社会イノベーションの対象としての街づくり―ストリート・アントレプレナーたちの活躍
昨年1年をかけて慶應SFCのゼミ生たちと都市問題を掘り下げて学んだ。スマートシティ、自動運転、孤独問題など最新の動きも見たが、近代ヨーロッパ都市の自治の歴史と最近の脱自動車戦略の関係、後藤新平の東京の都市戦略と台湾経営の関係なども面白く興味が尽きなかった。見ていくうちに都市とアントレ・プレナーシップの関係に興味を持った。考えてみれば都市は人工的に作るものだ。誰かが先行投資したところから始まり、やがて投資が投資を呼んで人とお金と情報が集まる。そしていったん集積すればなかなか衰退しない。都市の発展の歴史は起業に似ている。
都市はまた歴史の光と闇、すべての人間ドラマの舞台であり、繁栄も貧困も、争いも安穏も社会のすべてが都市の姿となって我々の眼前に表れる。都市はスケールが大きい。命も数百年、いや数千年でスケールが大きい。それでも「都市」はかろうじて経営の対象だ。やり方次第で姿はじわじわと変わる。また都市は等身大の暮らしに直結して我々に「社会」のあり方を感じさせる唯一の装置だろう(「企業」が「経済」を感じさせる装置であるのと同じく)。だから動かせる。そして変革とイノベーションの対象になる。「国家」や「社会システム」はあまりに巨大化し、制御不可能にみえる。そんな中で都市は我々が社会の姿を少しは変えていける数少ないスイッチ、文鎮のつまみのようなものにみえる。今回から数回にわたり「都市」に着目した社会イノベーションを考えてみたい。
〇都市開発の担い手の変遷ーー官から民へ
かつて、世界各地で都市計画や街づくりは昔はもっぱら官(政府)の仕事だった。東京でも政府が丸の内の用地買収をして鉄道、そして東京駅を作った。やがて民間がでてくる。東京駅のそばで三菱が丸の内にオフィスを建設した。やがて私鉄が沿線開発を始める。最近ではユーカリが丘の開発(山万)や六本木ヒルズ(森ビル)の再開発も民間企業が手掛けた。だが最近は大型のさら地の開発案件は少なくなった。むしろあちこちに空き家や空き店舗が出てきた。スポンジ化した住宅街や空き店舗に悩む商店街をどうするかが課題である。昔は面(埋め立てやニュータウン建設)や線(鉄道、道路の沿線)の開発だった。それが今や無数の点の対策が都市開発の大きな課題になってしまった。しかもその点の数が多く政府や企業の手に負えない。そこに出てきたのが個人のストリート・アントレプレナーである。
〇ストリート・アントレプレナーとオーガニックな街づくり
世界各地でストリート・アントレプレナーが活躍している。手法はリノベーションが多い。古い風呂屋を改造してシェアオフィスに変える。空き店舗をおしゃれなショップに変える。ひとつひとつは古い物件、つまり点の再生でしかない。それぞれは小さな事例だが目的は大きい。小さなチャレンジが通り全体に伝播する。すると地域全体が活性化する。各地で官も民も手掛けにくい点の再開発を個人が担い始めている。彼らはゆっくりとそしてオーガニックな無理のない変化を地域に起こす。個人の想いが地域を動かし、そとから人がやってくる。やがて企業が寄付するようになり、行政もついに動くという流れだ。
一番有名なのはニューヨークのハイラインの例だろう。廃線となった貨物鉄道の線路敷きを若者たちが市民に呼び掛け、企業を動かし、行政の同意をとりつけ公園にかえていった都市の再生ドラマである。
ビジネスの世界ではイノベーションや起業(アントレプレナー)が脚光を浴びるが、都市づくりの世界でもストリート・アントレプレナーという生き方が注目を浴びる。オリジンは米国だ。米国人は起業と同じ発想で街を自由自在に変えていくイノベーションの対象ととらえる。だから先端思想やビジネスのトレンドが街づくりにあらわれる。
〇ストリートアントレプレナーの元祖:ジェイン・ジェイコブズ
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