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米国でも日本でも「オクトーバーサプライズ第二幕」の幕が上がる

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(539)

神無月某日

 トランプ米大統領は日本時間の6日朝、入院からわずか3日で病院を退院し、ホワイトハウスに戻った。ヘリコプターから降り立つと、一人で歩いてバルコニーに向かい、マスクを外し「新型コロナウイルスに支配されたり恐れてはならない。ワクチンも間もなくやってくる」と国民に呼びかけた。

 大統領の退院は、危険を覚悟して選挙戦に復帰し、新型コロナウイルスと戦う強い指導者の姿をアピールする狙いがあるとみられる。大統領選投票日1か月前の現職大統領の入院はまさしく「オクトーバー・サプライズ」だったが、奇跡の復活を演出するという「サプライズ」のそのまた「サプライズ」もありうると前回のブログに書いた。米国ではいよいよ「オクトーバー・サプライズ第二幕」の幕が上がった。

 日本では、日本学術会議の人事を巡り菅政権に対する国民の反発が広がっている。そうした中で政府は、総理が学術会議の推薦通りに任命する義務はないと確認した2018年の内部文書を公開した。

 11月13日付の内閣府日本学術会議事務局が作成した文書によれば、これまで「総理の任命は形式的なもの」とされていたのを、「内閣総理大臣は行政各部を指揮監督する」という憲法の規定を根拠に、「総理は任命権者であるから日本学術会議に対し監督権を行使することができる」と解釈し、「総理は学術会議の推薦通りに任命すべき義務があるとまでは言えない」と結論付けた。

 憲法を引っ張り出して根拠づけをしているのはもっともらしくみせるためだが、要するにこれまで学術機関は一般の行政機関とは異なると位置づけ独立性を認めていたのを、国民の選挙で選ばれた総理だから、任命権者として学術機関に対しても自分に都合の悪い人事はしなくて良いと言っている。それを決めたのは安倍前政権である。

 これは日本と同じ議院内閣制を採用している英国の民主主義とはまったく異なる。英国では官僚の人事に政治は介入しない。政治と官僚の癒着を排除することが民主主義の基本と考える。

 ところが米国の民主主義は真逆である。政治が官僚を任命する。そのため政権交代があれば3千人以上の官僚が首を切られて交代する。大統領は自分に都合の良い者だけを選んで任用する。当然、癒着と腐敗が起こる可能性はあるが、政権交代があるからそれで良しとされている。

 今回、政府が公表した内部文書は2018年のものだが、政治と官僚の関係について日本の民主主義は国民の知らないうちに変質していることを教えてくれる。つまり安倍前政権から日本は米国と同様に、都合の良い者だけを任命する仕組みに変えてきたが、それを国民には知らせないままにしてきたということだ。

 そして日本学術会議の人事に対する政府の介入は、既に2016年から繰り返されてきたことが明らかになった。毎年、学術会議と政府の間で「調整」が行われ、従来のような学術会議の推薦通りの任命ではなかった。それを国民の目に触れないようにしてきた。ところが今回はそれをはっきり見える形にした。なぜか。

 一方で、菅―二階連合と安倍―麻生連合の戦いが各所で火花を散らしている。それも含めて菅総理はなぜわざわざ支持率を下げようとしているのか。日本の「オクトーバー・サプライズ」もいよいよ「第二幕」の幕を上げたようにフーテンには見える。

 前回のブログで、10月1日に学術会議候補6名拒否のニュースが流れると、その日に菅総理が議員会館の安倍前総理の部屋を訪れるという極めて異例の行動をし、続く3日には二階幹事長が安倍前総理の天敵とも言うべき石破茂氏と会談したことにフーテンは注目したと書いた。

 フーテンは菅政権を短命で終わらせようとする安倍前総理の側と、そうはさせまいとする二階幹事長の側との戦いの中に、この学術会議人事はあると見ている。学術会議人事を見えるようにして支持率を下げさせようとしているのは安倍前総理の側で、二階幹事長が石破氏と会談したのは、来年の総裁選挙に菅総理が出馬できないようにするなら、こちらには石破のカードもあるぞと見せつけたと思う。

 安倍―麻生連合が来年の総裁選に担ぐのは岸田文雄氏だ。だからこの前の総裁選で24票の議員票を岸田氏に流し、2着にさせて立候補の目を残した。その岸田氏は安倍前総理からの「禅譲」を信じていたが、「禅譲」は菅氏へと向かい裏切られた。そのため一時は「分断から協調へ」と安倍政治に対抗するスローガンを掲げたが、ここにきて岸田氏は安倍―麻生連合にすり寄っている。

 5日に行われた岸田派の政治資金パーティで岸田氏は、かねてから麻生副総理兼財務大臣が主張する「大宏池会構想」に協力する発言を行った。またこのパーティには派閥の名誉顧問である古賀誠氏を呼ばなかった。麻生氏と古賀氏が犬猿の仲であるからだ。つまり麻生氏にゴマをすった。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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