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大谷選手は彼を金銭面で信じていなかった。水原氏コメント撤回の詳報(現地報道)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
長年大谷選手を支えてきた水原氏だったが...。(写真:ロイター/アフロ)

大谷翔平選手の通訳・水原一平氏が、MLBの所属チームのドジャースから20日の試合後に解雇されたと報じられた。この突然のニュースに日米の野球界やファンの間では激震が走った。解雇の理由は、水原氏が違法賭博に関与したことによるものだと、米メディアは報じている。

「突然解雇」が普通にあるアメリカ

「解雇」や「即日解雇」自体はアメリカでは普通にありえることなので、筆者は特に珍しいこととは受け止めていない。私が以前勤務していた企業でもある朝、代表者が弁護士を伴って問題の従業員の前に現れ解雇通告、なんていうことがあった。SNS上で問題発言をした者でさえこの国では情け無用でそのように処分される。大谷選手を何としても守りたい球団側は、水原氏の即日解雇により白黒はっきりさせた。よってこの度の突然の解雇劇は個人的に「実にアメリカらしい出来事」だと感じた。

ただし大谷選手を長年支え、ファンの間でも人望が厚い人物として知られていた水原氏が突然解雇処分となり大谷選手とチームのもとを離れたこと、そして解雇の理由や関連する額の大きさによる衝撃は大きかった。

同時に点と点が線で繋がった気もした。思えば、2月3日にドジャースタジアムで開催されたファンフェスタで、司会者から2人の関係性をどのように築き上げたのかと聞かれた大谷選手は少しはにかみながら「ここはビジネスの関係なので。友だちではないですけど(水原氏は一瞬顔を背ける)。割り切って付き合っています」とコメント。この時、筆者は不思議に思った。水原氏自身がこの辛辣なコメントを訳すということで場は笑いに包まれ、SNSでは大谷流のジョークなどという意見もあったが、筆者はあのような公の場で大谷選手がわざわざバディ(もしくはカリーグ=同僚と呼べる仲間)との間に壁を作る発言で線引きをしたことが引っかかっていた。また最近の水原氏は集中力に欠けることがあり、両氏のやり取りが噛み合っていないシーンも目にするようになって、2人の関係性が少し気にはなっていた。

そして20日、このニュースだ。

事件の内容が伝えられる中で、水原氏が米スポーツ系メディア、ESPNの取材に対して一度は大谷選手の関与を示す発言をしたことが報じられている。具体的には「ギャンブルで少なくとも450万ドル(約6億8000万円)に膨れ上がった借金を抱え、その返済の手助けを水原氏が大谷選手に依頼した」「当然彼はよく思っていなかった」が、二度とやらないことを条件に「私を助けると言った」「(大谷選手は支払いのため)彼自身のコンピュータにログインし、自分の指示の元、昨年数ヵ月に分けて送金した」「送金の名目として『ローン』と記載した」などという趣旨の内容を、水原氏が取材で答えたとある。

しかし翌20日になり、大谷選手の代理人事務所の広報担当者がESPNに対し、「水原氏の発言を撤回」「水原氏も、大谷選手は自分のギャンブルや借金、その返済について何も知らないと、前日の取材で話した内容を否定した」というのだ。

この辺がわかりにくいので、ESPNの件の記事を確認してみた。

ロサンゼルス・エンゼルス時代。大谷選手は渡米間もない頃で少年のような印象。この頃から一心同体のような2人だった(2018年2月13日)。
ロサンゼルス・エンゼルス時代。大谷選手は渡米間もない頃で少年のような印象。この頃から一心同体のような2人だった(2018年2月13日)。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

大谷関与の発言を水原氏が翌日に撤回

そもそもこのESPNのインタビューというのは、水原氏が解雇日の前日(19日)夜、90分間の取材に応じたものだった。

まず記事には、このように書かれている。

「大谷選手の長年の友人であり通訳の水原氏が職を失うに至った経緯は、ワイヤートランスファー(電信送金)に関する記者たちの質問からだった」

「今年1月、連邦捜査当局が南カリフォルニアの違法ブックメーカーを運営するマシュー・ボウヤー氏を捜査する中で大谷氏から電信送金があったことが明らかになった」

「ESPNは昨年9月と10月に送金された2回の50万ドルの支払いにShohei Ohtaniの名が記載されている情報を調査していた」

「ボウヤー氏の自宅は昨年10月に連邦当局によって家宅捜索された」

そして水原氏の発言撤回についてなのだが、以下のような経緯だ。

まず記事には、当初(19日の時点)「大谷選手の広報担当者はESPNに対して、大谷選手が水原氏のギャンブルの借金を補うために資金を送金したと語った」「電信送金は大谷選手の口座からボウヤー氏の関係者側になされた」とある。

しかし同日夜から翌20日にかけて事態が急転した。

20日にESPNがこの記事の掲載準備をしていたところ、大谷選手の広報担当者が水原氏の前日の発言内容を否定し、大谷選手の弁護団が声明を発表すると述べたという。そして大谷選手の弁護を担当するバーク・ブレトラー法律事務所が「メディアの取材に応じる過程で、我々はショーヘイが大がかりな(違法賭博に絡む)窃盗の被害者であることが判明したため、この問題を当局に引き渡すことにした」と発表した。

広報担当者はそれ以上の質問に答えることを拒否し、声明では窃盗容疑の実行犯が誰かについては明らかにされていない。水原氏自身も20日午後(バーク・ブレトラー法律事務所の発表後)には、「窃盗容疑で告発されたのか」というESPNからの質問にもノーコメントを貫いた。

記事によると、スポーツ賭博は約40州で合法だが、ドジャースの本拠地カリフォルニア州では違法だ。また政府によって規制されているスポーツブックでは賭け金の前払いを要求しているが、違法なブックメーカーは賭け金のクレジット(貸付け、後払い)を受け付けていることが問題だという。

水原氏とボウヤー氏の出会い

記事によると、水原氏はボウヤー氏と2021年、サンディエゴのポーカーゲームで出会い、以降直接やり取りをしていたそうだ。その頃からサッカーの国際試合やNBA、NFL、大学フットボールなど野球を除くスポーツ試合でクレジットで賭け事をするようになった(MLBの選手と従業員は“野球以外”のスポーツに賭けることは許可されているが、違法なブックメーカーは許可されていない)。22年末には水原氏の損失は100万ドル以上になり、そこからさらに雪だるま式に負債が膨れ上がっていったという。

またボウヤー氏も、野球界の大スターである大谷選手の名が自分の顧客リストの中にあることを知り、ビジネスを促進させるためにその名を利用していたとも伝えられた。

負債の支払いの際、大谷選手が水原氏にお金を渡さず、なぜボウヤー氏に直接支払ったのかについて、水原氏は「(大谷選手は)お金に対して自分を信じていなかった」と語ったことも伝えられた。

通訳で4500万~7500万円の収入があったが...

この記事によれば、水原氏は大谷選手の通訳で年間30万ドルから50万ドル(約4500万~7500万円)の収入があったそうだ。

この問題について弁護士や捜査官が介入する事態となった今、日本のような釈明のために記者団を集めて行う「会見文化」がないアメリカでは、大谷選手や球団関係者、水原氏、ボウヤー氏がこの事件について今後マスコミにコメントすることはないだろう。

先般の電撃結婚や新妻に関しての過度なアテンションから一転、長年のサポーターであった仲間の解雇、そして違法賭博関与疑惑、窃盗被害と飛んだとばっちりを受けている大谷選手。これほどの成功者となれば、お金に関する周囲からの裏切りやいざこざもつきものだと、筆者は今、別の米系アーティストの記事を書きながら改めて感じているところだ。この問題が一刻も早く解決し、大谷選手が本業の野球に落ち着いて向き合い、さらに活躍しますように!

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、著名ミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をニューヨークに移す。出版社のシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材し、日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。

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