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運動会 コロナ前に戻るか、戻していいものか?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

春の運動会のシーズン。新型コロナの影響で中止や縮小も多かったこの3年あまりだが、今年は、制限をあまり設けない学校園も多いのではないだろうか。「やっと6学年合同でできる」、「大声で応援できる」、「孫の活躍を見に行けて嬉しい」。そんな声も各地で聞こえてくる。一方で、午前開催など短縮したかたちを継続する学校園も少なくないが、これには児童生徒にも保護者等にも賛否ある。運動会は、単純にコロナ前の状態に戻していいのだろうか。それともコロナを機に、考えなおしたほうがよいのだろうか。

■真に児童・園児のためになる運動会に

まず「なにを当たり前なことを」と思われるかもしれないが、運動会をはじめとする学校行事は、児童等のためのものにしたい(以下、小学校、幼稚園、保育園、こども園をメインに扱う)。ともすれば、保護者からの応援や期待を意識し過ぎてか、ダンスや体操などの表現活動がどんどん派手になっていく学校園もある。運動会は保護者のためのものではないし、子どもたちは見せ物ではない。

写真:イメージマート

教員が指示したとおりに子どもたちを動かす、一糸乱れぬように「指導」する学校園も一部にあるが、本当にそこまで必要なのだろうか。運動会の歴史をひも解けば、もとは海軍兵学校での訓練だ(前にならえなどはその名残りだろう)が、運動会は軍事調練の場ではない。

そんな学校園で「子どもたちには思考力を高めてほしい」、「主体性が大切だ」などと述べていたりするのだから、矛盾している。「大人の言うことに黙って従え」という教育に、いまだ熱心な学校園が一部にあるのは、考えものだ。

コロナの影響で運動会が短くなったり、縮小したりして何が分かっただろうか。ひとつは、かつてより準備時間が短くても、多少完成度が教員(もしくは保育士)が思っているほどのものでなくても、多くの児童たちは一生懸命がんばるし、いい運動会になる、ということではなかったか。

■教職員の負担だけでなく、児童らの負担も重視する

関連して、数週間前から毎日2時間も3時間も練習にあてる学校園もなかにはあるが、あまりにもハードだと、運動会嫌いになる子や運動嫌い、ダンス嫌いなどになる子も出てくる。中高の部活動の過熱化に似た問題がある。

午前開催などの”時短”運動会は、教職員の負担軽減にプラスだが、それ以上に重く考えるべきは、児童、園児たちの負担、負荷だ。「運動会は思い出になる」、「いい姿を披露したい」、「むずかしい表現活動にもチャレンジさせたい」。こうした先生たちの、あるいは保護者の思いを私は否定しているのではない。運動会には意義やよさがあることは承知しているが、負担が大き過ぎては、その効果も薄れるし、副作用のほうが大きくなることだってある、という、当たり前のことを申し上げている。

写真:アフロ

■子どもたちが企画から参画する

もうひとつ考えたいのは、小学生であれば、運動会のプログラムの企画や見直しから参画してもいいのでは、ということ。多くの小学校では、高学年が低学年の子の世話をしたり、当日の運営スタッフをしたり(たとえば放送係など)していると思う。それもいいが、作業を分担するだけでなく、企画から子どもたちが入る。アクティブ・ラーニングの場に学校行事をしていく。

教員は次のような投げかけをしながら、児童がわいわい議論して企画していくといいかもしれない。

●そもそも、運動会やその種目で、どんなことを達成したいのか。

●運動やダンスが苦手、嫌いという子も参加しやすい、なるべく楽しめるようにする方法はないだろうか。

学校行事(もっと広く言えば特別活動)には、教科書はない。学習指導要領でもそう細かくは縛っていない。自由だ。その自由を、子どもたちの意見表明権も大切にしながら活用していける教育現場であってほしい。

■なんのための運動会か、ちゃんと説明すれば、保護者も応援してくれる

この記事で述べたことを要約する。

●真に子どもたちのためのものになっているか。運動会はなんのため?を今一度考えよう。

●ハードな練習まで必要か?児童らの負担にも配慮する。

●企画から子どもたちが参画してほしい。

こうした観点で再検討し、アップデートした企画をちゃんと説明していければ、保護者の多くも、学校を応援してくれるのではないだろうか。次のような質問、要望にもきちんと説明できるようになると思う(あくまでも例示)。

「運動会は思い出に残る大きな行事だし、お弁当を家族で一緒に食べたい。コロナがマシになったのだから、午後開催を復活させてほしい。実際、近隣では午後もやってますよ。」

家族がいない、来られない児童もいます。なるべく教職員がそういう子にもケアしますが、やはりつらい思いをさせてしまう場合も出てきます。また、午後まで長い時間の拘束となると、熱中症のリスクが高まりますし、疲れてしまう子も増えます。今回は、なるべくどの子も楽しく、活躍できる運動会にするというコンセプトで、児童会が中心となって企画しました。

コロナは子どもたちにも、保護者にも、教職員にも様々なガマンを強いたが、前例通りにはいかなくなっため、あらためてその行事等の意義を感じた人も多いだろうし、従来にはない方法を試すことも一部に進んだ。いまこそ、この学びを多くの学校園と子どもたちが活かしてほしい。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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