五輪4連覇は楽ではなかった──バスケ王国アメリカは東京で何を証明したのか
難敵をついに振り切る
東京五輪男子バスケットボールの決勝も、残り5分42秒。フランスの伏兵フランク・ニリキナの3Pショットが決まって73-70と3点差まで追い上げられた時点で、グループリーグ第1戦での悪夢がアメリカの選手たち、関係者の脳裏をよぎったのではないか。
7月25日のアメリカ対フランス戦では残り3分30秒までアメリカが7点をリードしながら、その後に16-2のランでフランスが逆転勝利を挙げていた。
同カードの再戦となった8月7日の決勝。アメリカのプレーははるかに向上していたが、それでも粘り強いフランスをなかなか振り切れなかった。第3クォーター終盤に一時は点差を14点まで開けられても、ルディ・ゴベア、エバン・フォーニエを中心に巻き返したフランスの結束力と闘志は見事としか言いようがない。
しかしーーー。チームとしての経験を積み上げ、因縁のリマッチに辿り着いたアメリカはやはりグループリーグの対戦時とは一味違った。
3点差とされた直後、デイミアン・リラードのプルアップジャンパー、ドリュー・ホリデーのダンク、再びリラードのジャンプシュートで6点を連取。振り返ってみれば、最大のピンチをすぐに跳ね返したこのランには千金の価値があった。
ここで再びリードを広げると、以降も堅守とクラッチショットでフランスを食い止める。最後は残り8.8秒からケビン・デュラントが2本のフリースローを決め、追いすがる相手の息の根を止め、ついに87-82で激闘に終止符を打った。
「このチームに勝ったのだから大きな意味がある。フランスは良いチーム。彼らは決して諦めない。常にハードにプレーするし、体格も良い。だから僕たちにとってもチャレンジだった。ただ、僕たちは彼らとまた戦いたいと思っていたんだ」
2019年の世界選手権、今大会のグループリーグと2連敗を喫していたフランスへのリベンジを果たし、アメリカを五輪4連覇に導いたケビン・デュラントのそんな言葉は実感がこもって聞こえた。
無残な敗北で始まった五輪を締めくくるには、やはりフランスを倒さなければならなかったのだ。何より意味深く思えるのは、勝負を決めた最終クォーターはエースのデュラントがほとんどボールに触れなかったにもにもかかわらず、他の選手たちの頑張りで仕事をやり遂げたことだ。
エース以外の踏ん張りで逃げ切り勝利
東京五輪を通じて、アメリカの、いやトーナメント全体ベストプレーヤーは紛れもなくデュラントであり、それはこの決勝戦でも変わらなかった。
個人としては五輪3連覇を決めたこの日のゲームでも、主砲は当然のように29得点をマーク。これで五輪の決勝戦はロンドン、リオに続いて3大会連続で29得点以上と驚異の決定力を誇る。
東京五輪中にアメリカ代表の史上最多得点記録も更新した。今大会はデュラントが本格的に“The greatest American Olympic basketball player ever(アメリカ・バスケットボール史上最高の五輪選手)”として確立したトーナメントとして記憶されていくのかもしれない。
ただ、そんなデュラントも決勝戦の最後の10分間はフランスの激しいマークに遭い、FGは開始早々に1本を放って外したのみだった。そういった厳しい状況下でも、ホリデー、リラード、ドレイモンド・グリーン、ブッカー、ジェイソン・テイタムらがそれぞれの形で活躍し、アメリカは逃げ切った。
NBAのスターが揃ったメンバーなのだから当たり前ではあるのだが、バスケットボール王国は最後の最後で改めて層の厚さを見せつけたと言って良いのだろう。
「勝つためにはなんでもやるつもりだった。そのためにここに来たんだ。(優勝ができて)素晴らしい気分だ。ずっと夢見ていたことだから」
試合後、NBCのインタビューを受けたテイタムは、歓喜を爆発させるというよりも、安堵を感じさせる表情でそう述べた。
実際に楽な道のりではなかった。メンバー選定の難航、決定後の変更、NBAファイナル出場選手たちの合流遅れ、グループリーグでの敗北、そして、決勝戦での苦戦・・・・・・。この波乱のトーナメントの中で、それでもアメリカは包囲網を突破し、金メダルを獲得した。すべての試練を乗り越え、伝統は死守した。
かつてのような圧倒的な強さこそ感じさせなくとも、東京での勝ち上がりが、依然として多くのタレントを揃えたバスケットボール王国の深さを誇示する戦いだったことは間違いないはずである。
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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】