「まだエクセル使ってる?」は、もう古い? IT企業が持ちかけるDXのワナ
IT企業の営業から
「まだエクセル使ってるんですか? もう古いですよ」
「御社も、そろそろDXに本腰になってはいかがですか?」
このように言われて、本当に必要かどうかわからない最新の分析用ツールを導入してしまう。こんな企業が急増している。
私は、「まだエクセル使ってるんですか?」という言い方自体が、もう古いと考えている。なぜか?
■気を付けたい心理現象「バンドワゴン効果」
営業から「お客様の声」や「成功事例」を聞くと、ついつい高いものでも買ってしまう。これを「バンドワゴン効果」と呼ぶ。
世間一般で評価されているものは社会的証明になる。とくに自社と境遇が似ている会社も多数採用していると聞けば、追随したいという欲求が湧き上がるものだ。
「まだガラケー使ってるんですか? もう古いですよ」
「そろそろスマホに変えませんか?」
と言われたら、仕事や生活にスマホが必要かどうかわからなくても、
「そろそろスマホに変えるか……」
という気分になってしまう。これと同じ現象だ。
■ハイテク商品はとくに注意が必要!
イノベーター理論で解説しよう。
製品ライフサイクルの4段階「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」を考え、各ステージの購入者像を「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」と名付けた。これを「イノベーター理論」と呼ぶ。
これら購入者像の構成比率は、以下の通りである。
・イノベーター(革新者):2.5%
・アーリーアダプター(初期採用者):13.5%
・アーリーマジョリティ(前期追随者):34%
・レイトマジョリティ(後期追随者):34%
・ラガード(遅滞者):16%
高機能の分析ツールがそれほど普及していなければ、イノベーターやアーリーアダプターしか、採用したいとは思わない。しかし「同業の50%近くが採用している」などとデータを見せられると、心が動くものだ。
「レイトマジョリティ(後期追随者)にはなりたくない」
という心理が働くからである。だから、
「まだエクセル使ってるんですか? そろそろ本格的な分析ツールを導入しませんか」
「この業界ではすでに67%の企業が導入して、大きな成果を体験されています」
などと巧みな営業トークに心を動かされてしまう。私は20年近く営業コンサルタントをしているので、「バンドワゴン効果」「群集心理」「同調バイアス」といった心理テクニックを使った話術は熟知している。
だからこそ、おススメしない。よほどのことがない限り、ビジネスで分析するときはエクセルで十分だ。
■高度な「分析ツール」が勝手に仮説の精度を上げてくれるのか?
なぜエクセルで十分なのか?
理由は簡単だ。エクセルで分析したほうが効果効率的だからである。
そもそも分析というのは、仮説を検証するときに行う。仮説立案のときには、使わない。仮説を立てるのは人間だ。その仮説の精度を上げていくときに分析が必要なのだ。
しかし高機能な分析ツールを入れると、遊び半分に分析から始めてしまう。大量のデータを入れて、いろんなパラメーターを触って分析をしようとする。
つまり分析が「目的」になってしまうのだ。当然、手段と目的がぐちゃぐちゃになるので、本質から外れた仮説が出てしまったり、仮説が一つにまとまらなかったりする。
人間が見つけることのできない失敗パターンや成功パターン、想像もできない相関関係を、高度な分析ツールなら見つけてくれるに違いない、と思い込んでいる人がいる。
膨大な量の販売データを使ってRFM分析するというのならともかく、ビジネスの現場において分析する場合は、このような大量のデータを扱う必要性はほとんどない。
ビジネス上におけるほとんどの問題は、すでにパターン化している。そのパターンを学べば仮説は立てられるのだ。
だからその仮説を検証するために分析をして証明していけばいい。その際に、確証バイアス(自分の都合のいい情報のみを集めてしまうバイアス)にかからないよう、満遍なくデータを集めることだけを注意する。
キチンと仮説を立てられれば、エクセルで十分だ。縦軸と横軸にどのような「切り口」でデータを表現すればいいかを吟味し、その「切り口」のパターンを3回から4回組み合わせれば、さすがに仮説が間違っているかどうかの検証ぐらいはできる。
それぐらいのスキルはあるが、それでもエクセルでは不十分だという場合に限って、高度な分析ツールを導入すべきだろう。
ツールはあくまでも道具である。
記事「本当は怖いDX 政府とIT企業がひた隠しにする不都合な真実とは?」に書いた。それなりに運転ができ、レース経験のあるドライバーになら高性能のスポーツカーを与えてもいい。しかし初心者ドライバーには、まだまだ訓練が必要なのだ。
まずは仮説検証スキルを磨くことだ。それがないと、IT企業の営業にそそのかされて導入したツールが有効かどうかの検証もできない。
<参考記事>