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ウクライナを手掛かりに日本の針路を考える(上)ー最近のロシアの動きは戦前日本の大陸進出に似ているー

上山信一慶應大学名誉教授、経営コンサルタント
出典:Estonia Tool Box

 ロシアはなぜ、これほどまでに割に合わない戦争を始めたのか。膨大な戦費、戦死者、経済制裁など、まるで割に合わない。ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)、EU(欧州連合)への加盟は、差し迫った脅威ではなかったはずだ。まことに戦争は不合理の塊である。

●ロシアの不可解な行動は戦前の日本の姿と重なる

 しかし、歴史をひも解けば多くの戦争は不合理の塊である。実はその典型が戦前のわが国だった。戦前に米国を相手に勝てる見込みのない戦争を始め、全てを失った。遅れて近代化した日本は西欧列強の先例に学び、そして同様に遅れて近代化して極東に進出するロシアを警戒した。そこで明治の元勲たちは先手必勝と考え、日清戦争を経て緩衝地帯の朝鮮半島と台湾を併合した。日露戦争に勝って大陸での防衛線を広げ、さらに満州に進出し、傀儡(かいらい)国家を建設した。こうした侵攻劇は今からみると愚かで不当な侵略行為でしかない。しかし、当時の西欧諸国は世界各地で植民地収奪を続け、米国もメキシコからテキサスを奪い、ハワイを侵略した。当時の日本が大陸に一切進出しなかったら、逆に侵略される危機に瀕(ひん)していた可能性は否めない(現実は戦った末に負けて占領されたわけだが)。その意味で「防衛目的での大陸進出、やられる前に緩衝地帯を押さえる」という発想自体は、当時の国際常識から大きく逸脱するものではなかったといえよう(人道犯罪など、どう見ても正当化できない部分がほとんどだが)。

 ともかく日本はレッドラインをどんどん超え、満州、そして中国そのものに侵攻した。世界から批判され、制裁され、やがて国際連盟を脱退。その後は非合理な行動連鎖にはまり込む。大東亜共栄圏の建設、八紘一宇(はっこういちう)の世界の実現を目指すという理念(大義名分)、いや妄想のもと、戦線を中国、ハワイ、南太平洋、インドシナへと拡大した。そして当然ながら負けた。

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慶應大学名誉教授、経営コンサルタント

専門は戦略と改革。国交省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)を経て米ジョージタウン大学研究教授、慶應大学総合政策学部教授を歴任。平和堂、スターフライヤー等の社外取締役・監査役、北九州市及び京都市顧問を兼務。東京都・大阪府市・愛知県の3都府県顧問や新潟市都市政策研究所長を歴任。著書に『改革力』『大阪維新』『行政評価の時代』等。京大法、米プリンストン大学院修士卒。これまで世界119か国を旅した。大学院大学至善館特命教授。オンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/。1957年大阪市生まれ。

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