<シリア>ISと戦う米国人義勇兵・仲間の死「これが戦争」(写真5枚)
2018年10月、過激派組織イスラム国(IS)はシリア南東部の最後の拠点に追い込まれ、クルド組織・人民防衛隊(YPG)が主導するシリア民主軍(SDF)と激しい戦闘を繰り広げていた。YPGには、各国から志願してきた男女、百人以上が加わり、戦っている。ハカサ近郊の国際義勇部隊を訪ねた。(玉本英子・アジアプレス)
◆クルド組織と共闘する外国人義勇部隊
米国から半年前にやって来た金髪の米国人青年(24歳)は、ハキ・ニヴィスカールと名乗った。クルド語で「作家」という意味で、組織内部で使う名だ。ペンシルバニアの大学を出た後、レストランで調理師として働いていた。中東のニュースをネットで追うなかで知ったのが、ISと戦うクルド組織YPGと外国人部隊、国際自由大隊(IFB)の存在だった。
YPGは左翼的性格が強く、そこに参加する外国人たちには共産主義者が多い。外国人義勇兵には「反帝・反米」を主張する者も少なくない。学生の頃からレーニンの著作を愛読し、革命闘争に関心があったハキは、自分も戦闘員になりたいとコンタクトをとった。もちろん、志願しても誰もが入隊できるわけではない。半年以上かけて政治思想や適応体力、身辺情報を厳格に精査され、YPG入りが認められた。シリアに向かう際、誰にも告げず、親には思いを綴った手紙を残してきた。
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過酷な軍事訓練の後、前線の警戒任務についた。対峙するのはISだ。クルド組織の一員として銃を手に戦うことの緊張、各国の仲間との共同生活。充実する日々だった。だがある日、同じ部隊にいたフランス出身の仲間が、ISのロケット砲弾の直撃で死んだ。「これが現実の戦争、人間の殺し合いなのだと認識した」とハキは振り返る。
◆米軍の空爆で市民に犠牲者も
トランプ政権になって以降、米国はIS掃討作戦を加速させた。YPGは米軍主導の有志連合の空爆支援や武器供与を受けて、地上戦を展開する。一方、米軍の空爆で多数の地元住民が犠牲となっている。IS壊滅作戦の「大義」の名のもとに、子どもを含む市民が巻き添えになり、被害者には医療支援や補償もなかった。この状況をどう思うか、私はハキに問うた。
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僕には言葉は見つからないけど、としながらも彼は続けた。「罪なき女性や子どもが空爆で殺されるのは悲しいこと。米国は軍事作戦と同時に人道団体が医療や生活をサポートできる基盤を作らなければ、いずれISが復活することになる」。
YPGはシリア北部のクルド人居住地域の戦いを、「民主自治の社会革命」と位置付ける。その戦いに外国人義勇兵が結集することは、「各国の戦士たちも革命闘争を支持」と世界に向け、アピールすることにもつながる。国際社会がクルド問題を見放してきた中で、このIS掃討戦で外国人部隊を編成するYPGには、そうした政治的思惑もある。
シリア・イラク国境近くの町に追い詰められたIS。3月には最後の拠点、バグーズが陥落した。だが潜伏するIS残存部隊が各地で自爆攻撃を続けている。戦いは終わってはいない。
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「この地の住民のために命を捧げる覚悟だ。必要とされる限りはここにとどまる。でも助っ人の役目を終えたら米国に戻って、経験をもとに社会運動をやりたい」。シリア戦闘組織に関与したことで、ハキはこの先、米FBI(連邦捜査局)の監視下に置かれることになるだろう。「それでも後悔はしない」と彼は言った。
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2019年04月23日付記事に加筆修正したものです)