あなたが気になった水難事故は?今夏の特徴をまとめてみると3つのキーワードが
7月から8月にかけての夏休み期間中、今年も残念ながら水難事故が続き、痛ましいニュースが連日報道されました。その中で、あなたが気になった水難事故はどのようなものだったでしょうか?今夏の特徴をまとめたところ、キーワードとして子供・同時多発性・外国人が浮かび上がってきました。
この記事を執筆するにあたりテレビや新聞に掲載された事故の記事を全て拾ってまとめてみました。その結果は次の通りです。
水難事故件数 97件
死者・行方不明者数 86人
うち中学生以下子供 10人
この夏の死者・行方不明者数などは、9月中旬に発表される警察庁の「夏季における水難の概況」まで確定しません。水難事故のすべてが報道されるわけではないので、実数はこれよりもさらに増えると思われます。
子供の水難事故
中学生以下の子供の水難事故が目立ちました。その中でも今年は、プールで発生した事故にインパクトがありました。報道段階で重体であった事故も含めると合計4人の子供が重大な事故に巻き込まれました。
中でもお盆休み中に都内レジャープールで発生した死亡事故は連日報道されたので、記憶に残っている方も多いかと思います。「警視庁の発表によると発見時ライフジャケットを着用していた」と報道され、ライフジャケットの信頼性に議論がすり替えられた感がありましたが、本質は「監視は死角を作らない」という大原則が守られていたのか、というところにあります。シーズンが終わった今、全国のプールで「監視の原則」について今年の夏に意識されていたかどうか、今一度、検証が必要です。
子供の救助に向かった親等が亡くなり、子供が助かった事故報道も目立ちました。「沖に流されたら、どうして大人が犠牲になる?そうなるのが水難事故だ」でも解説したように、浮き輪につかまった子供が流されて、それを親親戚が追いかけて沖に出てしまい、いざ浮き輪ごと引っ張って戻ろうとしたら途中で力尽きた例です。もともと岸から離れる方向に流されているわけですから、元の岸に戻るにはその流れに逆らわなければなりません。そうすると2倍、3倍ではきかない体力が求められるわけで、力尽きるのも当然です。今年は海ばかりでなく、川の現場でも子供を救助しようとして合計4人の大人が命を落としました。
高知県南国市の水難事故では、7歳男児が犠牲になりました。男児は友達4人と川岸で遊んでいて、複数の報道によれば、なにかのきっかけで男児がラッコ浮きをしながら沈み、それを見ていた他の3人はただちに119番通報することなく、帰宅したとのことです。
これは昭和の時代にはよく聞いた話です。友達が溺れて、それをどう表現していいかわからず、言い出せなかった。そして、行方不明の子供の家で「子供が帰ってこない」と騒ぎになり、一緒に遊んでいた子供たちを問い詰めると、そういうことだったのです。
今の50歳代から上の年齢の消防職員はそういうことをよく知っていて、この20年ほどの間、119番等の緊急通報教育を、例えば学校で開催されるういてまて教室で実施してきました。その中で寸劇も使いながら 「子供が119したっていいのだよ。説明できなくても、電話で助けてっていうだけで消防のおじさん、おばさんが助けにいくよ」と子供たちに伝え続けています。長年にわたる全国の消防職員等の地道な努力があったからこそ、高知で起こったような通報遅れは最近なくなりました。でもそれが起こってしまった今、教育現場で絶やすことなく行うべき教育はなにか、大人の責任として検証が必要ではないでしょうか。
同時多発性の水難事故
今年の夏はお盆直前に台風10号が小笠原諸島近海に停滞しました。まだ遠くだから雨風の影響はないと安心しきった状態と、最長で9連休となるこの機会に海に出かけた人が多かったことが災いして、特に8月11日に水難事故が集中しました。
この日は神奈川県にある相模湾で水難事故が多発しました。朝7時過ぎに三浦の海岸で男性が海に落ちて行方不明、昼前には小田原で母娘が海に流されて母親が死亡、午後1時頃には、真鶴の海岸で少年が溺れました。さらに、相模湾から東に遠く離れた千葉県勝浦市の勝浦湾ではお昼前にいきなり襲ってきた波が引く際に、40人が流されて、男性1人が死亡しています。
これらの事故に共通するのが土用波です。土用波はこの時期に太平洋遠くにある台風付近からやってくるうねりのことです。晴れて穏やかな天気なのに、大きな波がやってきて、船が転覆したり、人が流されたりするので、昔の人が土用波と名前を付けて毎年警戒していたのです。今回の土用波は小笠原諸島近海にあった台風10号付近からやってきているので、南に口を開けている湾において、特に被害がありました。このような全国の複数の湾に大きなうねりが到達する時間はほぼ同じなので、同時多発性と表現しました。日本列島の広範囲にわたってほぼ同時刻に多くの人に影響を及ぼすのです。
台風10号が本州に上陸後さらに北海道方向に向かった後に、福井県美浜町で大きな事故が発生しました。「美浜町の水晶浜海水浴場近くの岩場で多くの海水浴客らが孤立した事故は、浜辺を泳いでいた人が高波で流されたり、岩場に渡っていた人が波が高いため、戻れなくなったりして身動きが取れなくなったとみられる。(出典:中日新聞8月19日)」11日に発生した40人が流された勝浦湾の水難事故と、この記事にある25人が流された美浜町の水難事故とでは、事故の状況が似ています。すなわち、「台風からのうねりによる水難事故は、太平洋側でも日本海側でも注意しなければならない。」
外国人の水難事故
この夏、報道記事上で水難事故の死者・行方不明者数が86人だったのに対し、亡くなったり、行方不明になったり、重体となったりした外国人は11人でした。法務省によるとわが国の在留外国人数は平成30年度末で2,731,093人です。日本の人口の約2%強に匹敵する外国人が暮らしている中で、報道数なので不確定ではありますが、多かったように感じます。
内訳をみると次の通りです。
- 7月26日 沖縄県那覇市で香港から旅行に来ていた4歳女児が海水浴中に溺死
- 8月4日 茨城県鉾田市で58歳ブラジル人派遣社員男性がヘッドランド付近で遊泳中溺死
- 8月4日 静岡県静岡市でインドネシア人建設作業員20歳と21歳の男性2人が川で遊泳中溺死
- 8月9日 沖縄県今帰仁村でイギリスから旅行に来ていた58歳男性が海水浴中に溺死
- 8月10日 徳島県徳島市で40歳農業技能実習生中国人が川で溺れ重体
- 8月12日 愛知県蒲郡市で5歳ベトナム人男児が川で遊泳中に溺れ重体
- 8月12日 岐阜県岐阜市で23歳パキスタン人男性が川で遊泳中に溺死
- 8月12日 茨城県鹿嶋市で25歳男性と23歳女子学生のいずれもベトナム人がヘッドランド付近で浜から海に流され、女性は死亡、男性は行方不明
- 8月18日 富山県富山市で36歳派遣社員ブラジル人が海に行くといったまま行方不明
旅行客もいますが、技能実習生や学生のように中長期にわたって日本に在留している外国人も見られます。
鹿嶋市のヘッドランド近くでは毎年水難事故が繰り返されるため、遊泳禁止の看板がベトナム語を含めて各国語で書かれて設置されています。ただし、遊泳禁止であるから浜にいれば大丈夫という思い込みはベトナム人ばかりでなく、日本人にもあるので、新しい注意喚起が必要でしょう。
この事故は状況から戻り流れが原因だと考えられます。戻り流れとは、比較的大きな波が砂浜海岸を駆け上がった時、それが戻るときに低めの所に集中してできる流れで、足首程度の深さにも拘わらず秒速5 mにも達するほど強烈です。砂浜にいて泳ぐ気がなくても尻もちをついたりするとウオータースライダーのように沖に瞬間的に運ばれます。
異国の地で生活している人々にとって、不慮の事故によって命を失うことになれば、家族ともども運命が大きく変わることになり、その影響は計り知れません。水難学会では東南アジア各国を中心に数千人規模でういてまて教室で指導にあたる指導員を養成してきました。その指導員たちが「UITEMATE(ウイテマテ)」と掛け声をかけて、毎日のように各国で溺水予防に取り組んでいます。そういった予防教育が奏功し、わが国において外国人の溺死が撲滅される日が来るかもしれません。
おわりに
シーズンが終了し、今年の記憶がまだ新しいまま残っています。この時期に事故や重大インシデントの解析を行い、来年度のシーズンであらかじめ対策がとれるようにしたいところです。特に遊泳プールにおける監視の原則、すなわち「監視の死角を作らない」については、ソフトとハードの両面において徹底して検証・改善されることが期待されます。