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なぜ「やる気も・能力も低い」部下には命令するしかないのか?

横山信弘経営コラムニスト
(ChatGPT DALL-E 3 にて著者作成)

■部下に合わせて指導法を変えるべき?

「まるで部下が成長しない。どう指導したらいいの?」

上司にとって、部下の指導はビジネスの現場において絶えず直面する課題だ。その指導方法をどう選ぶかは、リーダーの資質を問われる瞬間でもある。

とはいえ、世の中の上司たちは部下の多様な特性に合わせてどのような指導法を選べばいいのか? 迷う人も多いだろう。

「やる気があるけれど能力が低い」

そんな部下にはどう接すればいいのか。

「能力は高いがやる気がない」

こういった部下には、どんなアプローチが効果的なのか。

実のところ、この複雑なジレンマの答えは、「Will×Skillマトリクス」を使うことで解消される。このマトリクスは、部下の「やる気」と「能力」の2つの軸をもとに、最適な指導法を導き出すフレームワークだ。

では、部下一人ひとりの特性を理解し、部下たちの成長を最大限に引き出すため、このマトリクスの活用法を詳しく解説していこう。組織リーダーとしての新たな視点を得るために、ぜひ最後まで読んでいただきたい。

■「Will×Skillマトリクス」とは?

「Will×Skillマトリクス」とは、前述した通り、やる気と能力の2つの要素を用いて部下を分類するフレームワークだ。やる気が高いか低いか、能力が高いか低いかという2軸で部下を評価する。

(1)やる気が高く、能力も高い部下

(2)やる気が高く、能力は低い部下

(3)やる気が低く、能力は高い部下

(4)やる気も能力も低い部下

この4つのカテゴリーに部下を分類することで、適切な指導法を選ぶのである。

■やる気が高く、能力も高い部下への指導法

<サーバントリーダーシップ>

やる気も能力も高い部下に対しては、サーバントリーダーシップ(支援型リーダーシップ)が効果的だ。部下の自主性を尊重し、上司は必要な時にだけサポートする。干渉は最小限にし、部下が自分で問題を解決し、成長できるようにするのだ。

ある大手テクノロジー企業のエピソードを紹介したい。

エンジニアAさん(26歳)は、その分野の知識とスキルが非常に高く、新しい技術や手法を迅速に取り入れることで新規プロジェクトの成功に貢献していた。

そこでリーダーはAさんに、新技術の研究に時間を費やすよう奨励した。研究の成果を他部署でも共有するプレゼンの機会も与えた。

この取り組みにより、Aさんはさらにモチベーションをアップさせた。組織全体のイノベーションにも貢献することができた。

リーダーがサーバントリーダーシップを発揮したことによる効果が如実に表れた例である。

■やる気が高く、能力は低い部下への指導法

<持続的な社員教育とトレーニング>

やる気は高いが能力が低い部下に対しては、持続的な社員教育やトレーニングを提供する。社内の教材やトレーニングプログラムに参加させることで、部下のスキル向上をサポートするのだ。

ある繊維メーカーの販売部門でのエピソードを紹介しよう。

Bさん(24歳)は、商品に対する情熱や、お客様に貢献したいという意識がとても高い若者だった。しかし、販売の技術や知識、対応スキルにはまだ磨きが必要だった。

そこでリーダーはBさんの熱意を評価しつつ、彼のスキルを高めるためのアプローチを考えた。

経験豊富な先輩社員をメンターとしてつけ、日々の業務の中でOJTを徹底させた。次に、外部の販売スキルアップ研修に参加させ、基本的なスキルと知識を身につけさせた。

また、毎週のミーティングではBさん自らの経験や学びを共有させることで、彼の自信を育てるサポートを続けた。

この結果、Bさんは数ヶ月のうちに顕著な成果を上げた。やる気が高い彼のポテンシャルを最大限に引き出すことができたのだ。

■やる気が低く、能力は高い部下の指導法

<外部コーチングの活用等>

やる気と能力の特性を考えると、やる気はアップダウンする。そのいっぽうで、能力は比較的安定しているものだ。

だから、気を付けるべきは部下のやる気が低下しているときだ。組織内に何かが問題として存在している可能性が高いからだ。その要因を排除することでやる気は回復していくものだ。

やる気が低く、能力は高い部下への指導法の事例として、あるIT企業のエピソードを紹介する。

IT企業に所属するCさん(28歳)は、その技術力と深い知識で部門内でもトップクラスの評価を受けていた。

しかし、ある時期から業務への取り組み方が消極的になり、明らかにやる気の低下が見受けられた。チームの生産性やモチベーションに影響が出はじめたのだ。

リーダーは当初、自分でCさんとの対話を考えた。しかしCさんは、どちらかというとプライドが高い。そのため、外部コーチを招へいしたほうがいいと判断し、切り替えた。

外部コーチとのセッションが2か月続いた。コーチがCさんの不満や悩みを深く聞き取っていった。すると、Cさん自身が過去の経験を活かせる新しい挑戦を求めていることが明らかになった。

コーチからのフィードバックをもとに、リーダーはCさんに、専門知識を活かして社内研修やセミナーの講師として活動する機会を与えた。これにより、Cさんは自らの能力を活かす新たな場を得ることができ、やる気を取り戻すことができた。

■やる気も能力も低い部下への指導法

<支配型リーダーシップ>

能力もやる気も低い部下には、支配型リーダーシップを適用しよう。支援ではなく、「命令」を主体としたリーダーシップである。

「昭和のやり方だ」

と批判されても、かまわない。

部下に具体的な指示を与え、マイクロマネジメントを行うことだ。細かく干渉することで、「小さな成功体験」を積ませる。成功体験が部下の自信を高め、少しずつやる気を引き出していく。

やる気も能力も低い部下への指導法として、製造業の小規模工場の事例を紹介したい。

製造工場のB工場に入社したDさん(19歳)は、入社当初から他の従業員と比べて成果を出せず、ミスも多かった。また、明らかにやる気の欠如が見受けられた。部署内の雰囲気にも悪影響を及ぼしていた。

上司である工場長はDさんの状況を憂慮し、アクションを起こすことを決意した。

工場長はDさんに日々のタスクに対する具体的かつ明確な指示を出しはじめた。細かい手順を指南し、Dさんが完成するごとにすぐフィードバックを与えた。

また、Dさんの隣に経験豊富な先輩を配置し、彼からの日常的なサポートを受ける体制を整えた。

さらに、Dさんが小さな成功体験をした際には、その功績を部署内で積極的に認め、称賛する文化を作り出した。これにより、Dさんは自己効力感をアップさせ、徐々に自信を取り戻していったのだ。

数ヶ月後、Dさんは基本的なタスクを一人で遂行できるようになり、やる気も徐々に向上。チームの一員としての役割を果たすようになった。

■リーダーは単純化した考えを持つのはやめよう

部下指導とは「指示を出す」だけの行為ではない。部下一人ひとりの成長を促進する「育成」のプロセスと言えよう。

だからこそ部下の指導には、個々の特性に合わせたアプローチが必要だ。多様性の時代なのだから、

「リーダーはコレさえやればいい」

「部下指導はこうすべし」

といった単純化した考えを持つのはやめよう。

「Will×Skillマトリクス」を使用して部下を分類し、適切な指導法を選ぶことが成功の鍵である。

<参考記事>

■主体性に欠けている人は「病気」である! 主体的になるために強制させるべき2つのこと【5800字】

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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