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「アドボカシー」で社会を変える方法とは?日本若者協議会の事例から

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
文部科学省で記者会見する日本若者協議会のメンバー(出典:日本若者協議会)

日本社会で多くの課題が指摘される中、一部で女性議員が過半数を超える議会が誕生したり、都心では若者の投票率が大きく上がったりと、徐々に政治に変化が見られつつある。

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筆者が専門とする「アドボカシー」の領域においても、2015年の日本若者協議会設立当時は、全く浸透していなかったが、最近では政策提言も珍しくなくなってきた。

アドボカシーとは:社会にあるさまざまな課題に対して、政策提言や世論喚起を通して政策を動かしていくこと

他方、単に提言するだけでなく、実際に政策実現まで至るにはいくつものプロセスがあり、ハードルも高い。

そこで、日本若者協議会の事例をもとに、「アドボカシー」で社会を変える方法を紹介したい。

高校生や大学生が動かした政府・東京都の痴漢対策

日本若者協議会ではこれまで、ヤングケアラーへの対策強化、コロナ禍における学生給付金、大学院生への経済的支援、生徒指導提要の改訂、こども基本法、部活動の強制加入撤廃など、さまざまなテーマで政策実現に関わってきた。

中でも、ここ1-2年注力してきたテーマの一つが、痴漢対策の強化だ。

いうまでもなく、痴漢は性犯罪である。トラウマで電車に乗れなくなるなど、被害者に深刻な影響を及ぼす。

しかも、都心では被害経験のない女子高校生の方が珍しいぐらい、多くの女子生徒が被害に遭いながらも、長年軽視され続け、本格的な対策が取られてこなかった。

高校生や大学生などで構成される日本若者協議会ジェンダー政策委員会では、この長年続く性犯罪を本気でなくそうと、2021年8月から署名活動を始め、各政党、政府、東京都などに対して働きかけてきた。

その結果、2023年3月30日に、政府として初めて網羅的にまとめた「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」が公表された。

この政策パッケージの中には、日本若者協議会が要望してきた10項目が全て盛り込まれている。

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東京都では、2021年度末に改訂された「東京都男女平等参画推進総合計画」に、痴漢対策に取り組む旨を明記。

2023年1月18日からは、都営大江戸線に女性専用車両が導入された。2005年に都営新宿線に導入されて以来、都営地下鉄に新たに女性専用車両が導入されたのは、18年ぶりだ。

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東京都の2023年度予算には、5000万円の痴漢撲滅プロジェクトが新しく入り、痴漢被害の実態調査や庁内プロジェクトチームの設置と民間事業者と連携したムーブメントの創出、痴漢撲滅キャンペーン等の展開が進められようとしている。

社会を変えた方法

政府や自治体の取り組みは、計画・予算策定、実態調査、施策実施と、実施に至るまでの工程が多く、どうしても時間がかかってしまうが、着実に計画がまとめられ、本格的な対策が進められようとしている。

なぜ政治家でもない、高校生や大学生がここまで社会を動かすことができたのか。

それは、きちんとコツを踏まえた上で、戦略的に動いたからである。

他のテーマでも提言が実現しているように、そこには再現性もある。

具体的には、下記のような順番で動いている。

1.団体内でテーマ選定

2.専門家へのヒアリングや勉強会、専門書などを踏まえて提言作成

3.署名立ち上げ

4.政策の意思決定者(政治家や行政)に提言手交(地方議会では議会への請願も)

5.記者会見(世論喚起)

6.進捗確認、党内の勉強会など

それぞれ詳細を説明しよう。

当事者性を意識してテーマ選定

ジェンダーと言っても様々な社会課題があるが、団体内で取り組むテーマを決める際に、若者の代表組織である日本若者協議会がもっとも重視している点は、当事者性である。

なぜ自分たちがこの問題に取り組む必要があるのか?と言い換えても良い。

今回であれば、痴漢の被害者の多くは制服を着た女子生徒であり、実際にメンバー本人や友人が被害に遭っていた。

会議の中でこのテーマを取り上げた大学生のメンバーは、友人が痴漢被害に遭い、日本若者協議会に所属していることを知っていたことから、相談をもらったという。

そして、高校時代に、クラスの半数以上が痴漢被害に遭っていたことを思い出し、政策的に解決できることがあるのではないかと、痴漢対策に取り組むことを提案。他のメンバーも共感し、この問題に取り組むことを決めた。

専門的な知見を踏まえて政策立案

テーマ選定の際には、当事者性をもっとも重視するが、提言を作る際には、専門性も重視する。

単に提言するだけでなく、実現を目指すためには、問題の背景や、現行制度の課題などを深く知る必要があるからだ。

政治家や官僚よりも詳しい、最低でも対等に議論できるところまでは深く知らないと、実現性の高い提言をすることは難しい。

そのため、提言を作るまでに、痴漢対策に取り組む民間団体にヒアリングしたり、専門家へのヒアリング、専門書を読み込んだりした。

一方、政策の意思決定者である政治家や官僚に動いてもらうためには、共感を生むことも重要であるため、当事者の体験談を盛り込み、感情的な訴えや、現場の詳細を伝えるようにしている。

署名やアンケートで課題の大きさを伝える

そして、一部の人だけではなく、多くの人々が問題だと思っていることを可視化するために、オンライン署名を始め、賛同を募った(新しく団体を立ち上げる際には代表性の確保も重要)。

今回は既に調査データがあったため行わなかったが、当事者向けのアンケートがなければ、独自にアンケート調査を行うことも多い。

校則見直しの生徒参加や、学校での生理休暇導入を提言する際には独自にアンケートを実施している。

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ロビイングの順番や時期を意識して政策提言

その後、政策の意思決定者に提言手交するわけだが、ここでもコツがある。まずロビイングの鉄則は、与党から働きかけることである。

話を聞いてもらうのは野党の方がハードルが低かったりするが、野党が先に提案すると、せっかく与党がやりたいと思っていても、野党の実績に繋がりやすいため、与党として動きにくくなるケースがある。

他方、各党に取り組んでもらった方が、与党や政府へのプレッシャーにもなるため、渡す順番を気にしながら、提言を提出する。

地方議会では請願も有効なため、全会派に話をした上で、議会に請願を提出するのも手段の一つである。今回、日本若者協議会では都議会に都営地下鉄への女性専用車両導入の請願を提出し、全会派一致で趣旨採択されている。

もう一つ、提言を提出する際には、当事者に直接体験談を話してもらうと、より感情的に訴えやすくなる。

また、行政では予算策定の時期などが決まっているため、それを意識して提言することが重要である。

例えば国政では、3月に来年度の予算案が国会で通過し、成立するが、8月末には各省庁から来年度の予算案(概算要求)が出されており、国会に予算案が出される1月頃に提言しても間に合わない。

筆者作成
筆者作成

世論への働きかけ

提言して終わりではない。

政治家は世論を気にする傾向にあるため、世論に働きかけるのも重要である。

実際、日本若者協議会では、文部科学省内で記者会見を行い、ほぼ全ての主要メディアに取り上げてもらうことに成功している。

さらに、筆者がYahoo!ニュースで各党の動きなどを度々取り上げ、各党の“実績”も可視化している。

進捗の確認

一定期間が経った頃には、進捗を聞き、政党内で勉強会を開いてもらったり、官僚との意見交換を重ねる。

今回であれば、与党である公明党や自民党に、党内の勉強会を複数回開いてもらい、そこに同席させてもらった。

そこで日本若者協議会の要望を伝えるだけでなく、政府側の進捗に対して意見を述べるなど、より実効性の高い施策に繋げるために、細かい内容についても意見交換をしている。

これらを行ったり来たりしながら、色々な角度から働きかけ、政策実現を目指す。

政策実現のコツ「政策の窓モデル」

これらのアクションを決める上で、参考にしているモデルがある。それが、ミシガン大学の政治学者であったジョン・W・キングドン教授が生み出した、「政策の窓モデル」である。

出典:キングドンの「アジェンダ設定」と「政策の窓」(津川友介)
出典:キングドンの「アジェンダ設定」と「政策の窓」(津川友介)

キングドンは3つの大きな流れがあり、それらが揃った時が政策変更の好機であると考えた。

その3つの流れとは、

①問題の流れ(Problem stream)

②政策の流れ(Policy stream)

③政治の流れ(Political stream)

である。

まず、人々の間で「問題」だと認識されること。

今回でいえば、痴漢自体は昔から存在するが、そこまで大きな「問題」だと認識されていなかった。

次に、採るべき政策のオプションが存在するか。

今回だと痴漢外来で治療を受けた患者は再犯率が3%程度にまで低下する(通常は30%程度)というエビデンスなども伝えながら、施策を訴えた。

最後に、政治的に動く可能性があるか。

それは政権が保守かリベラルか、選挙前かなど、様々な状況によって異なる。

それら3つの流れが、今どこにあるのか、何が足りていないのかを常に頭に入れながら、戦略を練っている。

これらを全ていきなり完璧にやることは難しいが、何度も経験すると感覚的に今何が必要かがわかってくる。

今回はロビイング・アドボカシーの例だったが、社会を変える手段は他にも存在する。

こうした「武器」を一人ひとりが持ち、それぞれの立場から社会課題に取り組むのが、民主主義が理想とする主権者のあり方である。

現状の日本では、こうした「武器」を持っている人はごく一部だが、民主主義を強化するためには、公教育などを通して、なるべく多くの人に渡していく必要がある。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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