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子どもの水難事故死を防ぐ「ういてまて」 今すぐできる小学生向けの教え方

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
親子ういてまて教室の様子(筆者撮影)

「浮いて待つ」ことで亡くなる子どもが激減

 まず、図1を見てください。これは1999年から2018年までわが国で水難事故により命を落とした、あるいは行方不明となった中学生以下の子供の数です。1999年には119人だったのが、2018年には22人に減少しています。特に、ここ数年間はその数が激減しています。一方で、水難事故に遭う子供の数は毎年200人前後で、実はそれほど大きく減少していません。どういうことかというと、毎年約200人の子供が水難事故に遭っている中で、そのほとんどが浮いて救助を待つことができるようになったため、亡くなる子供の数が激減したのです。

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図1 警察庁 水難の概況から作成した子供の死者 行方不明者数推移

全国8割の小学校で「ういてまて教室」を開催

 浮いて救助を待つ技能を教える、ういてまて(着衣泳)教室のシーズン真っただ中です。水難学会では、今や全国の小学校約20,000校のうちの8割で実施されていると推定しています。その多くは夏休み前に集中するため、今頃の時期は、全国で毎日1,000校くらいがういてまて教室をプール実技の時間を使って開催している最中だと思います。

 具体的には、図2に示すような「背浮き」と呼ばれる技能を習得します。このような姿勢で安定して浮くことができれば、救助が来るまで呼吸をしながら待つことができます。服を着て、靴を履いて、力さえ抜けば誰もがこのような姿勢をとることができます。学校では、教わる側の子供にとっては比較的簡単な技能ですが、教える側の教師には少し難しい面があります。なぜなら、いざというときに実践できるように教えるにはコツが必要だからです。コツはキチンと勉強したほうが良くて、見よう見まねで子供に教えると、「どうも、何か重要なことが伝わらなかったな」という後味の悪さが残り、頭を悩ますことになりかねません。

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図2 幼稚園児の背浮き(筆者撮影)

 そこで今回は、いますぐ役立つ、ういてまて教室の教え方の極意を、特に教師が学校で教えることを意識して伝授します。まず、ういてまて教室のめあてを「万が一のとき、浮いて呼吸を確保し、救助を待つ技能を習得する」ことにします。要するに、水難事故に遭っても呼吸することができれば、すぐに命を落とさずに済みます。このことを単純明快に、先生の言葉で児童に伝えてください。

いよいよ入水

 水着・スイムキャップ・ゴーグルのいつもの3点セットに加えて、長そで長ズボンの上下、よく洗ったサンダルか靴、ふたのついた2リットルくらいのペットボトルを準備してプールに向かいます。水着の上に長そで長ズボンの上下を着用、よく洗ったサンダルか靴を履いて、準備運動した後シャワーを浴びて、バディーシステムで点呼をとり、いよいよ入水します。

 入水はとても重要な技能です。図3のように、プールサイド側に顔を向けた状態で、足から静かに入ります。子供の水難事故のほとんどは、水の深さを確かめずに入水したため起こります。つまり、水辺に到着してその直後に悲劇に遭うことが多いのです。そのため、小学校でも、中学校でも、教室を始める際に全学年にて入水方法を徹底して教えてください。

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図3 入水の仕方(筆者撮影)

 次に、実技の内容を小学生を低学年・中学年・高学年に分けた場合で説明しましょう。45分の中で行うことを想定しています。

1.低学年 ~まずは水慣れから~  

 水慣れを目標に実技を組み立てます。まず水中じゃんけん、鬼ごっこ、宝探しなど、着衣の状態で体を動かすことに慣れます。これらは足の届くところで、慌てずにウエイディング(水底歩き)をして岸に戻るための初期訓練となります。次に浮き具をもった背浮きの練習です。ペットボトルあるいはビート板をおなかのあたりに抱いて、背浮きになります。教師が補助者となって、背浮きの補助をします。最後に退水です。プールからプールサイドに這い上がるように体を陸にあげていきます。水中では重さを感じなかった服が一番重く感じる時です。冷たい水から脱出するときの重要な技能となります。

2.中学年 ~安定した背浮きを~

 安定した背浮きを目標に実技を組み立てます。まず浮き具をもった背浮きの練習からです。児童同士でバディーを組み、お互い補助者役と実施役に分かれてペットボトル背浮きになります。その後、補助者役が補助を外し、実施役のペットボトルをそっと取り去ります。そうすれば、簡単に背浮きに移ることができます。次に、プールの中で全員でぐるぐるウエイディングで回りながら、プール洗濯機をします。流れができてから、逆行するのもよし、流れにのって背浮きするのもよし、いろいろと実技を組み合わせることができます。そして、プールの中にプールフロアを沈めて段差を作ります。プールフロアからウエイディングでこの段差に沈水します。そこから浮上して背浮きで救助を待ちます。

3.高学年 ~実践形式で~

 毎年ういてまて教室で訓練されていれば、高学年ではほぼ全員が背浮きができるようになります。はじめに5分間の背浮きをして、実力を確認します。自信がない場合はペットボトル背浮きでも構いません。次に、バディーとなり、1人が転落役、1人が救助役となります。安全を確認した後、転落役が足からプールに転落します。そのまま背浮きで救助を待ちます。救助役は「ういてまて」と叫び、周囲の人に「119番お願いします」と通報を依頼します。空のペットボトルを浮いている転落役に投げます。もし投げ渡せなくても、「ういてまて」とだけ声をかけて、次のペットボトルを探します。ペットボトルが渡せなくても、安定して浮いていれば、救助役の「ういてまて」の掛け声だけで充分です。

 教室が終了しましたら、今一度ういてまて教室のめあてを確認してください。今年の夏休みも事故なく楽しく過ごすことができるように、みんなで決意するといいと思います。最後に、シャワー、うがいを経て教室に戻ります。

おわりに

 ういてまての技能は、万が一の時に役立つようにしたいものです。水難事故に遭わなければなおさら良いです。今年の夏休みを前に、水難事故について、ぜひ子供たちと話をし、万が一に対する訓練をするのはいかがでしょうか。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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