ガソリン価格が高騰しているのに、ガソリン税を下げない深いワケ
2月8日に、岸田文雄首相は萩生田光一経産相に、ガソリン価格高騰に対する追加策を検討するよう指示した、と報じられた。
長引くガソリン価格高騰 岸田総理”追加策”を指示(テレ朝news|Yahoo!ニュース)
岸田内閣は、ガソリン価格高騰対策として、レギュラーガソリンの小売価格の全国平均が1リットルあたり170円以上になった場合に、石油元売り会社などに1リットルあたり最大で5円分を補助する制度を設けた。これは、コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業として、2021年度補正予算で800億円計上したものが裏付けとなっている(既定経費の活用を含めると893億円)。
2021年12月15日から制度の運用が始まり、ガソリン価格が1リットルあたり170円を超えたことから、2022年1月27日から補助金が交付され始めた。
ガソリン価格高騰に対して、供給者に直接補助金を給付して小売価格を下げようとする仕組みというのは、過去にあまり例がない。
過去にあった例としては、揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止措置がある。これは、いわゆる「トリガー条項」とも呼ばれる。2010年に導入された。
ガソリン税のトリガー条項
トリガー条項とは、要するに、ガソリン価格が一定以上高くなった場合には、ガソリン税(揮発油税と地方揮発油税)で上乗せした税率の適用を停止することである。その上乗せ税率がなくなる分、税込みのガソリン小売価格が下がることになる。
もともと、上乗せ分を含まない税率として、揮発油税法と地方揮発油税法で定められている税率がある。その税率を本則税率ともいう。これに、かつて全国的に道路整備を進めたい思惑から、その建設財源を確保するために、本則税率に上乗せする形でガソリン税を課すこととし、今日に至っている。
本則税率と上乗せ税率を合計した税率を、「特例税率」と呼び、それは揮発油税法と地方揮発油税法ではなく、租税特別措置法(第88条の8)で定められている。
その同法の次の条文(第89条)に、前述した揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止措置が定められている。これが、まさにトリガー条項である。
トリガー条項が、条件を満たして発動されると、特例税率は適用が停止されて、本則税率が適用される。まさに、これが、上乗せ税率が適用されなくなることを意味し、その分だけ「減税」となってガソリンの税込価格が下がることになる。
トリガー条項は、ガソリンの平均小売価格が連続3か月にわたり1リットルあたり160円を超えた場合に発動されることとなっている。その後、連続3か月にわたり1リットルあたり130円を下回ると、特例税率の適用が再開されることとなっている。
トリガー条項の凍結
ところが、トリガー条項は、現在、その発動が凍結されている。
なぜならば、2011年に起きた東日本大震災の復興財源を確保するために、震災特例法(東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律)の第44条で、トリガー条項の発動を凍結することが取り決められたからである。
そして、この凍結は、「別に法律で定める日までの間」継続されることとなっている。その別の法律で定める日は、定められていない。
だから、ガソリン価格が高騰しても、ガソリン税は上乗せ分も含めて課され続けることになる。
ガソリン1リットルあたりに換算して、本則税率は28.7円、上乗せ分の税率は25.1円、合わせて53.8円(これが特例税率)である。
トリガー条項を復活させれば、1リットルあたり25.1円の上乗せ分がなくなるから、それだけガソリンの小売価格が下がるはずである。
なぜトリガー条項を凍結解除しないのか
政府は、ガソリン価格の高騰の影響をできるだけ小さくしたい意向ではある。ならば、なぜトリガー条項を凍結解除して発動しないのか。
今のところ、明言してはいないが、トリガー条項を発動すると税収が減るため、それを避けたいからだとか、ガソリン税の税収を使った財政支出の恩恵を受けている既得権益を手放したくないからとか、という憶測が流れている。
確かに、税収でいえば、トリガー条項が発動されて1年間続くならば、税収が約1兆円減ることが見込まれる。
ただ、トリガー条項を発動しなければ税収は失わないとはいえ、価格高騰対策として補助金を支出するなら、財政収支の悪化を防げるわけではない。単に、税収が減るからトリガー条項を発動しない(ガソリン税を下げない)というほど、単純ではないようだ。
ならば、なぜ政府はガソリン税を下げないのか、そこには、深いワケがある。それは、
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