100年続く痴漢問題、撲滅なるか?政府が「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」を公表
100年前から続く、痴漢問題。
初めての女性専用車両導入は、1912年、東京都・中央線の「婦人専用電車」と言われており、痴漢への主要な対応策として、これまで女性専用車両の導入が進められてきた。
ただ、それだけでは不十分であり、いまだに多くの痴漢が連日発生していることは周知の通りだ。
そうした中、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、これまで「日常化」し、「仕方ない」と言われてきた痴漢を本気で問題解決し、来学期に学校に通う時には痴漢なんてない世の中にしたい!そんな思いで、2021年夏頃から、痴漢対策の強化を訴えている。
署名サイト「change.org」で始めた署名キャンペーン https://www.change.org/NoMoreChikan は、約3万人の賛同を得ており、これまで政府や主要政党、東京都、都議会などに対して要望を伝えてきた。
そして、2022年6月には、女性政策に関する政府の重点方針をまとめた「女性活躍・男女共同参画の重点方針2022(女性版骨太の方針2022)」の中に、「痴漢撲滅パッケージ」(仮称)の策定が盛り込まれ、検討が進められてきた。
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その間、日本若者協議会では、与党の会議に参加するなど、関係省庁にも意見を伝えてきた。
一方、東京都では、18年ぶりに、都営地下鉄(都営大江戸線)に女性専用車両が導入されることとなった。
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さらに、東京都の2023年度予算に5000万円の痴漢撲滅プロジェクトが新しく入り、痴漢被害の実態調査や庁内プロジェクトチームの設置と民間事業者と連携したムーブメントの創出、痴漢撲滅キャンペーン等の展開が進められようとしている。
初の網羅的な政策パッケージ
そして3月30日、政府の「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」が公表された。
今後の施策として、
⑴痴漢を防ぐ取組
⑵加害者の再犯を防ぐ取組
⑶被害者を支える取組
⑷社会の意識変革を促す取組
⑸横断的推進のための取組
の観点から、個別の施策がまとめられており、日本若者協議会で要望してきた点が基本的には全て盛り込まれている。
痴漢被害自体は長年続いてきたが、網羅的な政策パッケージがまとめられたのは、今回が初めてとなる。
特に下記の項目などは、根本的に痴漢を減らしていくために非常に重要な点である。
① 痴漢事犯の実態把握(警察庁)
実効的な痴漢対策に資するため、痴漢事犯の検挙件数等についてより詳細な調査・分析(都道府県別・場所別・月別・時間帯別等)を行い、その結果を定期的に公表する。
③ 痴漢被害に関する調査等の実施(法務省、警察庁、内閣府)
(犯罪被害実態(暗数)調査)(法務省)
令和5年度に実施することを計画している第6回犯罪被害実態(暗数)調査において、「性的な被害」を含む各種犯罪の被害経験の有無、「痴漢」を含む被害の内容、捜査機関への届出の有無、その理由等について調査を実施する。
⑧ 生命(いのち)の安全教育(文部科学省)
痴漢被害も含め、子どもたちを性犯罪・性暴力の加害者、被害者、傍観者にさせないための「生命(いのち)の安全教育」の全国での学校の取組を推進する。
① 刑事施設等における性犯罪再犯防止指導等の実施(法務省)
刑事施設においては、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成 17年法律第50号)に基づき、平成18年から性犯罪の原因となる考え方に偏りがある者、あるいは自己の感情や行動を管理する力に不足がある者を対象に、性犯罪再犯防止指導を義務付けて実施しているところ、引き続き、同指導において、痴漢により受刑した者に対し効果的な指導を実施していく。
また、少年院においては、少年院法(平成26年法律第58号)に基づき、平成27年から性非行の原因となる認知の偏り又は自己統制力の不足が認められる者を対象に、性非行防止指導を実施しているところ、引き続き、同指導において、痴漢等の経験を有する在院者がいた場合、これに対し効果的な指導を実施していく。
② 保護観察所における性犯罪再犯防止プログラムの実施(法務省)
保護観察所においては、更生保護法(平成19年法律第88号)に基づき、自己の性的欲求を満たすことを目的とする犯罪に当たる行為を反復する傾向を有する保護観察対象者を対象に、心理学等の専門的知識に基づき、その犯罪的傾向を改善することを目的とした性犯罪再犯防止プログラムを実施しているところ、引き続き、同プログラムにおいて、痴漢を含む性犯罪の再犯を防止するための効果的な指導を実施していく。
③ 地方公共団体が実施する性犯罪再犯防止の取組に対する支援(法務省)
法務省において、令和4年度に、地方公共団体等が活用可能な性犯罪者に対する再犯防止プログラムを開発・提供したところ、その活用が図られるよう地方公共団体等への支援を行う。
また、令和5年度から、都道府県を対象とした再犯防止に関する交付金を交付することとしており、性犯罪者を含め、犯罪をした者等に対する直接支援を実施する都道府県に対し、財政支援を行う。
この加害者への治療強化は特に日本若者協議会で強く要望してきた点である。
現状、痴漢の再犯率は30%程度と、非常に高くなっているのに対し、痴漢外来で治療を受けた人々の再犯率は、3%弱とされている。
またこれまでは、被害にあった人が周りの人に相談した際に、二次被害に遭うケースも珍しくなく、下記のような取り組みも欠かせない。
① 被害申告・相談をしやすい環境の整備(警察庁)
(被害に遭った際や被害を目撃した際にとることが望ましい行動の周知)
被害に遭った際や被害を目撃した際に、被害者や周囲の方がとることが望ましい行動や対応について、国民に対し的確に周知する。
(通報先・相談窓口及び被害申告後の捜査の流れの周知)
被害に遭ったり目撃したりして間もない場合等の緊急の場合は迷わず110番通報をするよう国民に対して更に周知を行う。また、痴漢被害を相談することができる「痴漢相談ホットライン」等の各都道府県警察の連絡先、その他の連絡先として都道府県警察の性犯罪被害相談電話につながる全国共通番号「#8103(ハートさん)」等について周知する。
さらに、被害者等が警察に被害の届出をした後の警察における捜査の流れの概要について、国民に対し的確に周知する。
(捜査段階における負担軽減等)
相談・被害の届出を受ける際には、対応する警察官の性別に関する希望を確認するなどして、適切に対応する。また、繰り返し重複した事情聴取を可能な限り行わないようにしたり、実況見分等を実施する場合に被害者のプライバシーの保護に配意したりするなど、捜査段階における被害者の負担軽減のための取組を更に推進する。
③ 学校における相談体制の充実(文部科学省)
痴漢等の性暴力被害を含め、様々な悩みや課題を抱える児童生徒への教育相談体制を充実させるため、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置を支援しているほか、SNS等を活用した相談体制の充実を図っており、引き続き教育相談体制の充実を図る。
各大学等に対し、痴漢等の性暴力被害も含め、学生から相談しやすい体制の構築、カウンセラー等の専門家との連携等によるきめ細かな対応を要請する。
④ 痴漢被害を理由とした遅刻や欠席への対応(文部科学省)
児童生徒が通学中に痴漢被害に遭った場合、学校を遅刻又は欠席として記録することによる不利益を被ることを避けるために警察への被害の届け出や相談を諦めるケースが多くあると言われている。このため、痴漢被害に遭った児童生徒が警察への被害の届け出や通報を行ったことにより、学校を遅刻又は欠席した場合には、そのことによる不利益を被ることのないよう適切に対応することを教育委員会等に要請する。
通学中に痴漢被害にあった学生が警察への被害の届け出や通報を行ったことにより、大学を欠席した場合の取り扱いについて、当該学生の成績評価や単位の認定等に不利益が生じないように柔軟な対応に努めるよう大学に周知する。
④ 児童生徒等への痴漢対応に関する取組の周知(文部科学省)
児童生徒等の痴漢被害への対応に関する取組をまとめ、全国の教育委員会や大学等に対し改めて周知を行う。
また、東京都や政府の新しいポスターは、その作成過程において、大学生などの若者の意見も取り入れており、その点が記載されたのも大きい。
動画やポスターの作成等、広報活動の実施に当たっては、若者の意見も聞くなどして効果的な実施に努める。
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そして、政策パッケージの確実な実行のための枠組みとして、「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ実行連絡会議」を開催することとしており、確実に対策が進み、痴漢を撲滅できるよう期待したい。