「井上が8回前後にKOする」 初来日した英国人ライターが語る日本のビッグファイトウィーク
スーパーバンタム級4冠をかけて5月6日に行われる井上尚弥(大橋)対ルイス・ネリ(メキシコ)戦。このビッグイベントに注目しているのはもちろん日本のファン、関係者だけではない。英国人のトリス・ディクソン記者も東京ドームで行われる今戦のために来日。かつてBoxing Newsの編集者を務め、今戦をBoxingscene.comでレポートするベテランライターにとっても、実に34年ぶりとなる東京ドームでのボクシング興行の取材は興味深い機会になっているようだ。
決戦前日の5日。気鋭のジャーナリストに日本のファイトウィークの感想と、楽しみな井上対ネリ戦の最終予想を尋ねた。
以下、ディクソン氏の1人語り
井上は”健全なスーパースター”
私が日本を訪れたのはこれが初めてです。スポーツのビジネスに長くいると、異国に飛んででも特別な才能を見たいと思うようになるもの。過去にラスベガス、マカオでマニー・パッキャオの試合を取材した私は、長く豊潤なボクシングの歴史を持つ日本も訪れたいとずっと願っていたのです。
ボクシングについて学ぶ過程でファイティング原田という偉大なボクサーを知りました。少年の頃には東京ドームで行われたマイク・タイソン対ジェームズ・”バスター”・ダグラス戦をイギリスの早朝、テレビで見た経験があります。無敵のモンスターだったタイソンが敗れた試合の衝撃はいまだに忘れていません。
時は流れ、タイソンが敗れた東京ドームで、井上という素晴らしいボクサーの試合を取材できることを名誉に感じます。
同じく来日したルー・ディベラ・プロモーターとも話したのですが、特に最近はライアン・ガルシアの計量失敗&薬物違反、オスカー・デラホーヤとサウル・“カネロ”・アルバレスの舌戦など、ボクシング界において落胆させられることが多い中で、井上のように健全なスーパースターが存在することを嬉しく思います。彼が主役のイベントに立ち会えることも光栄に思います。
日本の会見、計量といったファイトウィーク・イベントは欧米に比べて静かですが、尊敬に満ち溢れており、私は気に入りました。とても効率的で、無駄な部分はありません。迅速で、それでいてプロフェッショナルです。
アメリカでは会見や計量に1時間も遅刻して現れるボクサーは珍しくはありません。それが日本では選手、メディア、関係者のすべてがイベントにリスペクトの念を抱いており、5日の計量も定刻の午後1時ちょうどに始まりました。
また、アメリカでは音楽も場内アナウンサーも大音量で騒がしく、仕事の環境としては理想的とは言えません。その点でもノイズがほとんどない日本の方が私の好みです。
付け加えると、アメリカでは計量の順番はアンダーカードから始まり、最後にメインイベンターが秤に乗るのが通常。それが日本では井上対ネリ戦の計量からスタートしました。その点に関してどちらがいいとか悪いとかはありませんが、興味深い経験となりました。私が他国のイベントに出席するのを好むのは、こうやって異なる様式、カルチャーに触れられるからです。
試合の鍵は井上のボディ攻めか
井上対ネリは魅力的なカードだと思います。井上はこれまで多くのエキサイティングな試合の主役となり、そのパワーの素晴らしさで知られてきました。常に積極的で、被弾することも怖がりません。
一方、ネリはまだボクシング界の人々に証明すべき部分が残っていると思います。彼はそのために日本に来たのでしょうし、自信に満ちています。
この2人が大舞台でどんな戦いを見せてくれるか、興味は惹かれます。特に井上はますます大きな存在になっており、重圧も莫大でしょう。まさに日本国民の期待を背負って東京ドームのリングに立つのです。
会見、計量での両者から、何か特筆すべきものは見えては来ませんでした。ネリは事前のメディア対応で挑発的なことを言っていたようなので、2人の間にはもっと敵対心があるのかなと考えていましたが、ファイトウィーク・イベントでのネリは礼儀正しく振る舞っていました。
ネリはプロとして改心したことを、日本のファンに印象付けようとしているのかもしれません。その真意はわかりませんが、何にせよ、試合の前にプロらしい姿勢を保つのはいいことだというのが私の考えです。
最後に展開を予想しておくと、井上はやはりネリのボディを狙ってくるんじゃないでしょうか。それによって大きな成功を収め、最終的には中盤から後半にかけて山場を作ると見ています。予想は井上の8回前後のKO勝利。やはり井上が優位だとは思いますが、東京ドームを埋め尽くした5万人近いファンが興奮するような試合が見られることを私も楽しみにしていますよ。