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快活なSMの女王様から、ふしだらな毒母に。よく求められるダークサイドの女性役で大切にしたことは?

水上賢治映画ライター
「ホテルアイリス」に出演した菜 葉 菜   筆者撮影

 廣木隆一監督の手による映画「夕方のおともだち」でSMの女王様、ミホを演じたことが記憶に新しい、菜 葉 菜。

 同作で村上淳とともに主演を務め、SM嬢という難役に挑んだ彼女については、先日まで全四回(第一回第二回第三回第四回)と番外編にわたってのインタビューを届けた。

 それに続き、今度は出演作「ホテルアイリス」に関してのインタビュー。

 北京オリンピック期間中に流れた「クボタ」のCMも話題を呼んだ彼女だが、実は今年、8本の出演映画(主演作が3本)の公開が決定済み!

 そのうちの1本である、奥原浩志監督作品「ホテルアイリス」では、主人公・マリをある種、支配する毒のある母親を演じている。

 芥川賞作家、小川洋子の原作を映画化した同作について、菜 葉 菜に訊く。(全二回)

物語の全体像はつかめるんですけど、

どういう作品になるのか想像がまったくつかなかった

 本作の舞台となるのは、寂れた海沿いのリゾート地にひっそりとたたずむ「ホテルアイリス」。

 主人公のマリは、日本人の母親が経営する同ホテルを手伝っている。

 ある夜、彼女は激しくもみ合い部屋から飛び出してきた男女に遭遇。

 女性に罵声を浴びせ暴力をふるう男にマリはなぜか興味を覚える。

 後日、この男が孤島で独りで暮らすロシア文学の翻訳家であることが判明。

 作品は、この出会いからはじまるマリと翻訳家の男のただならぬ関係を官能的に描き出す。

 はじめに脚本の印象をこう語る。

「ひと言でいうと、奥原監督ならではの独特の世界が広がっている物語だなと思いました。

 ちょっとご本人には失礼に当たるのかもしれないのですが、奥原監督はすごく不思議な人なんですよ。

 つかめそうでつかめないというか。こちらの想像が及ばないことを考えていらっしゃる。

 『どういうこと考えているのか?』と頭の中を覗きたくなっちゃう。独特の感性と世界観をもっている。

 そのつかみようのない世界観が脚本全体から感じられた。しかも、小川洋子さんの原作とは少し変えている点もある。

 だから、もちろん物語の全体像はつかめるんですけど、どういう作品になるのか想像がまったくつかなかったです。

 このシーンはどういう演出がなされて、どういう映像になるのかいい意味で想像がつかなくて、どういうことになるのかすごく楽しみでした」

「ホテルアイリス」に出演した菜 葉 菜  筆者撮影
「ホテルアイリス」に出演した菜 葉 菜  筆者撮影

よく求められる、ダークサイドの人物像を表現しなければいけない役

 菜 葉 菜が演じたのはマリの母親。この母親なのだが、いまどきの言い方でいうと「毒母」というか。

 自身はかなり自由奔放でふしだらと言われても仕方のないぐらい男もとっかえひっかえのようなところがあるが、娘に対しては厳しくマリは束縛されている。

「『夕方のおともだち』のミホはSMの女王様ではありましたが、ちょっと陰はあるけど快活で明るい。裏表のないさっぱりした性格の女性でした。

 でも、このマリの母親は正反対。もうどす黒いぐらいのダークな感情の持ち主で、娘のことを愛していないわけではないけど、うまくいかないことや嫌なことがあるとついつい当たってしまう。

 わたしの得意とする?(笑)というか、よく求められる、ダークサイドの人物像を表現しなければいけない役でした」

「ホテルアイリス」より
「ホテルアイリス」より

行き過ぎてはいるんですけど、

そこには娘に対する愛情が確実に含まれていることが伝わるように

 演じる上ではこんなことを考えていたという。

「傍から見ると、完全に歪んだ愛情にしか感じられない。

 ただ、この母親としては娘を深く思うがゆえにというところがある。

 愛情表現が下手で、うまくできないから、そうなってしまっているところがある。

 また、マリにとっては父親、母親にとっては夫の死と不在が二人には暗い影を落としている。

 そこからまだ二人が立ち直れていないがゆえに、対立するところがあって関係がうまくいっていないところがある。

 この母親にも同情する余地が少しはある。なので、あまりダークにしすぎないで、悪者になりすぎないようにとは思いました。

 行き過ぎてはいるんですけど、そこには娘に対する愛情が確実に含まれていることが伝わるようにとの思いを抱きながら演じましたね」

派手なメイクと衣装に、わたしも「大丈夫か?」と思いました

 その演技とともに際立つのが、ビジュアルだ。もうこれはみていただくほかないのだが、ド派手なメイクと衣装に驚かされる。

 ただ、これが不思議なことに、この作品世界においては見事にマッチしている。

「びっくりしますよね。

 正直なことを言うと、わたしも『大丈夫か?』と思ったんですよ。

 衣装合わせのときに、監督に『カツラ、ウィッグも付けます。メイクもケバ目でやります』と言われて。『???』って思ったんですけど。

 奥原監督の中にもう明確なイメージビジュアルがあったみたいで、『もっとやっちゃいましょう』といって、どんどんメイクも衣装も派手になっていったんです。

 わたしは心の中で『ほんとうに?』という感じで。

 だって、ほかの登場人物は地味目というか、普通のいで立ちじゃないですか。その中にわたしが入ると浮くんじゃないかと思ったんです。

「ホテルアイリス」より
「ホテルアイリス」より

 でも、原作にも今回の作品にもある、ある種のファンタジックな世界に入ると、あのビジュアルが成立するんですよね。

 というかあのホテルアイリスのなんともいえないアンティークな雰囲気とクラシカルなたたずまいに入ると見事にはまっていて、狙いすましたような形になっている。

 衣装合わせのときに、『大丈夫ですか、わたし?』って思いましたけど、あの空間に立つと違和感がない。

 あのホテルは実在しているんですけど、もう今回の物語を体現しているというか。

 どこの国ともいえない、現存しているのかさえわからなくなるような不思議な雰囲気のあるホテルで、あの空間に立った瞬間に『まったく違和感がない』と思ったんですよね。

 奥原監督の目はすごいなと思いました」

(※第二回に続く)

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第一回はこちら】

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第二回はこちら】

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第三回はこちら】

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第四回はこちら】

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー番外編はこちら】

「ホテルアイリス」ポスタービジュアル
「ホテルアイリス」ポスタービジュアル

「ホテルアイリス」

監督・脚本:奥原浩志

原作:小川洋子

出演:永瀬正敏、陸夏(ルシア)、菜 葉 菜、寛一郎、マー・ジーシャン、

パオ・ジョンファン、大島葉子、リー・カンション

アップリンク吉祥寺、小山シネマロブレにて5/5(木)まで上映中。

ほか全国順次公開中。

ポスタービジュアル及び場面写真はすべて(C)長谷工作室

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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