選挙:現状と予想
今年の上院の改選部分は35議席です。現在、上院は民主党(無所属含む)と共和党がそれぞれ50議席で並んでいます。ただし、上院の採決で賛否同数となった場合、議長を務める民主党のカマラ・ハリス副大統領が票を投じるため、実際は民主党が多数を占めているといえます。今回の改選部分のうち、民主党が持っていた議席が14、共和党が持っていた議席が21です。また、引退・転出議員は、民主党が1、共和党が5、合計6です。11月2日時点でのReal Clear Politicsの現状分析では、民主党が45議席、共和党が48議席を固めており、どちらに転ぶかわからない議席が7つ(アリゾナ、ジョージア、ニューハンプシャー、ノースカロライナ、ネヴァダ、ペンシルヴァニア、ウィスコンシン)あるとされています。同社の現時点での予想は、民主党が46、共和党が54議席となり、共和党が多数を奪還するとのことです。
下院は435全ての選挙区が改選の対象となります。現在、民主党が222議席、共和党が212議席、欠員1議席で、民主党が多数派を占めています。このうち、引退・転出議員は、民主党が31、共和党が20で、合計51となっています。こちらもReal Clear Politicsの現状分析では、民主党が174議席、共和党が228議席を固めており、接戦状態にあるのが33議席です。下院でも共和党が多数を奪還すると予想しています。
州知事選挙は36の州で実施されます。現状、全50州のうち、22州を民主党が、28州を共和党が押さえていますが、Real Clear Politicsの現状分析としては、民主党が14州、共和党が24州で確実となっており、どちらに転ぶかわからないのが12州となっています。
今年の5月頃までは、中間選挙で民主党が大敗するとの予想が一般的でした。大統領と連邦議会上下両院で民主党が多数を握っているにもかかわらず、民主党支持者とリベラル派が望むアジェンダがほとんど実現していないという認識が強かったからです(実際は、コロナ対策、インフラ投資など大きな立法は行われていたのですが、世論の評価は厳しかったようです)。また、今年は2020年の国勢調査の結果を受けて下院の選挙区割りがなされた最初の選挙ですが、区割りを行う権限を持つ州政府で共和党が優勢だったこともあり、全般的に区割りが共和党に有利になっていることも下院で共和党優位との予想がなされた背景にあります。民主党支持者が都市部に集中して住んでいるのに対し、共和党支持者は郊外地域と農村部も含めて広い地域に居住していることも、民主党に不利に働いています(小選挙区では相対多数をとれば勝利できますが、サンフランシスコやニューヨーク市では住民の9割が民主党支持者なので、4割が死票になります)。
しかし、6月末から連邦最高裁判所が人工妊娠中絶の権利を否定する判決や、108年続いたニューヨーク州の銃規制法の合憲性を否定する判決を出したことにより、民主党側で反発バネが働きました。民主党多数議会とバイデン政権が銃規制法やインフレ対策法を成立させたこともあり、民主党は(下院では敗北するとしても)上院では善戦するのではないかとの予測もされました。とはいえ、選挙の直前となっても歴史的なインフレを克服することができなかったため、やはり民主党苦戦が予想されている状態です。
次回の記事では、有権者の投票行動と今年の中間選挙の重要争点について、解説することにします。