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大谷選手が罪に問われる可能性は?「大スキャンダル」と結婚報道スルーの有力紙も一斉報道

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
水原氏の解雇の翌日。左は臨時通訳のウィル・アイアトン氏。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏がらみのニュースには、非常に多くの米メディアが注目している。

大谷選手と言えばつい先日まで飼い犬から電撃結婚&新妻公開とほのぼのした話題が中心で、西海岸のメディアやスポーツ紙にたびたび取り上げられていた。ただし野球という「ごく限られた業界」のスター、しかも外国人選手ということもあり、遠く東海岸の有力紙は結婚報道はほぼスルー状態だった。例えばワシントンポストはオリジナル記事ではないAPの記事転載にとどまり、ニューヨークタイムズやウォールストリートジャーナルでは記事にさえなっていない。

しかし今回の事件で明らかに潮目が変わったと感じた。結婚の時に見向きもしなかったこれらの有力紙が、この違法賭博事件について一斉に報じた。

この事件はアメリカでは一大スキャンダルに発展している。

金額が破格で事件性が高く、野球界の大スターを巻き込んでいることから、今回ばかりは各有力紙も放っておけないようだ。

野球界最強スターに驚愕スキャンダル

「野球界最強のスターに渦巻く驚愕のスキャンダル」と、まるで日本の週刊紙のようなセンセーショナルな見出しで報じたのは、21日付のワシントンポストだ。

「21日(水原氏解雇の翌日)、大谷選手のレガシーは永遠に変わってしまった。しかし汚されたという意味ではない。ニュース速報から1時間以内で、ドジャーススタッフの受信箱は彼の通訳になりたいという応募でいっぱいになった」と同紙。

このほかに、代理人が大谷選手を「大規模な窃盗」の被害者だと主張していることについて触れつつ、今後の争点になりそうなポイント、つまり大谷選手が水原氏の借金を知っていて返済のために意図的にお金を貸したのか否かが現時点では不明だとした。

大谷選手の状況は薄暗く不透明

結婚報告を完全スルーしていたニューヨークタイムズもこの事件を取り上げた。

21日付の記事で「スポーツリーグはギャンブルに関して選手以外にも注意しなければならない」と、賭博事件は選手のみならずコーチなど関係者にとってもリスクになりうると、注意喚起した。

「選手や関係者による内部事情を利用したギャンブルは、健全なスポーツイベントへの最大の脅威だけでなく、もっとも困難な捜査になる事件の一つ」という、ニューヨーク州賭博委員会の専門家のコメントを紹介。

同紙は、大谷選手の状況や今後の詳細は非常に薄暗いまま(murky=暗く靄がかかっているように不透明)であり、彼と水原氏は長年の親交があったため水原氏が大谷選手の内部情報を自身のギャンブルに利用できたのではないかという不快な疑問が生じるとした。「例えば登板予定日に投手の体調を本人以外によく知っていた人物は誰だろうか?」と、別の角度から疑惑を提起した。

NFLの選手や関係者が関与した同様の事件を紹介しながら「水原氏のみならず、違法賭博にまつわるプロスポーツがらみの事件は今後も続いていくだろう」との見解を示した。

大谷選手が処罰される可能性は?

3大ネットワークの一つCBSニュースは、「大谷選手は通訳の賭博スキャンダルで処罰される可能性はあるのか?」という記事を、法律やMLBルールを知る専門家の意見を交えて発表した。

「大谷選手の弁護士は、水原氏が違法賭博の借金を返済するために大谷選手から数百万ドルを盗んだとして告発」と紹介し、水原氏がESPNの取材から1日で供述を変えた事実を踏まえ、このように説明している。

「大谷選手自身が賭博をしていたとか、水原氏が賭博をしようとしていることを前から知っていたとかそういった証言はないものの、自発的か否かにかかわらず、彼の明らかな関与は疑問を引き起こしている」

大谷選手が法的な問題に直面する可能性について、CBSは専門家の意見を交えてこのように伝えている。

「水原氏の19日(大谷氏の関与)と20日(大谷氏の関与を否定)のどちらの話が真実かによって、大谷選手の過失(culpability)が決まる可能性がある」

この専門家によると、例え水原氏の借金の肩代わりであっても大谷選手が故意に水原氏もしくは違法ブックメーカーに直接送金をした場合、借金の回収を手伝った=違法賭博業者の取り立てに加担したと見なされることもあるという「可能性」が指摘された。「大谷選手が状況を知り了承しそれで行ったとしたら、非常に分が悪くなる」。

ただしこれは、大谷選手自らが送金した場合のみ適用になると言う。大谷選手の弁護団の主張通り、もしお金が「盗まれた」のであれば、共犯者と見なされない。

またこの専門家はこのようにも述べた。「私が理解できないのは、なぜ弁護士が(19日の段階で)全員に黙るように通達しなかったのかということです」。

今後は、大谷選手の弁護団の手腕を信じるしかないだろう。

ニューヨークタイムズやCBSニュースによるとアメリカでは今年、スポーツ賭博が合法となるのは38州に達することが見込まれており、年々アクセシビリティが高まっている。スポーツ賭博人口は増加し、昨年スポーツ賭博をした人の数は2018年から23年の5年間で約2500万人も増えた。また、合法的なスポーツ賭博に賭けられた金額は1200億ドル(約18兆円超)に上る。一方で250万人もが、ギャンブル依存など重度の問題を抱えているという。この事件で改めて注目されるようになったアメリカの深刻な社会問題の一つと言って良いだろう。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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