東京医大女子減点に垣間見える医療界の問題点
都市伝説が事実だった…
文科省の幹部らが逮捕されたことで、裏口入学という「都市伝説」が実際にあったことが明らかになったが、今回も東京医大が「都市伝説」をぶち破ってくれた…読売新聞の報道によれば、東京医大が入学試験において、女子受験生を一律減点していたことが明らかになったのだ。
医学部の受験生の間では、こうした「女子差別」が一部の大学で行われているかもしれないという噂はあった。
あくまで関係者の話が報道されただけであり、調査結果が待たれるが、本当だったのだという驚きと情けなさを感じる。
東京医大だけではない?
この問題を記事で取り上げるにあたり、私の経歴を開示する必要がある。
私は理学部の大学院を卒業後、学士編入学で国立大学医学部に入学。その後医師(病理医)になり、公立病院などに勤務したのち、7年前より総合私立大学の医学部に教員として勤務する男性だ。そういう意味で、この件を客観的に語る立場にない。
そういう立場にいることを前提で読んでいただきたいが、医学部の一般入試を経験したこともなく、また、試験監督はしたことがあるが、試験問題の作問や採点、面接に関わったこともない。そういう立場では、裏口入学や女性差別に関する情報を聞いたことは一回もない。
しかし、医学部が入試で、採用したくない受験生の点数に手を加えていた疑惑が取り沙汰されたことは過去にもあった。
10年以上前のことだ。当時56歳の女性が群馬大学医学部を受験したが、学科試験は合格基準に達していたものの、面接で「著しく不良」とされ不合格となった。女性は国を相手取り訴訟を起こした。結局訴えは棄却された。
裁判では大学が面接をどのように扱ったか明らかにされなかったので、実際に年齢などによる差別があったのかは分からなかった。
この件や東京医大の件などをふまえると、医学部が欲している人物像が浮かび上がる。
それは若い男性だ。
知力がある程度あって、気力、体力があり、仕事を続けられる人がいい。ただ、知力があっても自分で考える人はだめ。言われたことを素直にやる人がいい。
医師一人を育成するのに時間とお金がかかるので、長く働ける人がほしい。だから高齢者、女性は望ましくない。
現在の医療制度の問題点を指摘したり、素直に人事に従わなかったりするから、他の大学や社会人経験者は望ましくない。
こうした意見に同調する医師は多く、入試は公平であったとしても、医師採用の時点で、女性差別が露骨に行われている。以下は大阪の病院であった事例だ。
この部長の方自身が、子育てをしながら働く女性だ。男性社会に過剰に適応せざるを得なかったと考えると、悲しい。
こうした理由で、いまだ女性教授は数えるほどしかおらず、医学界を主導するのは中高一貫の男子校をストレートで出た医師が主体を占める。多様性は乏しい。こうした多様性のなさが原因になっているのか、因果関係は不明だが、正直今の医療制度がうまくいっているとは思えない。
日本の医療界は経団連を嗤えないのだ。
「東京医大叩き」で終わらないために
ここで危惧しているのが、「東京医大が悪い」と叩くことで、なんら問題解決が行われることなく、事態が収拾してしまうことだ。
それには既視感がある。そう、STAP細胞の事件で、研究不正をした研究者を叩くことで、研究不正が起こる構造の改革に向かわなかった4年前のことだ。
東京医大が女子受験生を差別したことはどう考えても悪い(報道が正しかったとしたら)。
そのうえで、長時間労働を当然と考える医師の働き方、乏しい保育所、取りにくい育休、時短医師への厳しい目といった構造に目を向けていかなければならない。
そうでなければ、女子受験生を減点するという露骨なことはしなくても、面接点を加点しないという方法で差別を行う大学はこれからも出るだろう。それは「大学の裁量の範囲内」として罰せられることはないのだ。
私はかつて、病理医が女性に向いているという記事を書いた。
実はこのとき、子育て中の後輩女性病理医から、厳しい批判を頂いていた。男性が女性に向いているということ自体、男女の役割をステレオタイプで見ているということなのだ。私自身、バイアスにとらわれている。
そして女性差別は、東京医大のようなことは、医療界だけのことではない。ジェンダー・ギャップ指数2017が世界114位というこの国のいたるところで起こっている。
入試、就職、転職、出世、家事分担、介護…
東京医大の事件は、医療界、そして私達一人ひとりの喉元に突きつけられたナイフなのだ。