NYで銃の携帯が禁止…観光は安全?眞子さんの居住地は?なぜ人は銃を持ちたいのか、ニューヨーカーの証言
銃撃事件が多発しているアメリカ。ニューヨーク州では9月1日より、銃規制を厳格化する改正法が施行される。
新たな改正法には、コンシールウェポン(外から見えないように隠して持ち運ぶ武器)所持申請の厳格化や、タイムズスクエアなどの銃所持禁止区域の指定も含む。
ニューヨーク市のエリック・アダムス市長は記者会見で「市内で発砲事件は、今年はすでに900件近く起こり、犠牲者は1000人以上にも上る」と現状を悲観し「880万人の市民の安全を守っていく」と決意を新たにした。
銃所持に関してアメリカでは、合衆国修正第2条(Second Amendment:1791年成立)で、自由な国家と安全のために国民が自衛のための武器を保有し携行する権利を侵してはならない、と定められている。
ただし人口密度が高い都市を擁する州(ニューヨーク、ニュージャージー、カリフォルニア、ハワイ、メリーランド、マサチューセッツなど)では、比較的銃規制が厳しく、これまでも独自路線を進んで来た。
例えばニューヨーク州の銃規制法では1世紀も前から、銃保持や携帯に厳しい資格要件が課されていた。しかし今年6月23日、連邦最高裁がこの州法について6対3で違憲であり無効との判決を下したのだった*。
- *ニューヨーク州ライフル&ピストル協会対ブルーエン(New York State Rifle & Pistol Association, Inc. v. Bruen)
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最高裁の保守派6人の判事により、自衛のために公共の場で拳銃を携帯する権利は、憲法で保障されているとの判断(NY州法の覆し)が示された。「ロー対ウェイド判決の覆し」と同じ時期だ。
この決定により、自衛のための銃を自宅で所有する権利が自宅外(公共の場)にも拡張されたのだが、9月1日に施行されるニューヨーク州の改正法では、人々の安全を守るために、その一部が覆されることになる。
- アダムス市長が発表した、タイムズスクエアの銃の携帯禁止地域。電光掲示板やブロードウェイミュージカルの劇場が集まる地域が含まれる。ブライアントパーク(Bryant Park)の西側に位置する日系書店の紀伊國屋書店も対象。ただし小室眞子さん夫妻の住居エリア(今年2月に白昼堂々と銃撃事件が起きている)は対象エリアに入っていない。
この改正法では、申請者は銃の16時間の実地訓練を受け、3年分のソーシャル・メディアの情報を提出するなどし「自衛のための銃を所持するに値する善良な人物か」の審査を受けることになる。
また9月4日に施行する別の法律では、半自動小銃の購入年齢がこれまでの18歳から21歳に引き上げられる。
改正法施行前の駆け込みとして、多くのニューヨーカーがコンシールウェポンの許可申請を急いだようだ。
CBSニュースによると、8月だけで9187人が銃所持許可証のバックグラウンド・チェックのため、州に指紋採取を申請。同様の申請数は昨年同月の3187人を大きく上回った。また6月の最高裁の判決以降、銃の許可申請はニューヨークポストによると54%も急増し、CBSによると新規で1100件の銃(ライフルなどではないハンドガン)の申請が受理された。
NY観光は安全か?
改正法により、銃の携帯の禁止エリアとして、タイムズスクエアのほかにも、地下鉄、公園、教会や礼拝所、学校、バーや娯楽施設など人が集まる場所が定められた。
とは言え、法律でいくら禁止されたところで、法律を破って罪を犯す者は後を絶たない。よって安全か否かは何とも言えないが、筆者は当地に20年住み、1度たりとも自分の耳で本物の銃声を聞いたことがないというのもまた事実(一度、銃声っぽい音がした際、友人に「銃声?」と聞くと「花火だよ。銃声はもっと乾いた音がする」と教えてもらったことがある)。
ニューヨークでは銃がらみの事件のみならず、殺傷事件や窃盗、レイプなどさまざまな事件が起こりうる。観光の際には周りに注意を払いながら、恐れ過ぎず、自分の身は自分で守るべし。
今年、銃を初めて手に入れたニューヨーカーの証言
最後に、銃が飛ぶように売れている昨今のニューヨークの情勢を反映するかのように、筆者の周りでも、新たに銃を手にした人が1人いるので、そのエピソードを添えておく。
筆者は夏の間、友人が自宅の裏庭を使って開催するバーベキューパーティーに、たびたび呼ばれることがある。そのようなパーティーに何度か顔を出すようになって、顔見知りになった60代くらいの夫婦と先日話をしていたときのこと。
妻にあたるHさんが、今年、人生で初めて銃を手にし、自宅に所持するようになったと話しだし、筆者は少し驚いた。治安悪化の一途を辿る市内、特に筆者の住居ビルの治安を心配し、Hさんが筆者に「銃を持つことは考えないの?」と聞いてきたのがきっかけだ。「え?銃所持なんて考えたことがなかった...」と筆者は答えた。実際に筆者の自宅は警察署から目と鼻の先なので、緊急事態が発生しても5分以内に出動してもらえたことが実際にある。Hさんは続けた。「私だってこれまで銃を持つなんて考えもしなかった...」。
Hさん夫婦がその年齢にしてなぜ初めて銃を持とうと思ったかというと、2020年のジョージ・フロイドさんの事件がきっかけだという。BLM運動は全米中に瞬く間に広がり、抗議デモ、店舗の略奪、破壊行為が相次いだ。「警察の注力がその騒ぎに行き手一杯になっているのを見て、いざ自分の自宅や敷地内で何か起こったとしても警察はすぐに来てくれないだろう、と怖くなった」と話した。確かに夫妻は、警察署が近くにない郊外の静かな住宅地に住んでいる。
興味本位で質問を投げかけると、Hさんは臆することなく気軽に情報を教えてくれた。値段は、プロセスフィー(銃取得のための申請費用)も銃のセット(弾倉や弾丸など一式が、ケースに収納されているらしい)も、それぞれ500ドル、700ドルほどと誰もが手が届く料金帯だと言う。銃の取り扱い方を学ぶ講習を課されたため1度受け、もう1度受ける必要があるらしい。また申請から銃の所持まで1年半ほどかかり、やっと今年手にしたということだ。
ブルックリンの筆者が住む地域は、徒歩圏内に警察署があるだけでなく、警察管区(precinct)の犯罪率は市内でも低い方、つまり治安は割と良いとされるエリアだ。一方、犯罪率が高いエリア程、警察の手が回らず、騒音問題などちょっとしたいざこざ程度では警察が動いてくれないという話も、友人から聞くことがある。そしてHさん夫妻のように、治安は悪くなくとも近くに警察署がない地域に住めば、銃を持って安心を得たいと思うのは、至極自然なのかもしれない。むしろ筆者のようなケースはアメリカでは稀であり、内陸部や田舎の方に行けば、警察署なんてまったく存在しないなんてよくある話だ。Hさんから話を聞き、この2年で拳銃が飛ぶように売れている現状、銃を手に入れたいと思う人々の気持ちに合点がいく気がした。
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アメリカ人は、日本人のように「銃があるから危険」とは考えず、「銃を多く所持するほど、より安全が守られている」と考えるから、社会不安が人々の中で広がれば、自分や家族を守るために銃を購入する動機に繋がり、銃の売れ行きがよくなる。
(Text and some photo by Kasumi Abe)無断転載禁止