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高校生の2割しか闇バイトを見抜けないのは、やつらがプロの犯罪者だからだ

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

 11月8日、毎日新聞に「これは「闇バイト」投稿? 高校生の正答率2割 警察はAIで対策」と題する記事が掲載された。

 2023年12月にディップが行った高校生250人を対象とする調査によれば、闇バイトとそうでない計6件のSNS投稿による募集情報を見せたところ、すべて正しく判断できた人は、たったの22.8%に留まったという。ということは、いくら警察やマスコミ、学校教員や親が「気をつけろ」と注意を促しても、目の前の案件がそうだと気づかないのだから、効果が薄いことになる。

 闇バイトという言葉は、どうやら警察やマスコミが生み出したものではない。よって定義は存在しないのだが、一般に、犯罪行為によって報酬を受け取る「バイト」のことを指す。この「バイト」という言葉は、売春を援助交際やパパ活と呼び、暴行や恐喝をいじめなどと呼び、窃盗を万引きと呼ぶのと同様に、犯罪であることの罪の意識を和らげる原因にもなっているのだが、一般に定着した言葉を覆すのは容易ではない。

 ある事柄が怪しいと気づくには、経験により培われた違和感を伴う判断が必要になるのだから、高校生には闇バイトを見抜くことができない。あるいは、闇バイトを掲載する側は、高校生のみならず高齢者や一般の人びとにも、できるだけ違和感を覚えさせず、犯罪であることを悟られないようにと、知恵を振り絞っている。人は、たえず身の周りを警戒して生き続けることはできないが、対して犯罪者は、たえず人を騙し、陥れようと目論んでいるのである。

 ふとした瞬間に、意図せず犯罪行為に巻き込まれ、そのまま深く入り込んでしまうのは、このような理由による。かねて副業や兼業を推奨してきた筆者としては、闇バイトの問題は他人事ではない。生産集団から離れて一個人として活動するには、防衛能力の強化が必要であるから、犯罪者の手口を確認しておくことは重要である。

犯罪に巻き込む手口

 学生のため、頑張るビジネスパーソンのためにと、かねて色々と調べ、観察し、伝聞されたりして情報を集めてきたので、まとめておきたい。

 まず、闇バイトの求人対象者は誰かというと、すべての人である。よって、昨今の若者が巻き込まれるものとの印象は、高齢者や一般人の警戒を薄めることになるため、注意が必要である。また闇バイトは、求人対象者への詐欺行為として行われる傾向がある。自ら犯罪に手を染めようと望んで闇バイトに加担するのではなく、知らず知らずのうちに巻き込まれることが少なくない。

 怪しい案件に対して警戒を失ってしまうのは、時々の人間心理や置かれた状況による。詐欺師は困っている人を狙い、その心につけ込むのが得意である。闇バイトの場合、まず狙われるのは若者や高齢者などに限らず、お金のない人である。より正しくは、お金がないことを理由に、なんらか差し迫った問題を抱えている人である。

 例を挙げれば、食うに困っているとか、学費が払えないなどの生活に困窮する学生が狙いやすい。授業の後で時給1000円の仕事をしても、生活するのがやっと。クタクタになって帰宅し、ふとSNSをみると、同じ年頃の人はおしゃれな服を着て、毎日遊び歩いている。彼らは幸せそうで、自分は我慢の連続だ。もっと割のいいバイトはないものか。能力のない自分がお金を稼ぐには、いくばくかのリスクを負う必要もあろう。

 将来への不安を抱える人も狙いやすい。自分は学歴も資格もなく、仕事の給料が少ない。こんなに一生懸命働いているのに、たくさんの税金を納めることを強いられ、老後の蓄えもほとんどない。超高齢社会を迎えて社会保険料は増えていくのに、そもそも自分の世代は本当に年金をもらえるのか。だとしたら、自分の身は自分で守るしかない。生き延びるために、新たな仕事で自分の人生を切り拓くのだ。

 ゲームやギャンブルなどの依存症に陥っている人も狙いやすい。ゲームで課金し、ギャンブルに有り金をつぎ込んでしまう人は、今日明日の生活費がないばかりか、借金まで抱えている。利息を返すのがやっとなのに、ゲームやギャンブルはどうしてもやめられない。いったん借金を返して、人生をリセットしよう。大きく張って大きく稼ぐのが望ましく、できれば簡単にお金を手にしたい。どこかに勝負できる仕事はないものか。

 このような形で、日々の生活に追われるようになり、現状から抜け出したいと思い悩んでいる人が闇バイトに手を出すのは、不思議ではなかろう。あえて「狙いやすい」と書いたのは、こうした心理状態の人ばかりでなく、他にも切羽詰まっている人はみな、狙われる可能性があるからだ。そして人は、ニュースなどで犯罪に巻き込まれ逮捕される人を見ても、自分だけは大丈夫だと考えてしまう楽観バイアスをもっている。

 詐欺師が一見すると、信用できそうな人に偽装し、安全な仕事の体で募集している点も、騙される要因である。闇バイトはSNSやコミュニティサイト、掲示板などに記載されていることが多いが、人づての場合もある。身近な友人と思わせるために、何カ月もの間、関係づくりに勤しむのが詐欺師というものだ。いずれにせよ、応対したときに怪しい人であれば、断る選択もできよう。そのため詐欺師は、親切な態度を表して接し、簡単な事務作業だとか運搬の仕事だといって応募者を安心させ、悪の道へと誘う。

 実際、闇バイトには単純作業をスポットで行う求人が多い。基本的に大口の犯罪行為は、警察に尻尾を掴まれないようにと複数の人に役割分担されており、各自に充てられるのは作業単位である。そうすると、仕事の全体像が見えないため、犯罪に加担する行為であるか否かが事前に見分けられない。こうして、ごく普通のアルバイトだと思って応募したら、実際には闇バイトだったことに、後で気づくのである。

 簡単に辞められると思うのは甘い。闇バイトに応募した際に、身分証明書や家族構成などは相手に控えられている。すでに犯罪に加担したのだから逃れられないと告げられ、そのままずるずると、犯罪グループの一員として働くことになる。しかも、簡単で割のいい仕事であるから、どこか仕方ないと諦め、継続を望んでいる自分もいる。自分は騙された側であり、指示を出した首謀者ではないことで、罪の意識が希薄化されているのだ。大企業で不正が行われ続ける構造と同じである。

 こうして逮捕されるまで、彼らは負のループに陥ってしまうのである。つまり悪の道には、一挙にではなく徐々に、絡めとられるようにして、引きずり込まれていく。最初の入り口に気づくのが肝心であり、もし入り込んでしまったら、被害の軽いうちに抜け出す努力を払ったほうがよい。

それでも「気をつけろ」としか言いようのない実情

 はっきりいって筆者には、どれだけ調べようとも、目の前の人が詐欺師かどうかを見抜く自信はない。あちらは騙しのプロで、こちらは騙されの素人なのだ。馬鹿にするかもしれないが、例えば少なからぬ人は、就職に際して企業の説明する労働環境や触れ込みと、勤務実態が全く異なる経験をしたことがあろう。事態が重いか軽いかの違いはあれども、おそらくすべての人には、他者に騙された経験がある。

 犯罪の手口は多様化しており、警察やマスコミは、一般的な事案に基づき注意を促すくらいしかできない。振り込め詐欺にしても、当初はオレオレ詐欺と呼ばれていたが、「オレ」を名乗るパターンばかりでないことを鑑みて、名称を変えている。振り込め詐欺という名称とて、もはや振り込まずとも取引が可能なのだから、同種の詐欺の名称としては適当といえない。

 それゆえ犯罪の手段に関する知識よりも、犯罪者や詐欺師の思考や手口、振る舞い方を知る必要があるというのが、筆者の考えである。犯罪者は、弱者につけ込む。優しく親切で、親身な態度をもって近づいてくる。うまい話をひけらかし、自分にも勧めてくる。カモは逃がさず、最後まで食い尽くす。罪の意識を和らげ、習慣化することで、犯罪を仕組みにする。このような傾向を知っておけば、過程のどこかで気づき、誰かの手を借りて脱することもできるかもしれない。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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