情報の隠蔽と捻じ曲げが国民を無知にして国家の敗北を招く
フーテン老人世直し録(271)
極月某日
24日付東京新聞は、朝刊一面トップでアフリカの南スーダン国連平和維持活動に参加する陸上自衛隊の今年7月の日報が廃棄されていた事実を報じている。7月には首都ジュバで大規模な武力衝突が発生していたが、その時期の自衛隊の様子を国民が知ることはできなくなった。
陸上自衛隊の文書管理規則では三年間を保存期間の基準と定めているが、例外として「随時発生し、短期に目的を終えるもの」や「1年以上の保存を要しないもの」は1年未満での廃棄が認められる。防衛省は今回の廃棄の理由を「上官に報告をした時点で、使用目的を終えたから」としている。
また同紙の三面では、ハワイの真珠湾に鳩山一郎、岸信介の二人の現職総理もそれぞれ1956年と57年に訪れていたことが現地の日本語新聞「ハワイ報知」で報じられたと報じた。
政府は当初、安倍総理の今月末の真珠湾訪問を「現職総理初」と発表したが、その後、国内の過去の報道から1951年に吉田茂総理が訪れて慰霊したことが分かり、また今回はハワイの現地新聞によって安倍総理の訪問は戦後四番目であることが分かったのである。
吉田総理の真珠湾訪問について外務省は、当初「現時点では明確になっていない」と答え、その後「当時はアリゾナ記念館は建設されておらず、アリゾナ記念館において現職総理が慰霊をするのは初めて」と変更した。今回の鳩山、岸の両総理については再び「現時点では把握していない」と答えている。
しかし新聞が報道した総理の行動を政府が把握していないことがあり得るだろうか。外務省も防衛省と同様に総理の外交記録を「保存の必要なしと認めて廃棄した」のか、それとも「現職初」をアピールしたい安倍総理におもねり、知っている事実を捻じ曲げてメディアに発表したということか。
いずれにしても「駆けつけ警護」の新任務を自衛隊に課した安倍政権の失点につながる情報は隠蔽し、支持率維持につなげるための事実の捻じ曲げが行われていることを推測させる記事を今朝は二つも目にすることになった。
それはこの国の国民が自国の歴史を正確に知ることのできない環境に置かれていることを示している。そして同時にメディアがいともたやすく政府の発表を鵜呑みにすることをも明らかにしている。当初、新聞もテレビも安倍総理の真珠湾訪問を「現職総理として初」という点に力点を置き、安倍総理に「平和を希求する総理」のイメージを塗り付けた。
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