【鉄剤って飲んでも大丈夫?】安易な鉄剤の静脈注射はダメっていうけど、飲み薬はOKなの?
ランナーにとって鉄分は、プロテインやビタミンに次いで人気のサプリメントです。いくつかのランニングのサイトでは、鉄分のサプリメントを推奨している内容がみられます。一方、一部の学生やエリートランナーが行う鉄剤の静脈注射については、スポーツ庁や日本陸上競技連盟から不適切な使用をしないよう各所に通達しています。本当に鉄分のサプリメントを摂取しても大丈夫なのでしょうか。
1.多くのランナーは鉄分が不足している
鉄分不足によっておこる貧血は、有酸素運動であるランニング能力を低下させる可能性があります。ですが特にエリートランナーでは、鉄分が少ない傾向にあるようです。2017年のカナダからの文献で、21~36歳までの38人のエリートランナーとトライアスリートを調べたところ、一時的なものを含めて調査期間中に、5割弱の競技者に鉄欠乏が生じたとのことでした。そして一般市民ランナーを調べたものでは、2011年の東京マラソンの参加者を調べた研究で、男性ランナーの1割弱、女性ランナーの2割弱に貧血がみられたという報告があります。そのようなことから、長距離ランナーは鉄分サプリメントの摂取を推奨する文献もあります。
また、効率よく鉄分を吸収して貧血を改善させるために、ビタミンD3の摂取を励行している文献もあります。
2.ただ一部のランナーは過剰ともいわれている
一方、ランナーの鉄過剰を指摘する文献もあります。チューリッヒマラソンに参加した市民ランナー170人を調べたところ、男性は鉄不足が2%未満であったのに対して鉄過剰は15%、女性でも5%弱に鉄過剰がみられたとの結果でした。文献によって鉄欠乏や鉄過剰の基準が異なるため、割合の差がかなりありますが、この文献では安易な鉄分サプリに警鐘を鳴らしています。
つまり本当に鉄欠乏や貧血になりやすいのはエリートランナーで、趣味のランニング程度であれば、そこまで貧血や鉄欠乏の割合は多くありません。そして市民ランナーの一部には、鉄が過剰気味の方もいるのです。
3.鉄過剰はなぜいけない?
確かに鉄分は体に必要です。ですが例えば塩分のように、過剰になると体へ悪影響を及ぼすことが知られています。アルコールやカフェインのように命にかかわる急性の中毒症状も稀におこりますが、多くの場合は少しずつ悪影響がでてくるのです。
上の図は2023年のアメリカの文献からですが、鉄過剰が酸化ストレスや体内の炎症を引き起こし、心臓や血液、肝臓・筋肉にダメージを蓄積し、最終的に運動能力の低下を来すのです。また運動能力のみならず、肝臓・膵臓・心臓・内分泌臓器・神経などに蓄積して、徐々に身体機能が低下していってしまうのです。
4.飲み薬はOKで注射はNGなのは、なぜ?
鉄分は体に必要なものですが、過剰になった場合、鉄分は体からほとんど排泄されません。なので腸で吸収する際に、吸収する量を体がコントロールしています。例えば非ヘム鉄でみると、吸収率が2~20%とかなり違いがあるのはこのためです。ですが鉄分を注射すると、この吸収をおさえる防御機構が働かず、過剰症になってしまう可能性があるのです。
以前エリートランナーの中で、少しでもヘモグロビンを増やそうと、必要以上の鉄剤の注射が用いられてきた過去がありました。そのような行いはパフォーマンスの低下につながるだけではなく、健康被害を生じる可能性もあるわけです。
現在はスポーツ庁や日本陸上競技連盟などで、不適切な鉄剤の静脈注射を防止する書面やガイドラインが作成されています。
5.どんな場合に過剰症を疑うの?
先述した通り、静脈注射を行わなくても鉄分が過剰となる可能性はあります。鉄剤のサプリメントを摂取するなら、できれば血液検査で確認をするのが最善です。ですが費用もかかりますし、なかなか難しいと思います。そんな方は健康診断の結果を見返してみて下さい。
ある文献では、鉄過剰と判定されたアスリートを3年間追跡したところ、肝臓の値が上昇したとの文献があります。実際に患者様を拝見していても、鉄過剰の方の多くに肝障害が合併しています(逆に肝障害の方は、鉄過剰の検査結果になることも多く、必ずしも鉄過剰が肝障害引き起こしたというわけではないこともあります)。お酒を飲まないし脂肪肝でもないのに、肝臓の値が高い。そして鉄分のサプリを飲んでから肝臓の値があがってきた!?そんな方は鉄分の摂取について、医療機関で相談ください。
※鉄剤・鉄分を摂取しても鉄分不足が改善しないランナーは、こちらも参照ください。
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