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最初から最後まで東京五輪に呪いをかけた森喜朗東京五輪組織委会長

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(562)

如月某日

 東京五輪の開催は新型コロナウイルスの感染状況次第と思われてきたが、今やそれに加え森喜朗東京五輪組織委会長の存在が開催を危うくする事態となった。森会長がトップの座にとどまる限り、それを理由に辞退するアスリートや大会ボランティアが出てきかねないからだ。

 森会長は3日のJOC(日本オリンピック委員会)臨時評議員会で、「女性を理事に入れると理事会の時間が長くなる」と発言し、内外のメディアから「女性蔑視発言」と報道された。すると翌4日に記者会見を開き、謝罪して発言を撤回したが、辞任する考えはないことを明言した。

 その会見の一部始終を見たが、謝罪すると言いながら、森会長にはまったくその気のないことがひしひしと伝わってくる。記者からトップとしての適格性を問われると、「面白おかしくしたいから聞いてんだろう」と逆切れし、わざわざ事を荒立てた。

 IOC(国際オリンピック委員会)は「森会長が謝罪したのだから、それで問題は終了した」との態度だが、3日には聖火ランナーに選ばれていたお笑いタレントがユーチューブチャンネルで、「森会長はコロナがどんな形でも開催すると、理解不能な発言をされておられた」と森発言に不快感を表明し、聖火ランナーを辞退した。

 4日の記者会見を見た国民の中から、このお笑いタレントに同調する動きが出てきても不思議ではない。森会長本人も会見で「自分から辞める気はないが、皆さんが邪魔だと言われれば、老害粗大ごみになったのだから、掃いてもらえばいい」と発言した。それなら「掃いてやろう」と参加を辞退するアスリートやボランティアが出てくる可能性がある。

 菅総理は2月7日まで11都府県に出されていた緊急事態宣言を栃木県を除き1か月間延長した。それをフーテンは劇的に感染者数を減らして東京五輪開催につなげる政略ではないかと書いた。

 毎年風邪の原因になる季節性コロナウイルスは、感染が11月から増え始め1月末から2月初めにピークを迎え、その後は急速に収束するという。菅総理はそれと新型コロナウイルスの流行時期が重なるとみて、新型コロナも2月中頃から収束に向かい、東京五輪開催の判断をする3月には劇的な減少を国民に見せられると考えているのではないか。

 それまでつらく苦しい生活を余儀なくされた国民に安ど感が戻り、そこに東京五輪の開催が決定されれば、国民の心理はこれまでの反動で一気に明るくなる。菅政権の支持率は上昇に向かう。何のことはない。菅総理は季節性コロナウイルスの流行時期に合わせて緊急事態宣言を延長したのだとフーテンは考える。

 しかしもうしばらくは、つらく苦しい生活を続けさせなければ、劇的な展開を演出することはできない。もうすぐ収束に向かうなどとは決して言えない。そうした中で森会長の発言はコロナとは関係なく、五輪憲章の精神を踏みにじり、性差別の問題を浮上させたのだから、コロナが仮に収束したとしても消えるものではない。

 その人物が東京五輪組織委会長に君臨する限り、フーテンは東京五輪参加辞退が出てくる可能性を消すことはできないと思う。しかし本人に辞める気はさらさらないようだ。菅総理にとって自分の思い描くシナリオの最大の障害となったのは森会長の存在ではないか。それをどうするのかが注目だ。

 フーテンは2013年に東京五輪招致が決まった時から、ブログに「東京五輪は呪われている」としばしば書いてきた。その呪われたと思わせる中心にいたのが森会長である。なぜフーテンが「東京五輪は呪われている」と思ったのかを説明する。

 2007年から東京五輪招致運動を始めたのは石原慎太郎東京都知事である。竹田恒和JOC会長と組んで2016年招致を目指したがリオデジャネイロに敗れた。民主党政権下の2011年に東日本大震災が起きた後、石原知事は再び2020年招致を目指すことにする。東日本大震災の復興を世界に示す「復興五輪」がテーマとなった。

 2012年10月に石原氏は都知事を辞職し、12月に猪瀬直樹氏が都知事に就任する。その直後に自民党の第二次安倍政権が誕生し、招致委員会は猪瀬会長、安倍最高顧問という体制になった。そして2013年9月にアルゼンチンで開かれたIOC総会で東京招致が決定されたのである。

 フーテンがおやと思ったのはその直後に徳洲会事件が起きたことだ。石原慎太郎氏の長年のスポンサーと言われた医療法人徳洲会の創業者徳田虎雄氏の息子徳田毅衆議院議員の選挙違反事件が摘発された。そして徳洲会から5000万円の資金提供を受けたとして猪瀬都知事が12月に辞職に追い込まれた。

 その頃、猪瀬都知事は東京五輪組織委会長の座を狙っていたと言われ、森喜朗氏と争い敗れたと噂された。ともかくこの事件で、五輪招致に最初に乗り出した石原、猪瀬の両氏が東京五輪の舞台から消された。2014年1月に森喜朗氏が東京五輪組織委会長に就任すると、森・安倍コンビで東京五輪を取り仕切ることになる。

 すると米国のニュース・サイト「デイリー・ビースト」が「東京オリンピックはヤクザ・オリンピック」という記事を掲載したのである。内容はJOCの副会長とヤクザとの関係や東京五輪組織委会長になった森喜朗氏とヤクザの関係を紹介している。

 そして巨額な五輪関係予算が会場建設などを通してヤクザの資金源になることを、日本の警察が注目しているというのである。なぜ米国のメディアにそんな記事が載るのか、フーテンは理解に苦しんだが、ともかく森会長が誕生した時からきな臭い話が表に出始めた。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:6月23日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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