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米共和党副大統領候補がバンスに。『ヒルビリー・エレジー』で描かれた白人問題とは? #専門家のまとめ

西山隆行成蹊大学法学部政治学科教授
(写真:ロイター/アフロ)

米国のトランプ氏が共和党の副大統領候補に選んだのは、オハイオ州選出の連邦上院議員であるJ.D.バンス氏だった。当初はトランプに批判的だったが、自らの連邦上院議員選挙の予備選挙での逆転勝利を目指し、トランプ派に転向した人物である。彼を有名にしたのは、繁栄から取り残された白人の悲哀を描いた『ヒルビリー・エレジー』という著作だった。それでは、現在二大政党が白人労働者層の支持を取り合っているが、白人労働者層をどのように理解すればよいのだろうか?

ココがポイント

▼米国政治において白人問題が持つ意味を明瞭に説明した原稿。バンスの『ヒルビリー・エレジー』やホックシールド『壁の向こうの住人たち』に言及しつつ、重要な問題提起を行っている。

久保文明「「白人」対「白人」ーイデオロギー的分極化の一側面」(笹川平和財団、SPFアメリカ現状モニター )

▼白人労働者層が政治を動かしているのは米国だけではない。白人労働者層を「新たなマイノリティ」と呼んだジャスティン・ゲストの著作に言及しつつ、米国と英国の人種政治を分析している。

吉田徹×西山隆行×石神圭子×河村真実「「みんながマイノリティ」の時代に民主主義は可能か」(SYNODOS)

▼白人とマイノリティはしばしば対立するものとして説明されるが、実はマイノリティの中にも白人の政治文化を身につけて「ホワイトシフト」しつつある人々がいる。マイノリティ政治の複雑さを説明している。

西山隆行「三度目の起訴でもトランプ優位は変わらず。ホワイトシフトが起こる中、岩盤支持層とマイノリティの関係は?」(Yahoo!)

▼バンスが選出された米国の副大統領とは?意外と知られていない副大統領の役割や歴史を解説している。

西山隆行「〈トランプ氏が副大統領候補を選出〉歴代最も活躍した副大統領は?その役割や歴代の功績」(Wedge Online)

エキスパートの補足・見解

 バンスの著した『ヒルビリー・エレジー』は世界的な注目を集め、トランプ支持者の世界観が多くの人に知れ渡りました。トランプにとってはバンスをランニングメートに選出したことは、一種の原点回帰のような意味がありそうです。バンスの妻の親はインドからの移民だそうですが、仮にマイノリティの支持獲得を目指すならばフロリダ州上院議員のマルコ・ルビオなどを選出していたはずです。それよりもむしろ自らの岩盤支持層である白人を確実に固めようという意図から、バンスを選んだのでしょう。

 トランプとバイデンの再戦となるであろう2024年米大統領選挙は、白人労働者層の支持をめぐって争われることになりそうです。それが米国の政治・社会の分断状況とどのように関わっているのか、米国の分断は今後収まっていくのか、などの問題を考える上でも、上記のレポート等を読んでみてください。

成蹊大学法学部政治学科教授

専門は比較政治・アメリカ政治。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。主要著書に、『〈犯罪大国アメリカ〉のいま:分断する社会と銃・薬物・移民』(弘文堂、2021年)、『格差と分断のアメリカ』(東京堂出版、2020年)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会、2018年)、『アメリカ政治講義』(ちくま新書、2018年)、『移民大国アメリカ』(ちくま新書、2016年)、『アメリカ型福祉国家と都市政治―ニューヨーク市におけるアーバン・リベラリズムの展開』(東京大学出版会、2008年)などがある。

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