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悩めるM男に付き合うSMの女王様役に。二人の関係は「ともだち」ではなく「おともだち」なんです

水上賢治映画ライター
「夕方のおともだち」で主演を務めた菜 葉 菜  筆者撮影

 「ありがとう」「レッド」などで知られる漫画家、山本直樹の同名原作を廣木隆一監督が映画化した映画「夕方のおともだち」は、ドM男のヨシオとSMの女王様、ミホの物語……。

 となると、なにやらアブノーマルな性愛の物語を想像してしまうに違いない。

 確かにSMの世界が物語に深く関わってくるので、艶めかしく妖しい面がないわけではない。エロティックな性描写もある。

 ただ、作品全体からこぼれおちてくるのは、意外なことにどこにでもいるような人間のありふれた日常、そしてままならない人生といっていいかもしれない。

 生きる糧を失い、心が宙ぶらりんのヨシオと、なにか深い哀しみを背負いながらもそれでも前を向くミホがふともらす切実なつぶやきが聴こえてくる。

 この原作に何を見出して、SM嬢というハードな役柄にいかにして挑んだのか?

 村上淳とともに主演を務めた菜 葉 菜に訊く(第一回第二回第三回)。(全四回)

ミホにとってヨシオはいまを生きる中で、いま必要だった人なのかもしれない

 第四回は、物語の核心部分になる菜 葉 菜が演じたミホと村上淳が演じたヨシオの関係についての話から。

 ヨシオとミホの関係ははっきり言うと微妙だ。

 ヨシオはミホを指名してSMプレイに興じる。一方で、いつからか店外でも会うようになって、居酒屋で飲んだり、魚釣りにいったりもする。

 ヨシオはミホとセックスもする。いやヨシオがミホに頼み込んでするが、それは愛があってではなく、きちんと自分がセックスをできるのか確認するためだけだったりする。

 前回のインタビューで菜 葉 菜が語っているように、ミホは、こうしたヨシオをすべて受け入れる。

 そこには確かに愛情や好意があるようにも思えるが、それをミホはおくびにも出さない。

 ヨシオに想いはあるが、それが恋愛や結婚を求めているとは思えない。

 菜 葉 菜自身は最終的に作品をみて、どんな感想を抱いたのだろうか?

「ミホはヨシオになにを見ていたのかなと、いまでも考えます。

 ミホはヨシオに惹かれているようにも、あまり興味がないようにも見えるというか。

 求めているようにも、あまり求めてないようにも見える。

 ラストシーンなので明かせないですけど、あのあと、二人はどうなるのかなってよく考えるんです。

 そこは、みなさん、それぞれに見解をもっていただければいいかなと思います。

 わたしがミホとして感じたのは、ヨシオはなんだろう、友人とかお客さんとか、恋人として意識した男性とかではなく、なにか彼女がいまを生きる中で、いま必要だった人なのかなと。

 それはヨシオもそうだったのかもしれない。大好きなユキ女王様がいなくなってしまったいま、彼にはミホが必要だった。

 ミホがいまを生きる上で、ヨシオは必要とする人だった。

 ヨシオと話したり、少し時間を過ごすことで、ミホはちょっとふさぎ込んだ気持ちが晴れたり、本音を吐くことでストレスを解消したりしているところがある。

 いまを生きる上でちょっといてくれると助かる人だったのではないかと。だから、それ以上の関係は求めていなかった気がします」

「夕方のおともだち」で主演を務めた菜 葉 菜  筆者撮影
「夕方のおともだち」で主演を務めた菜 葉 菜  筆者撮影

『ともだち』ではなく、『おともだち』なんです

 タイトルにある「おともだち」、ともだちではなく、「お」がつく「おともだち」というのが二人の関係のキーワードといっていいかもしれない。

「そうなんです。

 『ともだち』ではなく、『おともだち』なんですよね。

 夕方というのもまた意味があって、夕方のみ、限定的なイメージを想像させる。

 『おともだち』というのは、相手への敬意も、少し距離があることも感じられる。

 まぶだちとかとは違って、どこかよそよそしさもあれば、親しみを込めてのところもある。

 親しき仲にも礼儀ありじゃないですけど、お互い余計な領域に土足で入るようなことはしない。

 わきまえるところはわきまえて、大人の対応をする。そういういい大人の関係で、ほんとうに『夕方のおともだち』なんだと思います。二人の関係は」

表面だけで判断できない、してほしくない、ミホとヨシオの誠実さ

 この二人の物語についてはどう感じたのだろう?

「ヨシオもミホも一生懸命生きているんですよね。

 ヨシオは、お母さんの看病に日々追われる大変な毎日を送っている。

 ミホも人には言えない何かを抱えながら、日々を懸命に生きている。

 変な話ですけど、SM嬢とその店の常連客のM男は、傍からみると変人にどうしてもみられてしまう。『あの人、尋常じゃない』と判断されてしまう。

 でも、劇中、汚職にまみれた選挙のエピソードが物語に絡んできますけど、あの候補者二人と、ミホとヨシオを比べたら、『尋常じゃない方はどっちですか』と思うんですよね。

 どっちの方が誠意のある人間で、どっちの方が正直に生きているかと。断然、ミホとヨシオではないですか?

 そういう表面だけで判断できない、してほしくない、ミホとヨシオの誠実さ。

 そこに原作を読んだときから、心を惹かれていたんだなと、今回の映画を通して、改めて思いました。

 そこがこの物語のすばらしさだと思います」

「夕方のおともだち」より
「夕方のおともだち」より

またひとつ宝物のような作品になりました

 ミホを演じ切ったいま、なにを思うのだろうか?

「わたしにとっては、ほんとうに愛おしい作品です。

 ミホも作品自体も、支えてくれたスタッフもキャストもすべてがすべてが愛おしい。

 またひとつ宝物のような作品になりました」

(※今回で連載は終了となりますが、続いて、これから目指すところなど語ってもらった番外編をお届けします)

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第一回はこちら】

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第二回はこちら】

【「夕方のおともだち」菜 葉 菜インタビュー第三回はこちら】

「夕方のおともだち」より
「夕方のおともだち」より

「夕方のおともだち」

監督:廣木隆一

出演:村上淳 菜 葉 菜

好井まさお 鮎川桃果 大西信満 木口健太 田中健介

渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開中

場面写真はすべて(C)2021「夕方のおともだち」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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