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トランプ氏暗殺未遂の容疑者「あなたがいなくなったら嬉しい」とXに投稿 熱心なウクライナ支援者

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 フロリダ州にあるトランプ氏が所有するゴルフ場で、同氏の暗殺を試みたライアン・ウェズリー・ラウス容疑者(58)とは、いったい、どのような人物なのか? 

 ノースカロライナ州出身のラウス容疑者は現在ハワイ在住で、麻薬所持や無免許運転、交通違反、車検切れ、無保険での運転など数々の逮捕歴がある。また、大量破壊兵器所持という重罪や、ひき逃げ、逮捕に対する抵抗、武器の隠し所持などの軽罪で起訴されていたとも報じられている。2017年にハワイに移住後は、同地でホームレス向けの簡易住宅の建設会社を立ち上げている。

トランプ氏に失望「あなたがいなくなったら嬉しい」

 このような事件が起きた場合、注目されるのは、ラウス容疑者に政治的意図があったかどうかということ。現在は停止されている同容疑者の“X”の以下の投稿によると、同容疑者は2016年の大統領選時はトランプ氏を支援していたものの、その後、トランプ氏に失望したことが推測される。

「@realDonaldTrump 2106年にあなたが私のチョイスだったとき、私も世界もトランプ大統領が候補者とは違って優れていると期待していたが、私たちはみな大いに失望した。あなたは悪くなり、退化しているようだ」

「あなたがいなくなったら嬉しい」

 ノースカロライナ州選挙管理委員会によると、ラウス容疑者は2024年のノースカロライナ州予備選挙では民主党に投票したが、無所属の有権者として登録されているという。

 また、バイデン大統領とハリス副大統領は、7月13日のトランプ氏暗殺未遂事件の負傷者を見舞い、殺害された集会参加者の葬儀に参列すべきだと、“X”で示唆していたとも報じられている。

熱心なウクライナ支援者

 ウクライナを支援する活動も熱心に行い、2022年には、数ヶ月間、ウクライナに滞在していたようだ。ラウス氏は「ハワイからウクライナに来て、皆さんの子供たちと家族、そして民主主義のために戦います。皆さんのために命を捧げます」と“X”に投稿し、LinkedInでは、キーウで撮った自身の写真もシェアしていたという。

 メディアでコメントも行ってもいた。2022年には、ニューズウィーク・ルーマニア誌に対し、「多くの対立はグレーだが、この対立は間違いなく白か黒だ。これは間違いなく悪と善の対立だ」とロシアとウクライナの対立では、明らかにロシアに非があると指摘している。

 また、「当初の目標は戦うことだったが、私は56歳で、軍隊経験がなく、理想的な戦闘候補ではない、今すぐには無理だと言われた。プランBはキーウに来て、もっと多くの人をここに呼び込むことだった」とも話している。自身は戦場で戦うことができないため、戦うことができる人々をウクライナに呼び込もうとしていたことが窺える。実際、2023年3月には、同容疑者はニューヨーク・タイムズ紙に対し、ロシアと戦うウクライナを支援するため、タリバンから逃れたアフガン兵をリクルートする取り組みについて言及していた。

 しかし、その取り組みは上手く行っていなかったようだ。2023年3月のセマフォー紙によると、ラウス容疑者は、ウクライナの国際ボランティアセンター(IVC=ボランティアやウクライナの人道支援を行う非営利団体の権利拡大に取り組んでいる民間組織)の代表と紹介さているが、記事の中で「ウクライナ当局のほとんどは、こうした兵士たちを欲していない。パートナーらが毎週(ウクライナ国防省と)会っているが、いまだにビザを1枚も発給してもらえていない」とウクライナ政府がIVCの取り組みに協力的ではない状況について述べている。

 トランプ氏は以前からウクライナへの軍事支援に難色を示していたが、ラウス容疑者による暗殺未遂の背景には、トランプ氏のウクライナ政策に対する鬱積した不満があったのかもしれない。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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