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生理による欠席が理由で高校入試が不利にならないように文科省が通知【学校での生理休暇】

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:イメージマート)

ここ数年でタブー視されることが減ってきた「生理」の話題。

2023年6月16日には、文部科学省から各教育委員会らに対して、生理に伴う欠席が高校入試で不利に取り扱われることのないよう、通知が発出された。

各実施者の実情により、調査書において出席等に係る日数(「出席日数」「出席停止・忌引等の日数」「授業日数」「出席しなければならない日数」など)の記入欄を設ける場合には、臨時休業や分散登校、出席停止等に伴う当該欄への記載内容によって、特定の入学志願者が不利益を被ることがないよう、御配慮をお願いいたします。また、欠席日数欄を設ける場合には、欠席の理由を記載できる欄を設けたり、入学志願者が自ら欠席の理由について申告できる機会を設けたりするとともに、入学志願者が本人に帰責されない身体・健康上の理由(病気・事故等※)により、やむを得ず中学校等を欠席したと認められる場合、そのことのみをもって合理的な理由なく選抜において不利に取り扱うことがないよう、御配慮をお願いします。

※例えば、新型コロナウイルス感染症のいわゆる罹患後症状と考えられる症状や月経随伴症状等も含む

引用元:今後の高等学校入学者選抜等における新型コロナウイルス感染症の影響等を踏まえた配慮等について(通知)※太字は筆者

こうした通知が発出された背景には、小中高生らから、学校での「生理休暇」を求める声が上がっていることがある。

労働者に対しては、労働基準法第68条「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した時は、その者を生理日に就業させてはならない」によって認められている生理休暇だが、小学校や中学校、高校にはそのような制度は存在しない。

日本若者協議会では、#みんなの生理と合同で実施した、当事者300名へのアンケート結果をもとに、文部科学省や東京都らに学校での生理休暇導入を求める要望書を提出。

学校にも「生理休暇」の導入を!学生らが声を上げるワケ。生理痛で倒れる、嘔吐する現状(室橋祐貴)

そうした声を受けて、東京都では内申書(調査書)から欠席欄を削除するなど、入試に直接影響を与えないよう改善が進んでいた。

そして、国会では、2023年5月23日の参院厚生労働委員会で、公明党の山本香苗参議院議員がこの学校での「生理休暇」を取り上げたことで大きな前進を見せた。

国会質疑の重要性を改めて感じたやり取りだったため、やや長いが、引用したい。

(山本香苗参議院議員)この生理休暇を求める声は、職場のみならず、学校においても上がっております。

日本若者協議会とみんなの生理の皆さんが学生を対象に学校での生理休暇の導入についてアンケートを実施しました。

その結果、九割以上の学生が生理によって学校を休みたいと思ったことがあるにもかかわらず、六八%が休むのを我慢している実態が明らかになりました。また、休めなかった理由として一番多かったのが、成績や内申点に悪影響が出ると思ったという回答で、生理によって学校等を休んだ経験のある三人に一人が、欠席扱いにされたことで成績や内申点が下げられたと。また、若干ではあるんですけれども、受験を諦めたり、進学先を変更しなければならなかったという回答もありました。生理になりたくてなっているわけではありませんし、自分の意思ではどうにもできない体調不良のせいで成績や内申点が下がるのは余りにも不公平ではないかと、そういった声も上がっております

そこで、伊藤政務官にお伺いいたしますけれども、文部科学省はこの調査結果はどう受け止めておられるのでしょうか。また、いわゆる学校における生理休暇の導入ということについて、文部科学省としての御見解、お伺いさせていただきたいと思います。

(伊藤孝江 文部科学大臣政務官)お答えいたします。先ほど御紹介いただきました日本若者協議会とみんなの生理合同で実施をされたアンケートにおきまして、九割以上の学生が生理によって学校を休みたいと思ったことがあるにもかかわらず、六八%が休むのを我慢している等の結果であったということを承知しております。生理による体調不良等のつらさは私自身も共感のできるところでもあります。

児童生徒が病気又はその他の事故で学校を休んだ場合には、指導要録において欠席日数として記録をすることとしております。その一方、非常変災等児童生徒又は保護者の責任に帰すことのできない事由で欠席をした場合や、選抜のための学力検査の受検その他教育上特に必要な場合などで校長が出席しなくてもよいと認めた場合は、出席停止、忌引等の日数として記録をすることができます。その中で、一般的に、児童生徒が月経に伴う症状によるものも含め体調不良により学校を休んだ場合、欠席として扱われているものと承知をしております。

ただし、例えば入試などにおいて月経に伴う欠席の日数が影響する、そのようなことがあるならば、それは望ましいものとは考えておりません。今後、どのような対応が適切なのか、関係者の意見を聞きながら検討をしてまいります。

ここで質疑が止まっていたら、将来的な検討にとどまり、すぐに動くことはなかったかもしれない。

ここからさらに、自治体の取り組み事例を挙げながら、すぐに取り組んでほしいと求める。

(山本香苗参議院議員)これから検討していただけるということではあるんですが、もう既に、高校入試においては、こうした学生たちの声に応えるような動きが出てきております。令和五年春の入試から、東京都や広島県では、欠席日数は入試には必要ないとして、内申書の欠席日数を書く欄自体を削除しました。こうした取組はもう既に大阪府、奈良県、また神奈川県が実施をしておりますけれども、こうした取組を是非文部科学省としても積極的に推進をしていただきたいと思います。

また、大学入試においては、内申書に出欠の記録が記載されるけれども、健康状況を理由として不合格の判定を行うことについては真に教育上やむを得ない場合に限定していると、高校入試の場合よりは若干、配慮しているような感じもするんですが、欠席が増えることによって大学進学への影響を心配する方がたくさんいらっしゃいます。

是非、大学入試の内申書におきましても、出欠の記録を書く欄自体を、これは国が定めているわけですから、ここは国においてしっかりこの出欠の記録を書く欄自体を削除していただきたいと思いますが、政務官、いかがでしょうか。

(伊藤孝江 文部科学大臣政務官)まず、高校入試に関しましてですけれども、高等学校入学者選抜の調査書の様式につきましては、選抜の実施者である各教育委員会等が決定するものであり、出欠の記録欄についても、その目的や必要性については各実施者において議論をいただきたいと考えております。

一方で、生理痛等の身体、健康上の理由により、やむを得ず欠席せざるを得ない場合もあること等も踏まえ、そのようなことのみをもって合理的な理由なく選抜で不利に取り扱われることのないよう、各実施者に対して周知をすることを文部科学省において検討をしてまいります

また、大学入試につきましてですけれども、大学入学者選抜につきましては、毎年、高校、大学関係団体の代表者による大学入学者選抜協議会におきまして協議の上、国が調査書の様式を定めているところです。出欠の記録欄の記載方法も含め、調査書の在り方につきましては、同協議会において、高校、大学関係者と丁寧に議論を重ねながら継続的に検討を行ってまいります。

なお、身体、健康上の理由により合否判定において不利に取り扱うことのないよう求めており、その旨、既に大学には通知をしているところでもあります。

(山本香苗参議院議員)まず、高校入試のことにつきましては、しっかりと、実施者、いわゆる都道府県ですね、に対してこういう形で検討してくださいということのお願いの通知を出していただけるということでよろしいんですねというのが一つと、大学におきましては、今回、事前にお伺いしたところによりますと、こういった形で関係者で話合いをしたことはないと、初めて今回こういう形で議論をしていただけるということで、丁寧に、継続的にという話なんで、丁寧に継続的じゃなくて、もう決めることは早く決めてほしいと思いますので、二点、重ねてお伺いいたします。

(伊藤孝江 文部科学大臣政務官)まず、高校入試につきましては、文部科学省におきまして、この周知の検討について、来年度の選抜に向けて速やかに行いたいということを考えております。そしてまた、大学入学者選抜の方につきましては、この大学入学者選抜協議会で協議をしていただくという形になりますけれども、今御指摘いただいたところも踏まえてしっかりと対応してまいりたいと考えております。

こうして、国会で言質を取り、施策を進める。まさに理想的な国会質疑であったように思う。

(山本香苗参議院議員)よろしくお願いしたいと思います。現在、学校には統一した生理に対するガイドラインがありません。特に、体育の授業での生理によるのは(欠席の判断は)先生によってばらばらのために、不満の声がたくさん寄せられています。生理でもプールに参加しなければならない学校もあれば、生理でプールを欠席した際は減点となる学校もあるそうです。生理のことで困っていても学校現場で対応してもらえなかったり、プールを強要されては非常につらいことだと思います。

体育の授業で生理中の生徒はどう参加するのか、保健室で休むことができるのかなど、学校における生理に関するガイドラインを作成してもらいたいといった要望も寄せられております。是非御検討いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

(伊藤孝江 文部科学大臣政務官)学校におきましては、体調不良等により欠席したり保健室に行ったりするということなどで授業を休んだ児童生徒につきましては、一般的に、他の課題を与えたり個別に補習したりするなどの学習を基に適切に評価を行っております。

具体的には、例えば、プールの授業の場合には、保護者や本人から生理による見学の申出があった際には、見学をさせた上で、その授業の目標や学習内容等を確認させ、目当てや評価などに沿った学習カードやレポートを提出させるなど、児童生徒の状況等に応じた活動を通し、学習の機会を確保するようにしていると承知をしております。ただ他方で、このような対応が行われていないという御指摘もいただいております。文部科学省としましては、こうした取扱いについてしっかりと周知をしてまいります。

(山本香苗参議院議員)周知よりまず実態を把握していただきたいと思いますが、いかがですか。

(伊藤孝江 文部科学大臣政務官)様々な関係者等からも現状をお聞きしていくということも踏まえて検討してまいりたいということを考えております。

(山本香苗参議院議員)とにかく、生理痛を我慢するのが当たり前という風潮を変えてもらいたいという切実な声が寄せられております。

是非、学校でも職場でもしっかり周知をしていただき、生理痛に対する社会全体の理解が深まる取組をお願いしたいと思いますが、加藤大臣、伊藤政務官、よろしくお願いします。

こうしたやり取りにより、2023年6月13日に閣議決定された女性版骨太の方針2023(女性活躍・男女共同参画の重点方針)に、生理痛による欠席が入試で不利にならないよう周知することが書き込まれた。

③女性の健康に関する理解の増進等

学校における健康教育の充実、教員の理解の促進等を図るため、各学校における産婦人科医や助産師等の専門家の外部講師の活用を進める。また、月経随伴症状等の児童生徒の健康状態把握のために、児童生徒の健康診断を実施する際の保健調査票の活用により、所見を有する女子児童生徒に対する健康相談や保健指導の実施を進める。さらに、教員が児童生徒の健康課題に対する基本的な理解を深められるよう、月経随伴症状等の女子児童生徒の主な健康問題について、都道府県教育委員会等を通じて周知する。あわせて、児童生徒が月経随伴症状等の身体・健康上の理由によりやむを得ず学校を欠席する場合において、そのことのみをもって学習評価や入学者選抜において不利に取り扱われることのないよう周知する

引用元:女性版骨太の方針2023(女性活躍・男女共同参画の重点方針)※太字は筆者

そして、6月16日に、各教育委員会らに通知が発出された。

こうした政策の具体的なやり取りが、テレビや新聞で詳細に取り上げられる機会は少ないが、実際はこのように一歩ずつ取り組みが進んでいる。

国会や政治家への国民のイメージは決して良くないが、こうしたやり取りに触れる機会が増えれば、きっとイメージも変わるだろうなと感じた国会質疑であった。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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