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制裁でロシアを離れた投資家を呼び込むカザフスタン。石油輸出問題と中央アジアで影響力を失っていくロシア

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
サンクトペテルブルク国際経済フォーラムに出席するカザフのトカエフ大統領。今年6月(写真:ロイター/アフロ)

ロシアの孤立が目立ってきている。戦争と制裁の影響が、どんどん強くなり始めているのだ。

前の記事では、中央アジアの旧ソ連であるトルクメニスタンのことを解説した。

◎参考記事:中央アジアで影響力を失っていくロシア。制裁でEUへのガス輸出にチャンス到来。カスピ海会議は隙間風?

今回はカザフスタンである。

一般的に「中央アジア」とは、カザフスタン・ウズベキスタン・キルギス・ダジキスタン・トルクメニスタンの旧ソ連の5カ国を指す(他の国を含むこともある)。
一般的に「中央アジア」とは、カザフスタン・ウズベキスタン・キルギス・ダジキスタン・トルクメニスタンの旧ソ連の5カ国を指す(他の国を含むこともある)。提供:イメージマート

カザフスタンと言えば、親露的な国であると見られることが多い。

今年1月に同国で大規模な反政府デモが起きた時は、ロシア主導の軍事同盟である集団安全保障条約機構(CSTO)に鎮圧を依頼、ロシア軍が中心となって同国入りしたのだった。

しかし、ウクライナ戦争後、同国は明らかにロシアと距離を取り始めているのだ。

ロシアを回避する石油輸出ルート

まずは石油問題である。

7月7日、カザフスタンのトカエフ大統領は、ロシアを経由せずに石油を輸出する新しい方法を見つけるように、政府に命じた。

現在、カザフスタンの石油の約4分の3は、ロシアの黒海に面したノボロシスク港にパイプラインで輸出されている。「CPCパイプライン(Caspian Pipeline Consortium)」と呼ばれる。

U.S. Energy Information Administrationより。
U.S. Energy Information Administrationより。

このロシアの港から、タンカーで黒海を通って世界へと輸出されているのだ。20年強の間のタンカー輸出は、カザフスタン産は約6億7000万トン。約7000隻のタンカーが輸送に使われた計算になる。

しかしトカエフ大統領は、政府の会合で、新しい輸出ルートの確立が「優先事項」になったと述べた。それは、ロシアを通らず、カスピ海を経由するものである。

カスピ海を経由すると、コーカサス地方(アゼルバイジャン・ジョージア)を通って、トルコを横断、欧州へとつながってゆく。欧州連合(EU)向けの輸出の重要なプレイヤーが、ロシアからトルコにとって替わることになるのだ。

EUがロシア産の化石燃料の輸入をゼロにしようと努力している今、トルクメニスタンだけではなく、カザフスタンにとっても大ビジネスチャンスなのである。

カスピ海方面のパイプラインの構想は戦争前からあったのだが、ロシアが難色を示していたために、実現していなかった。

戦争の開始以降、三度もの摩擦

2月下旬にウクライナ戦争が始まってから、ロシアは伝統的な同盟国であるはずのカザフスタンに対して、様々な措置をとってきた。

まず一度目。3月には、「嵐の被害」のために、CPCパイプライン輸送がストップ。ノボロシスク港のインフラが損傷したために、同港ターミナルでの石油の積み込みを数週間制限することを発表したのだ。

エネルギー業界のアナリストは、暴風雨の被害について懐疑的な見方を示していた。

二度目は6月だ。ロシア当局が石油積載インフラの近くで、第二次世界大戦時代の地雷を発見したと述べて、またパイプライン輸送が中断された。

CPCパイプラインは、昨年約5300万〜5400万トンの石油を輸送した実績のある、カザフスタン経済にとって重要なインフラである。しかし代替手段が乏しいため、カザフスタンは生産量を削減する方法を検討する必要に迫られた。

そんな中、6月17日、カザフのトカエフ大統領は、ウクライナ東部の自称「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を、国家として承認しない考えを示したのだ。

ロシアのサンクトペテルブルクで行われた、国際経済フォーラムでのことであった。プーチン大統領も参加したパネルディスカッションの中での表明だった。これは日本で「爆弾発言」として報じられたので、覚えている人もいるのではないだろうか。

今年の経済フォーラムは、常連の欧米勢が参加を見合わせたことから、例年に比べ盛り上がりに欠いたと言われる。
今年の経済フォーラムは、常連の欧米勢が参加を見合わせたことから、例年に比べ盛り上がりに欠いたと言われる。写真:ロイター/アフロ

形としては、ウクライナだけを語ったわけではない。カザフスタンは台湾、コソボ、南オセチアやアブハジア(ジョージア)を承認しておらず、ドネツクとルハンスクも同様である、と述べたのだ。

「自決権が世界中で実践されるようになれば、現在国連に加盟している193カ国ではなく、600カ国以上の国が存在することになる。もちろん、それはカオスになる」と説明した。さらに、バランスを取るためか、プーチン大統領を賛美するような発言も一応している。

両国の緊張が高まっていくなか、7月5日、三度目の問題が起きた。

ロシアの裁判所が、環境基準違反を理由にして、この1500kmのパイプラインによる石油の供給を、30日間停止するよう命じたのである。

そしてカザフスタンのエネルギー大臣は7月7日に、パイプラインを運営するコンソーシアムが控訴したと述べた。そして同日、大統領はロシアを経由せずに石油を輸出する新しい方法を見つけるようにと、正式に政府に命じたのだった。

このロシアの三度目の措置は、トカエフ大統領が、世界のエネルギー市場を安定させるためにEUに協力すると約束した翌日に起きたのだった。

ロシア側からの圧力の理由

なぜこのような問題が起きたのか。

カザフスタンが戦争で中立でいるよう圧力をかけているという見方がある。とはいえ、実際に同国にとっては、制裁のために、ロシア領内での輸出が困難になっている。

ロシアのペスコフ報道官は、ロシアの裁判所の決定が政治的な動機によるものであることは「ありえない」としながら、カザフスタンとの「さらなる接触の必要性」を強調した。

カザフスタンのアティラウ市近郊で行われたCPCの新しいポンプ場の立ち上げ式典に出席するコンソーシアムのニコライ・ゴルバン局長(右から3人目)ら参加者。2017年10月12日。
カザフスタンのアティラウ市近郊で行われたCPCの新しいポンプ場の立ち上げ式典に出席するコンソーシアムのニコライ・ゴルバン局長(右から3人目)ら参加者。2017年10月12日。写真:ロイター/アフロ

一般にはモスクワのカザフスタンに対する威嚇であると言われているが、別の見方もある。

エネルギー専門家のArtur Shakhnazaryan氏は、CPCパイプラインの停止は、カザフスタンへの攻撃というよりも、「ロシアは、西側の制裁措置の対抗措置として、CPCをめぐってレモンを搾り取ろうとするつもりでしょう。この場合、ロシアが得られるレモネードは、石油・ガス部門への設備(機器)の供給であり、非常に重要です」とニュースサイトOrdaに語ったという。

このパイプラインは、ロシア領内で唯一、露国営企業トランスネフチのコントロール下にない石油輸出パイプラインなのだという(2009年時点)。

メインの株主はロシアやカザフスタンの国営企業だが、米シェブロンや米モービル、その他西欧などの民間資本が入っており、コントロールしたいロシアと、必要なインフラを調達できる民間企業との間で、株式所有権の紛争に左右されるという面があった

ロシアを去った企業を誘致

カザフスタンのロシアからの離反は、石油輸出だけにとどまらない。

7月14日、トカエフ大統領は、ロシアでの事業を停止している外国企業に「有利な条件」を設けることを提案した。

世界的な投資資金の争奪戦が起きており、約1400社の外国企業のうち、2社に1社は事業を停止するか、ロシア市場から完全に撤退していると、政府のセッションで述べたという

既に多くの企業や、旧ソ連の国々で構成される「独立国家共同体(CIS)」の地域事務所や本社が、カザフスタンの首都ヌルスルタンや商業都市アルマティに移転しているとも述べている。

誘致は今に始まったことではなく、3月の時点で既に、ワシレンコ外務副大臣はドイツ紙『Die Welt』に、ウクライナ戦争の影響で、ロシアから撤退する企業がカザフスタンに生産を移すことは歓迎されると述べていたという。

この発言に対し、7月14日、クレムリンのペスコフ報道官は「世界のどの国も、外国人投資家のために快適な条件を整えようとするのは、まったくもって普通のことです」と述べた。

「もう一つはっきりしていることは、外部からの前例のない圧力の下で、多くの企業がそのような決断をせざるを得ないということです」、「残念ながら、これが私たちが生きて仕事をする現実なのです」と締めくくったという。

戦争以降、ロシア側は経済問題について、このような冷静で公正に見える態度を示すことがある。ウクライナがEU加盟国候補になるのも、経済の問題だから関係ないという態度をとった。しかし、本心はまったく不明である。

さらに、カザフスタンは、中国と欧州を結ぶ一帯一路の、需要な位置を占めている。いわば、ベルトのバックルのようなものだ。

そんな状況の中、同国は7月21日、5カ国が集まった中央アジア首脳会議で、新たな地域構想を提唱している。

カザフスタンや最近のウズベキスタンは、EUを含む西側諸国との積極的な経済関係や政治対話によって、ロシアとの対抗を図ろうとし、独立性を強めている。さらにはインドや中国との関係も、再定義しようとしているのだ。

程度の差こそあれ、ロシアから離れようとしている旧ソ連の国々は、ウクライナだけではないということである。

長くなったので、一帯一路の話は次の稿で。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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