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麻産業創造開発機構が発足 大麻草活用の新たな秩序を生み出す

遠藤司SPEC&Company パートナー 皇學館大学 非常勤講師
(写真:イメージマート)

 8月2日、一般社団法人 麻産業創造開発機構(HIDO)は、衆議院議員会館にて「持続可能な社会を見据えた“麻産業“創造検討会」を開催した。

 HIDOは、大麻草の栽培や製品の流通に関する仕組みの構築、法整備、大麻草関連産業や団体の連携促進などを目的に、皇學館大学現代日本社会学部長の新田均教授が理事長となって立ち上げた団体である。また、企業等による大麻草由来製品の開発、販売なども支援する予定だ。会議には200人を超える参加者が集まり、設立趣旨やシンポジウム「麻産業及びCBDの可能性」をご清聴いただいた。

 誤解しないで頂きたいのは、HIDOは麻薬成分の吸引を奨励する団体ではない。その逆であり、マリファナ解禁をもくろむ人びとや、大麻利権に群がり悪事をなす人びとを牽制し、大麻草が健全かつ安全に活用されることを目指している。抑制がなく、勝手気ままなさまを放埓というが、実のところイノベーションは、放埓や無秩序、カオスからは生じない。適切な法規制のもと、活用に向けた環境や仕組みを構築し、その中で各人が自由意思を発揮して共創・協力し合うことで、イノベーションは生じるのである。

 設立に至った経緯は、新田理事長が開会の辞で説明した。皇學館大学は神道の精神にもとづく教育を行っているが、神事には国産の大麻が欠かせない。しかるに大麻草栽培を農業として成立させている農家は、日本に1件のみという状況に至った。打開策を模索するなかで、大麻草に関係する様々な人とつながりをもち、産業用利用の大きな可能性を見出したようだ。

 大麻産業が健全に発展するためには、信用失墜をもたらさないよう、高い倫理観をもって扱うための啓発が必要である。かくして機構は、まずもって日本の伝統を守るべく、かつ大麻草の農業、産業用利用に必要な各種の活動を担うのである。

共創の場に向けて

 麻産業創造開発機構は、大麻草に関わる企業・個人間の交流の場も生み出そうとしている。

 拙著『創造力はこうやって鍛える』に書いたように、イノベーション研究者のスティーブン・ジョンソンは、組織的なひらめきを生じさせるには、直感が立ち消えることなく広がり、あれこれと組み合わせられるような情報ネットワークを作ることが大切だと述べている。

 研究者にせよ事業責任者にせよ、人は専門的に仕事に向き合うとき、何らかの直感やひらめきを抱くものである。その直感やひらめきを、小さな会議体や研究開発部門に閉じ込めてしまうのではなく、組織全体でああだこうだと、創造的な話し合いが行われるような環境をつくることで、新たな価値創造が実現されるとジョンソンはいう。初期のひらめきは、様々なひらめきとぶつかり合い、融合していくことで、よりよいものへと変わっていく。いつしかこれが、現実社会のなかで花開いたときに、イノベーションと呼ばれるようになる。

 事業創造やイノベーションは、思いつきや奇抜さとは別物である。創造性の研究者ミハイ・チクセントミハイのいうように、創造性は人びとの頭のなかでのみ行われる働きというよりは、個人の思考と社会的な文脈の相互作用において生じるからである。よって創造とは、社会内で発現する体系的な現象といえる。会議室や研究室に籠るよりも、実社会との積極的な関わりの中で、新たな事業は生まれる。

 個人や企業の周囲には社会が広がっており、個人や企業もまた、その構成要素である。そのように考えると、イノベーションを起こすには、組織内部に直感やひらめきを留めておくよりも、広く社会を構成する人びとのアイディアを参照したほうが可能性が高くなる。とりわけ、価値創造を志向する人びとが互いのアイディアをぶつけ合い、相互に関係づけることによってアイディアは練磨され、より高い価値へと発展する。このような働きを共創 Co-Creation というが、昨今では共創による価値創造は注目され、実績を上げている。

 共創の意義は、創発性にある。創発性とは、部分が互いに作用しあうことで、全体が獲得する新しい特質のことである。全体は部分の総和を超えて、別の性格をもつ。スマホの部品は単独ではユーザーに必要とされないが、組み合わさりシステムとなることで、多くの人に効用をもたらす。よって、それぞれの部品の価格の合計よりも、スマホは高価となる。あるいは、小麦粉と卵と砂糖と牛乳をつかったショートケーキは、それぞれの味の中間でも合計でもなく、ショートケーキの味がする。小麦粉や砂糖を舐めるよりも、ショートケーキは美味しい。

 そのような創発の場を整えることが、事業創造やイノベーションには重要となる。それは、同質化・均一化を求めるムラの寄り合いとは異なり、要素の違いをつむいでシステムを生み出し、別の性質へと変化する働きである。発見 discover とは、語の本来の意味において「覆いを取り除くこと」である。場において、相手の意見や考えの中から相互に価値を見出すこと、覆いを取り除くことが目指される。

関係をつなぐ

 オーラル・ロバーツ大学のデヴィッド・バーカスは、創造とは適切なエコ・システム(生態系)を設計し、そこに適切な訓練を受けた幅広い視野をもつ人びとを集めることで得られる結果だと述べている。

 結局のところ創造は、様々な経験や知見をもった多様な人たちとの関係のなかで生み出されるのである。一人の人間のできることは、きわめて少ない。他者との関わりの中で、自己の力だけでは不可能なことを補ってもらうこと、あるいは相互に補い合うことで、結果としてイノベーションが実現される。

 関係は、ものごとの間に成り立つが、実体はない。われわれは、個々のものごとを指し示すことはできるが、実体がないため、関係を指し示すことはできない。しかるに創造性を発揮する人は、どうにかして関係を捉えようと努める。ものを見る目を養い、自身の解釈において意味や意義を見出すのである。

 創発の働きにより、全体における一部の作用が全体に影響を与えることで、全体もまたその内部にある個々に影響を与え、新たな秩序が形成される。関係づけが、個別のものごとの間に意味をもたらし、全体の文脈のなかで諸々の要素がもつ価値を上回ることで、全体的にはさらに大きな価値をもつようになるからである。したがって、放埓や混沌からはイノベーションは生じない。新たな秩序の創造を目指すことが、イノベーションの道なのである。

 最後に、関係の中に正しい意味や意義を見出すのは、倫理観を備えた人である。共通の社会善のために関係を見出し、また新たに構築することで、秩序は形成される。まさしくHIDOが求めるのは、そのような関係の構築なのである。イノベーションとは善意にもとづき、人びとに喜びをもたらす活動である。

SPEC&Company パートナー 皇學館大学 非常勤講師

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。多数の企業の顧問やフェローを務め、企業や団体への経営支援、新規事業開発等に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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