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日本ボクシング史に残るファイトウィーク・イベント開始 井上対ネリ取材日記#1

杉浦大介スポーツライター
Naoki Fukuda via Top Rank

 日本史上に残る大興行を取材するため5月2日、アメリカ西海岸から東京に飛んだ。予定通り、3日の午後に羽田空港に到着。マイク・タイソンが沈んだ1990年の世界ヘビー級タイトル以来、実に34年ぶりの東京ドーム興行に期待は高まる。同時に普段取材するアメリカのビッグイベントと日本のそれとの違いを感じるのが楽しみでもある。

 3日の夜は東京ドーム周辺に集まってくれたボクシングメディア、関係者たちと会食。4日からついに試合直前のイベントが始まった。

撮影・杉浦大介
撮影・杉浦大介

5月4日

PM13:00 

 横浜のホテルにて最終会見開始。井上尚弥、ルイス・ネリという2人のメインイベンターをはじめ、4カードの選手たちが登壇する。関係者が集まり次第、「そろそろやるか」という感じで会見が始まるアメリカとは違い、時間通りにスタートする日本はやはりすごい。というか、これが普通なのか。 

 派手なトラッシュトークや取っ組み合い(?)はなく、重厚感を感じさせる日本の会見。重奏華麗なオペラの序曲。欧米では退屈に感じるファンもいるのかもしれないが、これが日本らしさであり、トラディッショナルな良さでもある。

 井上尚弥チャンピオンはいつも通り、ストイックさを感じさせる受け答えを貫く。一方、ネリは「死を覚悟して闘いに挑む」という言葉が印象的だった。

 ラスベガスでの井上尚弥戦以降、親交のあるジェイソン・マロニーもいつも通りの爽やかな笑顔。前夜、気分転換、会場下見も兼ねて東京ドームの巨人対阪神戦を15分間だけ観にいったとのこと。ファンプレゼントだった長嶋茂雄氏のユニフォームをゲットして満足そうだったものの、体重調整も最終段階とあって、「大好きな日本食を食べられないのは辛い。試合以後2日間は滞在する予定だから、いい試合をして、いろいろと楽しみたい」と数日後に想いを馳せていた。

撮影・杉浦大介(3日の写真)
撮影・杉浦大介(3日の写真)

PM13:45 

 全体会見終了後、トップランクのボブ・アラムCEOがカンファレンスルームの外で囲み取材を受けている。92歳の傑物。近年、さすがに少々衰えが感じられるものの、今興行のあと、オーストラリア(ワシル・ロマチェンコ対ジョージ・カンボソス戦)、サウジアラビア(タイソン・フューリー対オレクサンデル・ウシク戦)にも飛ぶというバイタリティは驚異としか言いようがない。

 井上尚弥の次戦以降に関しては、「日本以外で井上の試合はありえない。なぜなら日本国内でこれほどの強さと人気を誇る選手がいないからだ」。ただ、サウジ進出の噂もあるだけに今後が注目される。

撮影・杉浦大介
撮影・杉浦大介

 会場を去り際、最近は興行のたびに時間を割いて話を聞かせてくれるようになったアラムと握手。今イベントに際し、アラムに限らず、トップランクは重役、広報、SNS担当など、多くのスタッフが帯同している。ディベラ・エンターテイメントのルー・ディベラ、オールスター・ボクシングのフェリックス・サバラJr.もすでに来日。まさに世界的な大興行である。米国時間4日、サウル・アルバレス対ハイメ ・ムンギア戦が終われば、世界中のファンの視線が今以上に東京に注がれるのだろう。

PM14:30 

 最終会見の会場となったホテルのラウンジにて、近日、ボクシング特集を予定するある有名スポーツ雑誌の編集者の方と打ち合わせ。話を伺うと、自分の担当以外も楽しみな企画が盛りだくさん。発売はまだ少し先だが、同誌のファンの1人として今から楽しみ。

PM17:30

 東京ドームホテルに戻り、IBF世界バンタム級タイトル戦を視聴(同ホテルは部屋のテレビでWOWOW、ABEMAが視聴可能)。挑戦者の西田凌佑がエマヌエル・ロドリゲスに3-0(115-112x2, 117-110)判定勝ちで新王者に。技巧派同士が打ち合ったハイレベルの好打戦。好スタートを切った西田が4回に左ボディでダウンを奪い、以降も実力派王者に打ち勝って堂々の王座獲得。期待を上回る内容に、日本ボクシングのレベル向上を改めて実感する。

撮影・杉浦大介
撮影・杉浦大介

PM18:00 

 後楽園ホールに移動し、「WHO’S NEXT DYNAMIC GLOVE on U-NEXT」を観戦。メインの日本ウェルター級タイトル戦で、挑戦者の豊嶋亮太(帝拳)が王者・坂井祥紀(横浜光)に2-1判定勝ちで新王者に。セミの日本Lフライ級タイトル戦では王者・川満俊輝(三迫)が挑戦者・安藤教祐(KG大和)に6回2分29秒TKO勝ちで初防衛に成功した。

 何度訪れても、後楽園ホールは小規模興行の舞台しては世界に誇れる会場と感じる。場内に見辛い席はほぼ存在せず、ファンは選手と一体化して熱くなれる。リングサイドに座っていたディベラ、サバラ両プロモーターも感銘を受けたのではないか。後楽園ホールに一番近い大学に通い、毎週のように試合を観にいった20年以上前の自身の日々が懐かしく思い出される。

PM21:00

 水道橋のやきとん屋に行き、ボクシング取材の先輩記者、その同僚記者と夕食。話題は辰吉丈一郎対井上尚弥のシュミレーション、大場政夫の歴史的位置づけなど。先輩の同僚記者は普段はそれほどボクシングは観ないとのことで、我々のマニアックな話がどれだけ響いたか。依然として熱心なファンを数多く抱える業界だが、カジュアルなファンをどれだけ近づけるかが課題ではあるのだろう。

撮影・杉浦大介
撮影・杉浦大介

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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