レアル・マドリーの戦術と「ベリンガム・システム」の先の未来。
ストライカーを獲得するという噂は立ち消えになった。
レアル・マドリーは昨季終了時にカリム・ベンゼマが退団。この夏、キリアン・エムバペ、ハリー・ケインの獲得の可能性がと沙汰されたが、トップクラスのCFは到着しなかった。
アンチェロッティ監督はケインの獲得を望んでいたと言われている。一方、クラブとしては、やはりエムバペ獲得の可能性を捨てきれなかった。
パリ・サンジェルマンとの契約を2024年夏までとしているエムバペに関しては、いずれにせよ、来夏、フリーになる。その前に高額な移籍金でストライカーを獲得する、というプランに踏み切れなかった。
ただ残ったのは、9番不在という事実のみ。そこでアンチェロッティ監督はシステムチェンジを思い付く。
■ベリンガムの得点力
イタリア人指揮官発案の下、主役に据えられたのは、ジュード・ベリンガムだった。
ベリンガムは、アンチェロッティ監督の考えにより、【4−4−2】中盤ダイヤモンド型システムのトップ下に配置された。この夏、移籍金1億300万ユーロ(約152億円)で加入した選手に、自由を与えるというのが指揮官の狙いだった。
しかし、それはリスクを伴う決断でもあった。ベリンガムのキャリアハイのゴール数(14得点/ボルシア・ドルトムント時代/2022−23シーズン)を見れば、当然だろう。
だがアンチェロッティ監督はある種の「賭け」に勝ったと言える。
アンチェロッティ監督は今季、プレシーズンから準備を進めていた。ベリンガムに求めるプレーが、ドルトムント時代のそれとは異なるものだったからだ。
アンチェロッティ監督もといコーチングスタッフは夏を通じてベリンガムに分析ビデオを見せていた。ドルトムント時代のプレー集で、今後、要求されるところが凝縮された映像だ。 「ドイツでは、ベリンガムはライン間でボールを受けることが多かった。しかし、マドリーでは、もっとゴール前に顔を出すように要求している」とはアンチェロッティ監督の弁である。
■クラシコのパフォーマンス
そして、今季最大のビッグマッチとなったクラシコで衝撃のパフォーマンスを見せた。圧巻の2ゴールで、マドリーを勝利に導いた。
クラシコを終え、ベリンガムはマドリー移籍後、公式戦13試合で13得点を記録。ウーゴ・サンチェス(7得点/マドリー/1985−86シーズン)、カリム・ベンゼマ(4得点/マドリー/2009―10シーズン)、ネイマール(3得点/バルセロナ/2013―14シーズン)、リオネル・メッシ(4得点/パリ・サンジェルマン/2021−22シーズン)と往年の名選手でも、移籍一年目においては苦戦している。そこから考えれば、やはりベリンガムが“異常”なのだ。
■「ベリンガム対策」の対策
一方、クラシコでは、課題も見て取れた。
「ベリンガム・システム」のマドリーに対して、バルセロナのシャビ・エルナンデス監督は対策を立てていた。それはシンプルだった。ガビにベリンガムのマンマークを命じたのである。
フィールド上、どこに行っても、ガビが付き纏う。その対応に、ベリンガムは苦しんだ。
アンチェロッティ監督は「修正力」を発揮した。後半、エドゥアルド・カマヴィンガ、ルカ・モドリッチを次々に投入して、試合を動かした。カマヴィンガの偽SBとフリーロールのタスクを与えられたモドリッチのプレーで、少しずつ、バルセロナのプレッシングとマークがずれ始めた。ベリンガムの1点目のミドルシュートはゴラッソだったが、あの瞬間、ガビのマークが追いつかなかったのは偶然ではない。
■今後のプランと準備
アンチェロッティ監督は見事な修正力を見せ付けた。他方で、ベリンガム・システムが封じられた際の問題が、マドリー側としては浮き彫りになった。
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