プラットフォーマーはなぜ国家と戦うことになるのか―理解のヒントは「規格」(下)
前回は、Amazonやアリババなどのプラットフォーマーの強さは「規格」の考え方で説明できること、彼らは事業基盤を「規格3.0=プラットフォーム」から「規格2.0=大量生産規格」にさかのぼって業態を拡張しつつあること、さらに通貨や度量衡など「規格1.0=測定単位」を司る国家と対立する運命にあると説明した。
さて、次に気になるのはプラットフォーマー以外の大企業の運命である。トヨタ、ソニーなど日本の大企業は「規格2.0=大量生産規格」で大成功してきた。だがプラットフォーマーが台頭する中、彼らは今後どうなっていくのか。
〇みんなプラットフォーマーの下請けになる?
よくある俗説はトヨタもJRも日本交通(タクシー)もGoogle やウィラーエクスプレスなどのMaaS企業の下請けになるというホラーストーリーである。それによると移動はすべてがサブスク形態に移り、車は持たずにチョイ借りする存在となる。電車も旅館もすべて移動は時刻表アプリから予約するようになり、交通事業者はアプリの支配者の下請けになる・・といったストーリーである。その結果、自動車などのモノづくり企業や鉄道会社などのリアルなサービスを提供する企業は顧客との接点を全部プラットフォーマーに奪われ、付加価値が取れなくなるというものだ。これは確かに一部で起きるだろう。書店はすでにAmazonに駆逐され、映画などは配信だけでなく制作までもがNETFLIXの支配下にはいりつつある。「規格3.0=プラットフォーム」が「規格2.0=大量生産規格」を駆逐し、下請け化するとシナリオは一部では成り立ちそうだ。
〇従来型企業の逆襲もある
だが、それだけではない。逆の動きもある。プラットフォーマーが強いのはどちらかというとB2C分野である。利幅の厚いB2B分野では実はネットビジネスも新興プラットフォーマーもまだ浸透できていない。そんな中、従来型企業が逆に規格3・0のプラットフォーマーへと進化しつつある。ウォルマートとコマツの事例をみたい。
〇ウォルマート
ウォルマートは、規格2.0、つまり規格化された大量生産型商品を効率的に売りさばくことで成長してきた。こうしたリアル業態の多くはAmazonなどのプラットフォーマー(規格3.0)に駆逐されつつある。Amazonも日用品のデリバリーを始めている。だがウォルマートはここに逆襲をかけている。例えば最近では、規格2.0の領域にAIを取り入れ、極度に最適化された配送システムをつくりあげている。彼らはもともと自社内に高度なロジスティクス能力を持っていた。それをさらに進化させ最近では消費者の冷蔵庫に商品を入れるところにまで伸長した。こうして顧客とのタッチポイントをネット企業以上に拡げている。そこを足掛かりに最近では、金融サービスにまで事業を拡げ、規格1.0の領域に足を踏み入れはじめた。
〇コマツ
次にB2B分野の例を見たい。建設機械のコマツはメーカーとして高品質の製品を作り出す強みがある。その上にすべての建機にセンサーをつけるようにした。それで稼働中の建機の位置情報や稼働状況、燃費などの情報がとれるようになった。おかげで建機の盗難が減り、稼働状況の最適化も実現した。メンテナンスや修理のベストタイミングの提案もできるようになり、製品のライフサイクルコストも削減された。コマツはもともと規格2.0(大量規格生産)に長けた企業だ。その領域でICTを導入し最適化したうえで客先の建機のICT化も手掛けた。さらに他社の建機にもセンサーを装着したり、販売店や建機の客先にデータを公開した。こうして建機の周りのネットワークとエコシスエムを確立して規格3.0企業となりつつある。
さらに建機の稼働率データを分析すると地域や国単位の生産活動の姿もわかる。建機出荷額とGDPの推移はほとんど一致する。そうして蓄積したデータを使うと生産台数の予測ができるし、さらにその能力を外販すると独自の景気指数であるコムトラックスまで出せるようになった。コマツは規格2.0から3.0へ進化し、さらに規格1.0(測定、度量衡)にまで広がりつつある。
〇企業戦略の3類型と規格の関係
(1)GAFA型
以上の考察をもとに、今後の企業の生き残り戦略を考えてみる。おそらく3類型がある。第1は「GAFA型」である。これは、プラットフォームを原動力にして、広範囲のエコシステムを構築する。前回述べたように、独自の市場をネットワーク上に作り、クラウドや物流を使って既存企業を駆逐し、国家の規格1.0の領域にまで入り込んでいく。Amazonやアリババ、Apple、楽天などみんな規格3.0→2.0→1.0の順に進出していく。
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