五輪決勝でシナリオ通りの「再戦」 NBAのスター軍団はラストゲームで何を見せる?
五輪決勝はリベンジマッチ
アメリカの選手たちもこの最終決戦を望んでいたはずである。
8月6日、東京五輪の男子バスケットボール決勝戦で顔を合わせるのはアメリカとフランス。7月25日に行われたグループリーグ初戦では76-83でフランスに苦杯を喫して以来、すべて二桁以上の点差をつけた上での破竹の4連勝を続けてきたアメリカにとって、最後のゲームが雪辱戦になったことはほとんど理想のシナリオだったに違いない。
「(金メダル獲得は)ドリーム・カム・トゥルーだ。長い間、待ち望んでいた舞台。多くの選手たちがこのジャージーを身につけてきた。僕たちはアメリカを代表しているんだ」
5日に行われた準決勝のオーストラリア戦に勝って金メダルまであと1勝に迫り、NBC放送のインタビューを受けたデビン・ブッカーはそう意気込みを述べていた。
2019年のワールドカップ、今大会の第1戦とフランスには連敗を喫した後でも、決勝戦はやはりアメリカ有利とみなされそうだ。東京五輪が進むにつれて、アメリカはやはりNo.1チームと思えるだけのプレーを続けてきたからだ。
確立された勝利パターン
準決勝のオーストラリア戦でもアメリカの強さは印象的だった。序盤こそ相手の激しいプレッシャーに手を焼き、ターンオーバーを頻発し、最初の10本の3Pショットをすべて失敗。その出遅れのおかげで、第2クォーターも残り5分23秒で15点のビハインドを負った。7人のNBAプレーヤーを軸に今大会は無傷の4連勝を続けてきたオーストラリアを前に、アメリカ危うしと思われた。
ところが、同じく一時は二桁リードを許した準々決勝のスペイン戦同様、第2クォーター中盤から守備のプレッシャーを強めると、一気に流れが変わる。
第2クォーター最後の4分半にみせた16-4のランで前半終了間際に3点差まで詰めると、後半はそのダイナミックな攻守が爆発。第3クォーター開始早々にドリュー・ホリデーの連続得点であっさり逆転し、その後はケビン・デュラントのショットで瞬く間に点差を広げてみせた。
「みんな僕たちには最高のプレーをしてくることはわかっている。(オーストラリアは)第1クォーターは完璧だったと思うけど、ハーフタイムまでに3点差に詰めた時点でこの試合は手中に収めたと思った」
この日もゲームハイの23得点を挙げたデュラントの言葉が示す通り、ペースを掴んで以降のアメリカのプレーには余裕と力強さが感じられた。
エキジビションゲームから通じて最初の5戦で3敗を喫した時点では心配された“チームUSA”だが、当初からの想定通り、勝ち進む過程でアイデンティティを確立させてきたのだろう。
「ディフェンス面で秀でたチームにならなければいけないことはわかっていた。僕たちは機動力を生かし、守備時にコミュニケーションを取り、一丸となってプレーするチーム。1オン1でストップするのは難しいチームでもあるはずだ」
デュラントは自信に満ちた表情でそう述べていたが、実際に気持ちを引き締めた際の守備力と個々の得点力が2021年のアメリカの最大の武器である。
戦い方自体はシンプルでも、ホリデー、デュラント、ドレイモンド・グリーン、バム・アデバヨらが主体となったディフェンスを突破するのは並大抵の難しさではない。そして、国際舞台でのデュラントの決定力はこれまでも述べてきた通り。守備力とエースの勝負強さでリズムを手にし、そこで生まれたスペースを使って持ち前の身体能力を爆発させるのが必勝パターンとなってきた。
集大成のパフォーマンスを見せてくれるか
「僕たちはすべてのチームをリスペクトしている。彼らは五輪をはじめとするFIBAのゲームで何年もの時間を一緒に過ごしてきたからね」
決勝で待ち受けるフランスは、デイミアン・リラードが述べていたそんな言葉を体現するようなチームなのだろう。
準決勝のスロベニア戦で16リバウンド、4ブロックを挙げたルディ・ゴベア、25日のアメリカ戦では28得点で勝利の立役者となったエバン・フォーニエ、百戦錬磨のニコラス・バトゥームといったNBAで活躍するフランスの主軸たちは、直接対決で過去2連勝しているアメリカとの対戦にも自信を持って臨んでくるに違いない。経験に裏打ちされたチームプレーに加え、守護神ゴベアの存在はサイズ不足のアメリカには脅威であり続けるのかもしれない。
しかしーーー。ディフェンスを中心についにケミストリーが生まれ始めた今のアメリカに勝つのは、どんな強豪国にとっても容易ではないことのようにも思える。
過去2戦が示したように、フランスとの対戦でもシュートが決まらない時間帯はあるのだろう。それでもディフェンスにはスランプは少ないだけに、それを基盤にしたアメリカがどこかでスパークするのは必然にも感じられるのだ。
東京オリンピックの決勝戦は、リベンジの舞台であり、正真正銘のラストゲームでもある。スロースターター傾向が目に付くアメリカも、”ドリーム・カム・トゥルー”を目前にした今度ばかりは序盤から全開で臨んでくるのではないか。だとすれば、ここでついにパーフェクトゲームが生み出されても驚くべきではない。
各国の役者たちが集ったハイレベルのバトルも大詰め。最後の最後で、NBAのスター軍団が、集大成と呼べるだけのとてつもないパフォーマンスを見せてくれそうな予感も静かに漂ってくる。
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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】