歯の浮くような日本の総理演説と「壊れたレコード」のアメリカ大統領演説
フーテン老人世直し録(272)
極月某日
安倍総理の真珠湾訪問での「不戦の誓い」は歯の浮くような美辞麗句の連続で、それに応えたオバマ大統領の演説は20年以上前からアメリカ大統領が繰り返す「壊れたレコード」に過ぎなかった。
なぜこの時期に安倍総理は真珠湾訪問を行ったのか。昨年憲法解釈を変更して米軍の戦闘に日本の自衛隊が協力することを可能にした挙句、「不戦の誓い」をアメリカ大統領と共に打ち出す必要があったのはなぜか、意味不明の外交は今月行われた日ロ首脳会談の敗北を引きずったまま終わりが見えない。
そしてメディアには、日ロ首脳会談の時と同様に安倍政権を持ち上げるためだけに解説をする御用評論家がそろって「安倍総理の狙いはトランプ次期大統領に対する牽制で日米同盟強化を盤石にするものだ」などと見てきたようなウソを言う。
トランプ次期大統領に対する牽制だって? 来月トランプ政権が誕生すれば、安倍総理はまた駆けつけて「あなたの方針に従います」と「すり寄る」ことは火を見るよりも明らかだ。何を寝ぼけたことを言うのかとフーテンは呆れた。
安倍総理の「不戦の誓い」は読むたびに気恥ずかしさが先に立ち紹介する気にもなれないが、基本的にこの総理には歴史教育が欠落しているのではないかと思う。なぜ日本軍が真珠湾奇襲攻撃をかけたのかを全く理解していないように思える。
安倍総理は戦争が真珠湾から始まったかのように言った。日米戦争は確かに真珠湾から始まったがそれはなぜか。その4年前から日本軍が中国大陸で事実上の戦争を始めていたからである。
アメリカ大統領ルーズベルトの母親は中国貿易を営む富豪の娘で中国で暮らしたことがある。ルーズベルトは母親から中国の思い出話を聞かされて育った。中国に思い入れが強い分だけ日本に批判的だった。
ドイツのヒトラーがポーランドに侵攻して第二次大戦が始まると、ドイツはアメリカの参戦を恐れ、アジアで中国と戦う日本を自分の陣営に引き込めば、アメリカはヨーロッパとアジアの二正面を向かなければならず、戦争に踏み切れないとの論理で日本と同盟関係を結んだ 。
ドイツとの同盟は英米との敵対を意味し、海軍や天皇は反対したが、安倍総理の縁戚に当たる松岡洋右外相はヒトラーの強さを信じ、日本は英米と敵対する道を選ぶ。
ルーズベルトは三国同盟を非難し日本への鉄輸出を禁止するが、水面下では日本との戦争を避ける道を模索した。条件は中国からの日本軍の撤退である。日米交渉は合意に達しかかるが、ヒトラーがヨーロッパを支配すればそのすきにアジアで「大東亜」を建設できると考えた松岡の反対でとん挫する。
こうして日本は石油資源を求めて仏領インドシナへの南進を開始し、これにアメリカは制裁を課す。ABCD包囲網が形成され、日本は東南アジアの資源を獲得するため、まずハワイにいるアメリカ太平洋艦隊の出撃を抑えようとした。
つまり中国の戦争と真珠湾とはひとつながりなのである。ところがそれを無視して安倍総理は日米戦争だけを抽出し「和解」と「寛容」を口にした。それではこれまで日米間に真珠湾を巡って「和解」と「寛容」はなかったのだろうか。
とんでもないとフーテンは思う。真珠湾攻撃の50周年記念日にフーテンは日米双方向の討論番組をフジテレビとアメリカのケーブルテレビC-SPANを結んで制作した。その日はブッシュ父大統領がアリゾナ記念館で演説することになっていて、それを巡り日米の視聴者が電話で討論するという番組だった。
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