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東京医大女子減点に垣間見える医療界の問題点

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
東京医大叩きに終わってはなんの意味もない(ペイレスイメージズ/アフロ)

都市伝説が事実だった…

 文科省の幹部らが逮捕されたことで、裏口入学という「都市伝説」が実際にあったことが明らかになったが、今回も東京医大が「都市伝説」をぶち破ってくれた…読売新聞の報道によれば、東京医大が入学試験において、女子受験生を一律減点していたことが明らかになったのだ。

東京医科大(東京)が今年2月に行った医学部医学科の一般入試で、女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが関係者の話でわかった。女子だけに不利な操作は、受験者側に一切の説明がないまま2011年頃から続いていた。大学の一般入試で性別を対象とした恣意的な操作が明らかになるのは極めて異例で、議論を呼びそうだ。

出典:読売オンライン

 医学部の受験生の間では、こうした「女子差別」が一部の大学で行われているかもしれないという噂はあった。

あくまでもウワサ話ではありますが、私立大学のなかには男子の志望者を優先する大学もあるともいわれています。

出典:医学部の男女比はどれくらい?女性は多い?

 あくまで関係者の話が報道されただけであり、調査結果が待たれるが、本当だったのだという驚きと情けなさを感じる。

東京医大だけではない?

 この問題を記事で取り上げるにあたり、私の経歴を開示する必要がある。

 私は理学部の大学院を卒業後、学士編入学で国立大学医学部に入学。その後医師(病理医)になり、公立病院などに勤務したのち、7年前より総合私立大学の医学部に教員として勤務する男性だ。そういう意味で、この件を客観的に語る立場にない。

 そういう立場にいることを前提で読んでいただきたいが、医学部の一般入試を経験したこともなく、また、試験監督はしたことがあるが、試験問題の作問や採点、面接に関わったこともない。そういう立場では、裏口入学や女性差別に関する情報を聞いたことは一回もない。

 しかし、医学部が入試で、採用したくない受験生の点数に手を加えていた疑惑が取り沙汰されたことは過去にもあった。

 10年以上前のことだ。当時56歳の女性が群馬大学医学部を受験したが、学科試験は合格基準に達していたものの、面接で「著しく不良」とされ不合格となった。女性は国を相手取り訴訟を起こした。結局訴えは棄却された。

 裁判では大学が面接をどのように扱ったか明らかにされなかったので、実際に年齢などによる差別があったのかは分からなかった。

 この件や東京医大の件などをふまえると、医学部が欲している人物像が浮かび上がる。

 それは若い男性だ。

 知力がある程度あって、気力、体力があり、仕事を続けられる人がいい。ただ、知力があっても自分で考える人はだめ。言われたことを素直にやる人がいい。

同大出身の女性医師が結婚や出産で離職すれば、系列病院の医師が不足する恐れがあることが背景にあったとされる。

出典:外科では女性医師敬遠がち「女3人で男1人分」

 医師一人を育成するのに時間とお金がかかるので、長く働ける人がほしい。だから高齢者、女性は望ましくない。

 現在の医療制度の問題点を指摘したり、素直に人事に従わなかったりするから、他の大学や社会人経験者は望ましくない。

 こうした意見に同調する医師は多く、入試は公平であったとしても、医師採用の時点で、女性差別が露骨に行われている。以下は大阪の病院であった事例だ。

同センターによると、今年4月から勤務予定だった医師は2月に妊娠が分かり、部長にメールで報告。部長は返信メールで「病院にまったく貢献なく、産休・育休というのは周りのモチベーションを落とすので、管理者としては困っている」と記し、「マタハラになるかもしれない」としながら、「非常勤で働くのはどうでしょうか」と送った。

出典:毎日新聞

 この部長の方自身が、子育てをしながら働く女性だ。男性社会に過剰に適応せざるを得なかったと考えると、悲しい。

 こうした理由で、いまだ女性教授は数えるほどしかおらず、医学界を主導するのは中高一貫の男子校をストレートで出た医師が主体を占める。多様性は乏しい。こうした多様性のなさが原因になっているのか、因果関係は不明だが、正直今の医療制度がうまくいっているとは思えない。

 日本の医療界は経団連を嗤えないのだ。

「東京医大叩き」で終わらないために

 ここで危惧しているのが、「東京医大が悪い」と叩くことで、なんら問題解決が行われることなく、事態が収拾してしまうことだ。

 それには既視感がある。そう、STAP細胞の事件で、研究不正をした研究者を叩くことで、研究不正が起こる構造の改革に向かわなかった4年前のことだ。

 東京医大が女子受験生を差別したことはどう考えても悪い(報道が正しかったとしたら)。

 そのうえで、長時間労働を当然と考える医師の働き方、乏しい保育所、取りにくい育休、時短医師への厳しい目といった構造に目を向けていかなければならない。

 そうでなければ、女子受験生を減点するという露骨なことはしなくても、面接点を加点しないという方法で差別を行う大学はこれからも出るだろう。それは「大学の裁量の範囲内」として罰せられることはないのだ。

 私はかつて、病理医が女性に向いているという記事を書いた。

 実はこのとき、子育て中の後輩女性病理医から、厳しい批判を頂いていた。男性が女性に向いているということ自体、男女の役割をステレオタイプで見ているということなのだ。私自身、バイアスにとらわれている。

 そして女性差別は、東京医大のようなことは、医療界だけのことではない。ジェンダー・ギャップ指数2017が世界114位というこの国のいたるところで起こっている。

 入試、就職、転職、出世、家事分担、介護…

 東京医大の事件は、医療界、そして私達一人ひとりの喉元に突きつけられたナイフなのだ。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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