シリアのイドリブ県で反体制派どうしの緊張がにわかに高まるなか、トルコは同地の抗議デモを強制排除
イドリブ県での動き
イドリブ県の反体制派支配地、いわゆる「解放区」では、シャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が4月13日、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路の沿線に位置するナイラブ村の検問所でシャーム軍団の司令官1人と戦闘員多数を拘束した。
シャーム解放機構は、米国や国連安保理が国際テロ組織とみなす「シリアのアル=カーイダ」で、「解放区」の軍事・治安権限を掌握、救国内閣なる組織に同地の自治を委託している。
一方、シャーム軍団はシリア・ムスリム同胞団系の武装集団。トルコからもっとも手厚い支援を受けており、同国が支援する国民軍(Turkish-backed Free Syrian Army、TFSA)に参加している。
シャーム解放機構はまた、アレッポ市と首都ダマスカスを結ぶM5高速道路とM4高速道路が結節するサラーキブ市(シリア政府支配下)近郊に設置されている検問所でも、国民解放戦線の戦闘員複数を拘束し、車輌や武器を没収した。
国民解放戦線もトルコの支援を受けに所属する武装連合体で、TFSAの傘下に身を置いている。シャーム軍団のほか、アル=カーイダの系譜を汲むシャーム自由人イスラーム運動、バラク・オバマ前米政権が支援していたいわゆる「穏健な反体制派」の一つでシャーム解放機構に近かったヌールッディーン・ザンキー運動などからなっており、「解放区」ではシャーム解放機構と「決戦」作戦司令室を設置し、シリア軍に対峙していた。
シャーム軍団や国民解放戦線の戦闘員が拘束された理由は不明だが、国民解放戦線も対抗措置として、シャーム解放機構のメンバー複数人を拘束した。
事態は一時緊迫化したが、13日深夜から14日未明にかけて、双方が拘束していた戦闘員を解放し、事なきを得た。
トルコがシャーム解放機構に同調する座り込みデモを強制排除
こうしたなか、反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤ、ザマーン・ワスル、シャーム解放機構に近いイバー・ネット(4月13日付)などによると、トルコ軍部隊が13日早朝、ナイラブ村東のM4高速道路で座り込みデモを続けていた住民を強制排除し、参加者が設営していたキャンプ村の一つを撤去した。
参加していた住民は、強制排除を試みるトルコ軍ともみ合いになったが、最終的にはナイラブ村に設置されているトルコ軍拠点への退去を余儀なくされた。
座り込みデモは「尊厳の座り込み」と銘打たれ、3月13日から続けられていた。3月5日のロシアのヴラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の首脳会談で交わされたイドリブ県での停戦合意が実施を定めているロシア・トルコ軍の合同パトロール実施に反対、これを阻止することを目指している。
だが、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、参加者は、シャーム解放機構と救国内閣から、交通費を負担され、宿泊用のテント、食料や飲み物を受け取っているという。
トルコ軍はデモを強制排除したのち、ロシア軍とM4高速道路で合同パトロールを実施した。
なお、シャーム解放機構は、ロシア・トルコ軍のM4高速道路での合同パトロールを批判的な一方、TFSAは黙認する姿勢をとっている。
リビアで拘束されたシリア人戦闘員がアル=カーイダに所属していると証言
サウジアラビアの衛星テレビ局ハダス・チャンネル(アラビーヤ・チャンネル系)、英国の衛星テレビ局スカイ・ニュース・アラビックは4月14日、トルコによってリビアに派遣されたTFSAの戦闘員多数が、首都トリポリ南部での戦闘で、ハリーファ・ハフタル将軍率いるリビア国民軍によって捕捉されたと伝え、その映像を公開した。
捉えられた戦闘員の1人で、ムハンマド・イーターブを名乗る男性は、ダイル・サウル県出身で、ヌスラ戦線(現シャーム解放機構)特殊部隊、イスラーム国に所属し、アレッポ県からトルコを経由してリビアに来たと証言した。
別の男性は「月額2,000米ドルの給与を受け取っていた…(トルコのレジェップ・タイイップ・)エルドアン大統領から」と証言した。
なお、シリア人権監視団によると、トルコはTFSAの戦闘員数十人を新たにリビアに派遣する一方、リビア国民軍との戦闘で8人が新たに死亡したと発表した。
リビアでの戦闘で死亡したTFSA戦闘員はこれで190人となった。また、リビアに派遣されたTFSA戦闘員は約5,050人に達し、約1,950人が派遣に向けて、アレッポ県北部に設置されているキャンプでトルコ軍の教練を受けている。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)