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裸のフィギュア役の衝撃から10年の佐々木心音。夫の不倫相手も義姉のいびりも許すヒロインを演じて

水上賢治映画ライター
「クオリア」で主演を務めた佐々木心音  筆者撮影

 石井隆、瀬々敬久ら、いわゆる鬼才と呼ばれる監督たちのミューズとなってヒロインを務めてきた、佐々木心音。

 近年では「娼年」や「愚か者のブルース」など、バイプレイヤーとしても確かな存在感を放つ彼女だが、今秋公開となる2本の主演映画「道で拾った女」と「クオリア」でみせる姿は、「演技者として新たに覚醒して、次なる領域に入ったのではないか」と思わせる。

 それほど何かを予見させる女優・佐々木心音がそこにいる。

 鮮烈な印象を残した2013年の「フィギュアなあなた」のドール役から本格的に女優のキャリアをスタートさせて約10年。新たな飛躍を予感させる彼女に「道で拾った女」と「クオリア」の両主演作について訊くインタビュー。

「道で拾った女」に続き「クオリア」ついて佐々木に訊く。全七回。

「クオリア」で主演を務めた佐々木心音  筆者撮影
「クオリア」で主演を務めた佐々木心音  筆者撮影

優子のことを不憫に思う人は多いと思います。でも、彼女は不憫ではない

 前回(第二回はこちら)は、本作に登場する田中家の家族の形について、通常ならば歪んでいると感じるところ、違和感を抱かなかった理由を明かしてくれた佐々木。

 おそらく通常ならば「耐え忍ぶ嫁」といった印象を抱く優子についても、あまり現実離れした人物とは思わなかったというが……。

 そうだったとしても、彼女の置かれた状況に不条理や怒りを覚えることはなかったのだろうか?

「優子という人物でなかったら、彼女の置かれた状況に不条理を覚えたり、怒りを感じたりしたかもしれません。

 ただ、優子という人物として立ってみると、あの家族の中での彼女のポジションがそこなので、あまりそういった感情を抱かないんですよ。

 傍から見ると田中家における優子のポジションは、上下でいったらたぶん最下位ですよね。

 めんどうなことはすべて押し付けられて、言われるがままいいようにこき使われている。

 押し付けられたことをしたところで誰からも感謝をされることはない。

 家族に尽くしたところで、もうそれは一家にとって当たり前と常態化しているので労わりの言葉すらない。

 だから、優子のことを不憫に思う人は多いと思います。

 でも、優子の視点に立つと、このポジションは嫌ではないというか、不憫でもないというか。

 優子の人間性からすると、むしろ適所で、苦のないところに収まっているのではないかと。

 この前も少しお話ししましたけど、優子は自分よりも人のことを優先する。

 で、彼女はすごくフラットな人で、たとえば人間が上で動物は下という考えがない。

 そうはいっても、最後は人間上位でしょうと思うかもしれないですけど、彼女のその後の選択などをみていると、わからない。

 自分よりも人のことを優先する以前に、あらゆるものを等しく見ているところがある。

 ある場面で、優子は、家族も養鶏場の鶏も同じ家族といったことを言う。

 彼女は嘘ではなく本気でそう思っているところがある。

 養鶏場の鶏は経済動物で最後は出荷されるわけですけど、そこまでは家族同様に大切に扱う。

 養鶏場の鶏にも愛情を惜しまず、自分の家族と同じような愛情を注いでいるところがある。

 ふつうはどちらにより慈しみの心をもって接するかと言うと、やはり人間ですよね。

 でも、優子は等価。家族と鶏にまったく等価の愛情を注ぐ。

 だから変な話ですけど、鶏に餌をあげることと、家族に食事を用意すること、どちらも彼女にとっては同じことと思っているところがある。

 おかしいと思われるかもしれないんですけど、彼女はそういう人なんです。

 だから、わたしもあの状況に怒りや不条理を覚えることはなかったですね」

「クオリア」より
「クオリア」より

優子は家族に虐げられているか弱い存在に見えて、実は……

 そう考えて優子をとらえると、彼女は末恐ろしいというか。

 実は、いいように使われているのは優子ではなく、ほかの家族のほうが彼女に手玉にとられてコントロールされているようにも思えてくる。

「そうなんです。

 優子はありとあらゆることを押し付けられている。

 義姉の里子にしても、夫の良介にしても、なにかあればとりあえず優子に押し付ける。

 でも、これって逆を言うと、優子に頼り切っているということ。

 優子がいなくなった瞬間から、彼らはすべてが立ちゆかなくなるんです。

 養鶏場の経営も、食事の用意や洗濯といった日々の暮らしもままならなくなってしまう。

 優子の気持ちひとつで、彼らの日常は崩壊してしまう。

 だから、優子は家族に虐げられているか弱い存在に見えて、実は手玉にとっているところがある。

 誰も気づいていないんですけど、そう考えると彼女はすごいダークで怖い存在なんです。

 すべてを受け入れてくれるマリア様のように見える一方で、なにを考えているかわからない得体のしれないダーク・ヒロインにも見える。

 見る人によって、優子の印象は大きく違ってくるのではないかなと思います」

(※第四回に続く)

【「クオリア」佐々木心音インタビュー第一回はこちら】

【「クオリア」佐々木心音インタビュー第二回はこちら】

【「道で拾った女」佐々木心音インタビュー第一回はこちら】

【「道で拾った女」佐々木心音インタビュー第二回はこちら】

【「道で拾った女」佐々木心音インタビュー第三回はこちら】

【「道で拾った女」佐々木心音インタビュー第四回はこちら】

【「道で拾った女」佐々木心音インタビュー第五回はこちら】

【「道で拾った女」佐々木心音インタビュー第六回はこちら】

【「道で拾った女」佐々木心音インタビュー第七回はこちら】

【「道で拾った女」佐々木心音インタビュー番外編はこちら】

「クオリア」ポスタービジュアル
「クオリア」ポスタービジュアル

「クオリア」

監督:牛丸 亮

原作:越智良知 

出演:佐々木心音、石川瑠華、木口健太、久田松真耶、藤主悦ほか

公式サイト https://eiga-qualia.studio.site/

新宿K`s シネマにて本日26日(金)19:00~までアンコール上映、以後全国順次公開予定

筆者撮影以外の写真はすべて(C)2023映画「クオリア」制作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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