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シリア北西部でのロシア・トルコ軍の合同パトロールを妨害する住民はアル=カーイダが動員していた

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

ロシア・トルコ軍がM4高速道路で合同パトロールを開始

イドリブ県では、ロシアのヴラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が5日の首脳会談で交わした停戦合意に従い、ラタキア市とアレッポ市を結ぶM4高速道路で15日、両国軍による合同パトロールが開始された。

Enabbaladi、2020年3月15日
Enabbaladi、2020年3月15日

ロシア・トゥデイによると、合同パトロール部隊は、サラーキブ市の西約2キロの距離に位置するタルナバ村を出発、ジスル・シュグール市西のアイン・フールに向かった。

ANNA、2020年3月15日
ANNA、2020年3月15日
ANNA、2020年3月15日
ANNA、2020年3月15日

合同パトロールが住民と「ジハード主義諸派」の妨害で中断

しかし、ロシア国防省は声明を出し、「テロ組織による挑発」を受けて、合同パトロールの実施範囲が制限されたと発表した。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、合同パトロール部隊は、ナイラブ村まで到着したが、「ジハード主義諸派」の妨害と住民の座り込みデモに遭い、引き返したという。

「ジハード主義諸派」とは、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構を含むアル=カーイダ系および非アル=カーイダ系の過激派を指す。

住民を動員していたアル=カーイダ

なお、シリア人権監視団は、他の反体制系メディアとともに、M4高速道路沿線のアリーハー市近郊(アリーハー橋)で、13日から「尊厳の座り込み」と銘打たれた座り込みデモが開始され、住民がタイヤを燃やすなどして道路を封鎖、合同パトロールに反対していると伝えていた。

だが、同監視団が15日に発表したところによると、「ジハード主義諸派」は、合同パトロールの実施に先立って、M4高速道路沿線の部隊を強化、市民とともに路上でタイヤを燃やすなどして道路を封鎖したほか、アリーハー市西のムハムバル村に架かる橋を爆破するといった妨害活動を行った。

また、シャーム解放機構と救国内閣は、座り込みに参加する住民に対して、交通費を負担、参加者に宿泊用のテント、食料や飲み物を配給しているという。

救国内閣は、シャーム解放機構が軍事・治安権限を掌握する地域での自治を委託されている組織。

さらに、シャーム解放機構の支持者が、合同パトロール部隊に同行しているロシア人記者を殺害したら、多額の報酬を与えると呼びかけていたという。

シリア人権監視団(Facebook)、2020年3月14日
シリア人権監視団(Facebook)、2020年3月14日
シリア人権監視団(Facebook)、2020年3月14日
シリア人権監視団(Facebook)、2020年3月14日

シリア政府側、反体制派側の反応

これに関して、国営のシリア・アラブ通信は、「トルコ政府の支援を受けるテロ集団」がM4高速道路を封鎖し、通行妨害したと伝えた。

SANAの特派員が伝えたところによると、この「テロ集団」はアリーハー市近郊で、市民数十人を「人間の盾」として利用し、路上でタイヤを焼くなどして、合同パトロールに抗議したという。

一方、反体制系のEldorarは「民衆の大規模な反対」のなか合同パトロールが実施されたと伝えた。

また、シャーム解放機構に近いEbaa Newsも、ロシア国防省の声明に関して「座り込みデモ参加者をテロリスト呼ばわりした」と報じた。

シリア人権監視団(Facebook)、2020年3月14日
シリア人権監視団(Facebook)、2020年3月14日
シリア人権監視団(Facebook)、2020年3月14日
シリア人権監視団(Facebook)、2020年3月14日
シリア人権監視団(Facebook)、2020年3月14日
シリア人権監視団(Facebook)、2020年3月14日

トルコの支援を受ける国民解放戦線総司令官が辞任

Eldorarは、複数の情報筋の話として、トルコの支援を受ける国民解放戦線(国民軍)のファドルッラー・ハッジー総司令官が辞任したと伝えた。

国民解放戦線はシャーム解放機構とともに「決戦」作戦司令室を結成し、トルコの支援を受けてイドリブ県でシリア・ロシア軍に抵抗を続けてきた組織。

ハッジー総司令官はシリア・ムスリム同胞団系のシャーム軍団の司令官でもあるが、同軍団司令官職にはとどまるという。

同情報筋は、ハッジー総司令官の辞任が、3月13日のトルコと戦線所属組織との合同会合の場で「イドリブ県での最近の戦闘での戦果」を踏まえて決定されたもので、ロシア・トルコ軍の合同パトロールに反対したことが理由ではないと強調している。

救国内閣は汚職調査を理由にシリア赤新月社のイドリブ県の事務所を閉鎖し、機器・医薬品を没収

救国内閣の検察総局は14日に声明を出し、新型コロナウィルス感染が拡大するなか、イドリブ市とアリーハー市にあるシリア赤新月社の事務所を閉鎖し、事務所に設置されていた機器、医薬品を没収したと発表した。

声明によると、この措置は、シリア赤新月社による不正な財務処理、人道支援物資配給の操作といった汚職への苦情や、地元の自治評議会や医療機関の要請を受けたもの。

これにより、事実関係にかかる調査が終了するまで、シリア赤新月社の活動は停止され、その設備や医薬品はホワイト・ヘルメットや医師組合に配給されるという。

Eldorar、2020年3月14日
Eldorar、2020年3月14日

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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