与野党のトップが見せた臨時国会の耐えられない寒々しさ
フーテン老人世直し録(269)
極月某日
本日(12月17日)第192臨時国会が閉幕した。日本政治の劣化が言われるようになって久しいが、これほど拙劣な国会を経験したことがないというのがフーテンの感想である。
拙劣さは与野党にまたがっており、その主要な原因は与野党のトップ、つまり安倍自民党総裁と蓮舫民進党代表の政治家としての力量のなさというか、資質に大いに関係があると思う。
安倍自民党総裁は内閣総理大臣として行政のトップでもあるが、フーテンが取材の一線にいたころの国会は、三権分立の建前から行政のトップである総理が国会運営に介入することは慎まねばならないとされていた。
従って政府と与党は一体ではあるものの、国会運営の一々は与党幹事長の下で表の存在である議院運営委員長と裏の存在である国会対策委員長に委ねられていた。そのため総理にとって党幹事長、議院運営委員長、国会対策委員長は自らの政権運営を左右しかねない重要なポストであった。
しかし大統領型の総理を目指した中曽根康弘氏の頃から三権分立を無視して総理官邸が国会運営に口出しするようになり、当時衆議院の議院運営委員長であった小沢一郎氏が「民主主義をないがしろにする」と強く反発したことを鮮明に覚えている。
安倍総理とその周辺もどうやら中曽根元総理と同様に国会運営に口を出し、行政が国会をコントロールしようとしている。与党はそれを表では批判できず、しかし反発が底流にくすぶってこの臨時国会を混乱させる要素になったとフーテンは感じている。
安倍総理はこの臨時国会をTPP批准のための国会と位置付けた。TPP批准は日ロの領土交渉に強い懸念を示すオバマ政権を説得する取引材料となるもので、そのためアメリカ大統領選挙の前までに衆議院を通過させて批准を確実にし、ヒラリー・クリントンが選挙に勝利すれば、連邦議会での批准を側面支援することができると考えた。
官邸の作成したシナリオが与党に降りてきて、おそらく一部の与党議員には「俺たちは官邸の下請けではない」との思いが生まれる。しかし与党の一員である以上、高い支持率を誇る安倍総理を表で批判することはできない。それが「ほめ殺し」の形となって現れてきたのである。
TPP特別委員会理事の福井照衆議院議員は臨時国会が召集されたばかりの9月末、所属する二階派の会合で「強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」と発言し、直後に記者団には「総理の思いを述べたに過ぎない」と、強行採決が安倍総理の意向であることをほのめかした。
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